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扉を開くと、そこにはこじんまりとした部屋があった。

路地同様に薄暗く、部屋の空気は生温い。


一歩踏み込むと、後ろでパタンと扉が閉まる音がした。

慌てて振り向いて扉に手をかけると、ぽぅ、と周りが明るくなる。

天井から外にあったものと同じ、橙色に発光する球体が吊るされていて、いつの間にかそれが部屋全体を淡く照らし出していた。


「おや、久しぶりのお客さんだね」


声の主は、部屋の中央の椅子に座る老人だった。

黒いローブにフードをすっぽりとかぶり、皺の深い口元に笑みを浮かべている。

男か女か、判断するのは難しい容貌だった。


リツはただただ驚いて固まっていたが、はっとして、老人に話しかけた。


「あの、ここは……なにかのお店ですか?」


灯りをどうやってつけたのか、そもそもここに繋がる路地はもともとあったものなのか等、聞きたいことはたくさんあったが、口をついて出たのはそんな言葉だった。


明るくなった部屋は、薄暗い時よりも異様な空気を醸し出していた。

原因は、広くはない部屋の壁を隙間なく埋めるいくつもの扉だった。


真新しいペンキの塗られた扉に、勇ましい獣の姿が彫られた扉、リツがやっと一人通れるような幅の縦長の扉に、両開きの重厚な扉。

他にも様々な扉があり、一つ一つが圧倒的な存在感を放って壁を飾っている。


扉に目を奪われているリツに向かって、老人が再び口を開いた。


「ここはお嬢ちゃんが真実求めるものを、手に入れられる場所だよ」


リツはその言葉をすぐには飲み込めずに、首を傾げる。


「……なんでも欲しい物が買えるってことですか?」


「そう、なんでも。買うというより交換と言った方が正しいがね。まぁ概ね似たようなもんさ」


交換?と一瞬疑問に思ったが、似たようなものだということは、ここはどうやらお店のようだ。


それにしても、困ったことになった。

欲しいものと言われてもリツには特に思い浮かばない。

そもそも、今日は買い物をする予定はなかった。


久しぶりの客だと言っていた老人には申し訳ないが、正直に謝って早く店を出よう、そうリツは考えをまとめて口を開こうとした、その時。


ふっ、と部屋の明かりが落ちた。


「え?!」


リツは突然の暗闇に、とっさに動くことができなかった。

広くはない部屋に、老人の声が不自然に大きく響く。


「扉を開いたその先に、お嬢ちゃんの真実求めるものがあるよ」


声が途切れると同時に部屋が淡い橙色に包まれる。

老人は姿を消していた。

あとには誰も座っていない椅子が、ぽつんと残されているだけだった。




一人部屋に残されたリツは、呆然とした。

この部屋に辿り着いてからのわずかな時間で驚くことが多すぎて、頭が全くついて行かなかった。




しばらくして、ようやくなけなしの思考力を取り戻す。

そして思った。

早く家に帰って温かいスープを飲もう、と。


ここで起こったことがなんであろうと、まずは帰るのが先決だ。

落ち着いてから考えたって遅くはない。


リツは入ってきた扉の取手に手をかけて、力を込めたーーはずだったが、押したはずの扉はぴくりとも動かない。


さっと背筋に緊張が走る。

古びた扉を壊さないように、弱めに押したのがいけなかったのだろうかと、今度は思いっきり押してみた。

しかし扉は相変わらず、ぴったりと閉じたままだった。


焦ったリツは今度は扉をばんばんと叩く。

壊してしまっても、この際しょうがない。

ここから出られないほうが問題だった。


何度も叩いて、叩いて。

それでも扉は壊れなかった。

壊れるどころか、はじめに見た時と変わらない様子で外とこの部屋を頑なに隔てている。


リツはそこで初めて、閉じ込められたのかもしれないことを実感した。

思わず焦りに飲み込まれそうになる。


リツは落ち着くために、深呼吸をした。


何度か吸って吐いてを繰り返しているうちに、だんだんと焦りが引いてくる。

落ち着いたところで、部屋をぐるっと見渡した。


この部屋の壁は、扉で埋め尽くされている。

扉は全部で十二あった。


試しに近くの扉の取手に手をかけて、押したり引いたりしてみた。

入ってきた扉が開かないということは、他の扉も絶望的だと頭ではわかっていたが、もしかしたら。


リツは次々に扉を確かめていった。


一つ、二つ、三つ。

開かない。


四つ、五つ、六つ。

開かない。


七つ、開かない。

八つ、開かない。


そして九つ目の扉。

四隅に花の彫刻が施された、小さめの木製の扉。


リツは汗ばむ手のひらで丸い取手を握って、体重をかけて一気に押した。


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