雛と決戦 その1
「この霧の濃度は…おい!きさの、所長を呼べ!緊急事態だ。それと一緒に避難コード1782発動許可を取ってこい‼︎」
「はい!」
いつも、タバコくさい煙さんの研究室を後にする。
廊下に私の足音が響きわたる。
「非常事態警報。非常事態警報。職員は各自マニュアルにそって行動してください」
「え?なに?」
部屋が赤い光につつまれている。
「雛さん!」
「きさのちゃん!ねぇ、これどうしたの⁉︎」
「非常事態宣言です。魔女霧の濃度が計測値をオーバーしました」
「オーバー…」
「はい。それにともなって避難コード1789が発動されました」
「てことは…」
「はい!」
そう言ってきさのちゃんは鴉をさしだしてくる。
「あたしに戦えってことだよね」
「はい!がんばってください。あと、こっちのやつに着替えてください」
きさのちゃんがガサゴソとスカートから取り出したのは学校の制服だった。
なんで制服?てかなんでスカートから出したの?
「えっとこれはですね、強化制服です」
「強化…制服?」
「はいようするに丈夫な制服です」
「…」
「こちらとしては雛さんにがんばってもらうのは大変うれしいんですけど、毎回毎回服をボロボロにするのはちょっと…」
「いまそれをいう?」
「このタイミングしか思いつきませんでした」
「…そうですか」
ため息をつきながら、黒いジャージを脱いで強化制服に着替える。
「あんま変わった感じしないな」
「なんたって魔女庁武器管理課の自信作ですから」
「へぇー」
「邪魔だぁぁぁ!」
あれから一時間後。
町に出たあたしが見たのは、徘徊する魔獣と魔女の大群だった。
「きぎゃぁぁ!」
犬型の魔獣を吹き飛ばす。
「はぁはぁ…まだ終わんないの?」
何十体目かの魔女を切り捨てながら、あたしは呟く。
その時、上から視線を感じる。
「よぉ佐藤 雛さん」
「…狭山!」
「こんな数の魔女殺したんだ。凄いね」
「ふざけんな。今度は何すんの?」
「簡単なことだよ…お前を殺すんだよ」
「…!」
狭山が右腕を空へ伸ばす。
「我神の依り代と成るモノ。彷徨える魂よこの手に…集まれ‼︎」
おかしい…いつもの狭山じゃない。
「おや?もう、気づきましたか?」
「なっ!」
いつの間にか、後ろに白衣の男が立っていた。
「いやいや、いまは戦う気はないですよ。それより大丈夫なんですか?狭山のこと」
「あっ!」
狭山を見ると、身体の左半分が青白く光額からは鹿の様な角が生えていた。
「実験成功…か」
「あれって…なんなの?」
「興味がありますか?あれこそ神の依り代の為の儀式…魔女化です」
「魔女…化?」
「要するに魔女との同化です」
「そんなことできるの?」
「できますよ…神ならね」
「さっきからさぁ、神ってなんな…」
振り返ったとき、すでに白衣の男は消えていた。
「で…アレどうしようかな…」
その瞬間、狭山の右腕に霧が渦を巻いて集まっていく。
そして、晴れ渡った夜。
月を背負って、狭山が純白のナイフを持ちながら電線の上に立っている。
「死ね…佐藤 雛」
「なっ!」
一瞬でふところにもぐりこまれる。
そして、そのまま切り裂かれる。
それと同時に記憶が流れこんでくる。
これって…
舩の中…「おい!お前なにやっ…!」
「邪魔だよ…ここかな?操舵室は
よし、これで、全部終わる。じゃあね、佐藤 吉乃」
そして、そのまま舩は落ちていく。
これってもしかして…あの日の…。
だとしたら…。
「ぐはっ!」
切り裂かれたときの衝撃で吹き飛ばされ電柱にぶつかる。
「弱い!弱いよ佐藤 雛‼︎」
あたしは鴉を杖代わりにしてふらつきながら立ち上がる。
「おい…狭山…あの記憶が正しいんだとすれば…お前を殺す‼︎」
「まさか佐藤 吉乃の…あぁ…そういうことか…佐藤 雛…お手並み拝見だ…」
白衣の男が廃ビルの屋上で笑っていた。




