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mini4新世代エアーズ  作者: 歌頭 坤
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Flag-004【まさかの強豪!?FM使いのオンナノコ】

挿絵(By みてみん)


 最近、俺がミニ四駆をぼちぼち弄り始めたことを知った親が、気を利かせてチラシを一枚よこしてきた。それは近くのデパートの催事案内なんだが、その一角に【ミニ四駆キャラバン2008】と銘打つ枠があった。週末、大型のサーキットが来る、というようなことしか書いてないため全容は不明ながら、メーカー公認のイベントとなれば5レーンタイプのコースが来るのは間違いないと思った。普段、おもちゃ売場でミニ四駆のパーツすら置いてないデパートなので意外だったが、デパートは会場を提供してるだけだから、そういうこともあるんだろう。

 昼頃に会場入りすると、それなりの賑わいを見せていた。珍しいことに、特に多いのは小学生以下だ。受付にはキットを組み立てただけのレンタルマシンが多数用意されていて、親と買い物に来て通りがかっただけの子どもでも参加できるようになっている。実際コースを見回しても、自前マシンと見られるものはそう多くないように見えた。これはそもそも、ミニ四駆の普及を第一にしたイベントなんだろう。

 期待通り、コースは公認大会用の5レーンタイプ。ただし、最近の大会でお決まりのテーブルトップはない。直線、コーナー、バンクからなる、いわゆるフラット系のレイアウトだ。しかもレーンチェンジもなく、代わりにバーンルーフチェンジが設置されていた。これはコーナーで右端の第五レーンだけバンクになっていて、降りてくると左端の第一レーンに移るというものだ。コースの建て付けとマシンのローラーセッティングに余程の問題がなければ、どんなに速度を出してもこのバンクで飛ぶことはあまりない。つまり、超高速のレイアウトだ。

「よう、来てたの?」

 不意に声を掛けられ、振り向くと壮太がいた。

「ああ、今な。」

「へぇ、レーンチェンジなしのフラットコースじゃん。これなら飛ばし放題だな。」

 壮太も俺と同じところに目がいったようだ。しかし、一つ難点があった。

「それは、どうだかな。」

 コースは大渋滞の様相を呈していた。特にタイムを計ってるでもないから、子どもたちは構わずマシンを投入する。その結果、十台から二十台のマシンが一度に周回しており、ちょっと速いマシンはすぐにレンタルマシンに追いつき、足止めを食う。正直、この環境はよくない。追突や慣れない人にマシンを止められることで、破損の危険もある。だから大人が少ないってのもあるんだろう。ただ、俺にとってはなんだか懐かしい光景でもある。かつて第二次ブームの頃にはそこかしこのおもちゃ屋や模型店にコースがあって、どこもこんな有様だったのを思い出す。

「じゃ、早速行きますかね。そっちの準備は?」

 壮太はエスペランサをケースから取り出し、ポケットで暖めていた充電池を装填していた。

「オイ、この状況で勝負しようってのか?」

「ここならコースアウトでご破算ってオチもないじゃん?」

「いや、別のオチがある気が・・・。」

 とはいえ、コースが混んでるからって眺めるだけなのもなんだ。俺もドライブウイングを手に、壮太と並んでコース脇に構えた。

「オレがタイミング読むからさ・・・お、行くぜ?レディゴー!」

 急に壮太が発進、わずかに出遅れたが慌てて俺も続いた。メインストレートから右コーナーの後はバンク、それを降りて180°コーナー、そしてバーンルーフのある180°コーナーをクリアし、右コーナーを経てメインストレートへ戻る。お互い走りは快調だった。3レーンコースと比べ、レーン自体の寸法は幅も高さも変わらないが、壁や路面の材質が違うため、パーツの性能、セッティングの効果は幾らか違ってくる。とはいえ、3レーンで速いマシンは5レーンでも大概速い。アウトレーンのカーブが緩やか、壁の材質が固く撓みにくい、路面のグリップがいいなどの特徴から、基本的には3レーン以上に速度が乗りやすいと言われてる。そんなわけで、二周もしないうちにまず壮太が、続いて俺のマシンも先行するレンタルマシンにぶち当たった。

「あー、まだいくらも走ってねーのに。」

「ま、この状況じゃ無理ないだろ。」

 連結した状態で後続する自分のマシンだけ止めるのは困難だ。すくい取れない以上は上から押さえつけるしかなく、それをやるとモーターやギヤがやられる危険が高い。こういうときは前のマシンをすくい上げて、後続車の後ろに戻すのが通例だ。しかし、それをすべき先行車の持ち主は不慣れなことが容易に想像できたから、そんな通例を知らないか、知っててもうまくすくい取れず、結局俺のマシン共々がっつり手で押さえ付けかねない。気乗りはしないが止むなく、俺は他人の先行車を引き上げることにした。

「なぁ、せめてうまく並べられないもんかな?」

 壮太も同じように先行車をどかしながら言う。壮太のエスペランサは俺のマシンの幾らか後方を走っていた。俺は気を利かせて、自分のマシンをすくい取るようにしてキャッチし、少し待ってからコースに戻した。そうして再加速したところへ、壮太のエスペランサがちょうど追いついてくる。

「お、ナイス!」

「せいぜい二周くらいだろうが、少しは競り合えるだろ。」

 俺は進行方向左側の第一レーンから数えて、第二レーンを走っていた。壮太は第三レーン、右回りのコースなので一つイン側だ。二台はほぼ併走のまま周回する。ということは、アウトにいる俺のマシンの方がやや速いことになる。バンクの登りはやはりもたついてるようにも見えるが、他で負けているようには見えない。コースの違いによるものか、あいつのマシンのコンディションがよくないのか。それをまじまじ見る間もなく、再び先行車の渋滞に突っ込んだ。

「埒が明かねぇーな。」

「こういうもんだよ。マシンが無事なうちに一旦引き上げるかな。」

「・・・だな、しゃーないか。」

 キットを組み立てただけのレンタルマシン、しかも荒い扱いでガタも来てるだろうし、おまけに減った電池を積んでれば、速度域はたかが知れてる。そんなマシンが十台も走ってれば、俺らが全快でのびのび走る余地はない。俺のマシンは三台渋滞の後ろについたため、止むなく先頭車をそっと止め、それから引き上げた。

 マシンを片手にバッグを引っ提げ、コースを離れようとしたときだった。俺はふと、コースの向こう側に女の子が立ってるのが目に留まった。髪を首下で一本に束ねてキャップを被った、小学校高学年くらいの子だ。気になったのは、その子がちょっと可愛く見えたからじゃない。道具一式を納めていそうなリュックを肩に掛け、マシンを片手にしたその姿に、ミニ四レーサーに違いない、と思わせるものを直感したからだ。しかも、親とか友達が一緒にいるようにも見えない。そんな年頃で独り者の女の子のレーサーなんて見かけたことはなく、子どもばかりのこの場ですら浮いて見えた。それともう一つ気になったのは、今、こっちを見てたような・・・。

挿絵(By みてみん)

「スーパーFMシャーシか、渋いな。」

 ちらっと見えた手にする青いマシンは、ガンブラスターと呼ばれるものだった。フロントにモーターを積んだSFMシャーシの代表的なマシンだ。ただ、このSFMシャーシというのはとにかく癖ありで、駆動効率が悪く、高性能とは言い難いシャーシの代表格でもある。興味本位で手を出すレーサーも多いから、珍しいというほどでもないが。

「あっちにちっとスペースありそうだな、行こうぜ。」

「ん?ああ。」

 壮太に呼ばれた俺は、その子がマシンをコースに投入するのを見届けないまま、その場を離れた。




 会場は壁際から順に埋まっており、俺らは中途半端なスペースにバッグを降ろした。辺りを見回すと、レーサーズボックスと呼ばれるメーカー製のケースを広げる子が幾らか見受けられた。要はミニ四駆用の道具箱で、上段にパーツを仕分け、下段に二、三台のマシンが入るものだ。透明のボックスで中身丸見えなため、俺くらいの年頃以上になるとあまり持ち歩きたくない代物なんだが。しかし、これもなんだか懐かしい光景だ。

「これ、だいぶ電池弱ってるなぁ。充電するとこないし、参ったね。」

 こういうメーカーのイベントでは、基本的にコンセントは用意されてない。誰も彼も使いたがって取り合いになるのと、充電器の盗難といったトラブルもあり得るからだろう。

「調子よくないのか?」

「・・・いんや。別にパーツは状態悪くなさそーだし、たぶん電池。」

 壮太はマシンをバラして一通り確認した上で、その結論に達したらしい。と、俺は壮太の充電池に目が止まった。見た目は白い被覆だから、てっきり俺のニッケル水素充電地と同じものかと思ってたが、よく見ると若干デザインが違う。そしておもむろに摘んでみて、はっきり違うもんだとわかった。

「・・・やけに軽いな、何だこれ?ニッケル水素じゃないのか?」

「え、ニッ水だけど?・・・ああ、1000mAなんだよそれ。」

「普通2000mAだろ。メーカーは?」

「翔司郎のとおんなじだって。特定のスーパー限定で、エコ商品ってことで売ってるやつ。ガーデン日吉じゃ、タイムアタックはみんなこれ使ってるよ。」

「でも、出力半分だろ?」

「軽いからタイムアタックじゃちょっと有利なんだってさ。・・・でもなぁ、2000mAに比べると長持ちしないから、こうゆうとき困るんだよなー。」

 手で持って露骨にわかるくらいだから、十分タイムに響きうる軽さだ。アルカリより軽いかもしれない。そして、そんな都合のいい電池があるなんてのも初耳だった。どうやら、壮太は俺の知らない技術を色々と持っているらしい。

「その金具磨いてる布、どんだけきれいになるんだ?」

「こんだけ。銅磨きの砥粒とかもともと付いてる布だから、磨くだけでいいんだってよ。」

 銅ターミナルの接点部分は、鏡面の輝きを放っている。俺は普段、コンパウンドという磨き粉を布に塗って、それで磨いているんだが、仕上がりにそう遜色はなさそうだ。布一枚で済むなら、壮太の銅磨きの方がメンテの手際は良さそうだ。

「ところでさ、オレも気になってんだけど・・・そのキッカイなリヤバンパー、何?」

「ん?カウンターブレードのことか?」

 今度は、壮太の方が俺のマシンを指して聞いてきた。あいつが言っているのは、FRPワイドプレートが説明書などとは全く違う取り付け方をしている点についてだろう。このパーツはバンパーの幅を拡張するため、バンパー補強プレートの左右に継ぎ足すように固定して使う。回転性能のいい小径のベアリングローラーを使い、なおかつ車幅を規定上限の105mm近くに広げるにはどうしても必要な装備だ。このFRPワイドプレートにはいくつか穴が開いてるため、イレギュラーな取り付け方もできなくはない。ドライブウイングのリヤバンパーの場合、プレートが前方左右に迫り出すように拡張していて、その先端のリヤローラーはリヤタイヤの横合いに並ぶような位置にある。

「幅、103.5mmくらいだったかな。フロントもそれに合わせて付け方ちょいと変えてる。直線ではフェンスと平行、コーナーではマシンを内側に向かせたくてやってるんだが。」

「フロントとリヤのローラーが幅一緒なのに、なんで内側向くんだ?」

「幅が同じでも、リヤローラーが前寄りだとコーナーではマシンが内向きになるんだ。コーナーにマシン置いて眺めればわかるさ。例えば極端な話、横っ腹の辺りにローラーがあったら確実に内側向くだろ?」

「あ、確かにな。」

 この内向きというのは、正直俺の好みに近いところもある。少なくとも高価なパーツを使わないマシンで比較すると、コーナーで内側を向いた方が速いのは確かだが、本当に速いマシンでこんなことしてる人はあまり見かけない。大昔はスライドバンパーを使い、コーナーのみリヤローラーを引っ込ませることで同じ効果を狙っていたが、ドライブウイングを手にしてからはこっちの手法に切り替えた。特に俺のセッティングは極端な部類で、ワイドプレートでこんな使い方をしてるのは俺くらいなもんだろう。狙いはともかく、この取り付け方だとバンパー自体がたわみやすく、この速度域で安定性を保つのに必要な強度を有していないのも、俺自身よくわかってはいる。

「で、それ速いの?」

「さぁな。俺のマシンはこうしたほうが幾らか速いからやってるが、実際、どんだけ御利益あるかは・・・。」

 俺が言い終わるより先に、会場に放送が響いた。

『れでぃーすあんどじぇんとるめん!誇り高きミニ四レーサー諸君、ようこそミニ四駆キャラバンへ。私は熱きレースの見届け人、ミニ四ノーブルだ!』

『君のソバに、君のトナリに♪耳元のアイドル、声優の近世もよりです!今日はいつになくジュニアレーサーで賑わってますねー。』

「あ、なんだなんだ?」

「ノーブル、いたのか。なんか始まるのか?」

 別に大会でもなく、ただコースを広げただけのイベントかと思ってたから、二人の登場は意外だった。そしてもう一つ意外な展開が。

『さぁ、それでは突然ですが、ここでミニレースを開催したいと思いまーす!五人一組でレースして、トップで完走した方にこちらのLEDで光る星形ペンダントを差し上げちゃいます。』

『レンタルマシンでもメンテ次第で性能は違ってくる。マシンを入念にチェックして、準備の出来たレーサーから列に並んでくれたまえ。』

 正直、ペンダントはともかくとして、これはチャンスだ。

「メンテはばっちし、ナイスタイミングだぜ。やっと差しで勝負できるな。」

「ああ、こっちもOKだ。」

 これで渋滞なしに併走できる。壮太のエスペランサと俺のドライブウイング、速度性能はどっちが上か、これではっきりするはずだ。




 始まってすぐはむしろ受付の方に列が出来た。当日飛び入りの子どもたちがレンタルマシンを持ち込み、スタッフのアドバイスを受けながらメンテしている。俺らはまっすぐコースへ向かい、列に並んだ。五人に満たなくても三人程度集まったらレースという具合で、普段の大会に比べればアバウトな進行だった。車検はないし、何度チャレンジしてもいいらしい。あくまでミニ四駆の宣伝が第一のお楽しみイベント、例のプレゼントも数に余裕があるってことだろう。俺ら二人の後ろに人はなく、少し離れて様子を伺うような子どもがいるだけだ。俺らのマシンの速さを警戒して、避けているんだろうか。

 壮太の一人前までで区切られ、その前の五人がレースを始める。そしていよいよ俺らの番が迫ってきた。ポケットに手を突っ込むと、念のため暖めておいた新品のアルカリ電池が四本あった。俺はふと思いついてそいつを取り出すと、ビニールを破り、壮太に差し出した。

「ん、なんだ?」

「せっかくの勝負だ、貸してやる。好きなの選べよ。」

「いいのか?気が利くな!・・・んじゃこれを。」

 壮太は真ん中の二本を取り、エスペランサにセットした。俺は残り二本をドライブウイングに入れる。その時、誰もいないと思っていた背後から声が掛かった。

「粋な真似を知ってるね。」

 あのSFMシャーシのマシン、ガンブラスター使いの女の子だった。ちょうどそいつも同じ銘柄のアルカリをマシンにセットしていた。

『さぁそれでは次の四人、スタート位置についてくれ。』

 ノーブルに急かされ、俺は後ろを気にしながらも、慌てて自分のマシンにボディを載せ、スイッチを入れてスタートレーンにかざした。

「相乗りさせてもらう。」

 隣のレーンに差し出されたガンブラスター。とことん肉抜きされたそのボディの中央、クリアキャノピーの奥には、見慣れたICチップのような飾り物が・・・。

「おい、それ、」

『スタート!』

 気を取られた俺はシグナルの変わり目を見逃しながら、それでもマシン一台分程度の遅れで続いた。壮太が右隣イン側の第四レーン、俺が中央第三レーン、そして例のガンブラスターが左隣アウト側の第二レーンだ。

「早速トップだぜ!このまま逃げ切れ!」

 最もイン側の第五レーンはレンタルマシンではなかったが、駆け出しのジュニアマシンという感じだった。ハイパーダッシュモーターに小径といったところか。壮太のエスペランサが速くもコーナー二つでそれを追い抜き、トップに出たことはそう不思議なことじゃない。気になるのは、俺よりアウト側でありながら先を行くガンブラスターの方だ。

『トップはえー、アストロブーメランでしたっけ?続くはガンブラスター、わずかに遅れてビッグバンゴーストです!』

 バーンルーフチェンジは最インレーンから最アウトレーンに移る。遅れつつあった第五レーンのマシンはアウトに回り、さらに後方に下がった。こっちはもう、それほどの驚異はないだろう。そして二周目、壮太のエスペランサがまた少しリードを広げにかかる。一方、俺のドライブウイングは最初のコーナーでようやくガンブラスターに並んだ。SFMシャーシがここまで粘るとは思わず、俺は目を疑った。あのマシン、大径ホイールにアトミックチューンモーター、ローラーは830ベアリングローラー六個と、装備は基本的に俺のマシンと変わらないように見えた。電池も含めて条件はほぼ同じだ。それで走りもほぼ同等かそれ以上となると、SFMシャーシの駆動系の不利はどこへやらだ。

「速い・・・ホントにスーパーFMか?」

「言っとくけどあたしのファルシオン、そんじょそこらのFMマシンと思わない方がいい。」

「ファルシオン?」

 やがて最インを走る壮太のエスペランサがバーンルーフを駆け上がる。そして最アウトに降りて来ると、壮太のマシンは幾らか後方に下がっていた。三周目は俺が最イン、あいつが最アウト。以降はずっと俺がアウト側に来るから、最も差の付くこの周回で、どこまでリードを広げられるかに全てが掛かる。最初のコーナーをキレよく曲がり、右回りのバンクでたっぷりと引き離し、降りてきて左回りのコーナーでまた少し詰められる。そしてラストの右回りのコーナー、俺のドライブウイングはバーンルーフを上がって下り、最アウトに落ち着く。この時点で壮太のエスペランサに対しストレート一枚弱のリード、十分勝ってる。

「お、ずいぶん空いたな。ま、これから追いついてやるぜ!」

 あと二周、このペースなら壮太からは逃げ切れるかもしれない。問題はもう一台だ。俺がバーンルーフで若干遅れるうちに、例のガンブラスターは壮太のマシンの少し前まで来ていた。四周目の最初のコーナーで、そいつは最インのレーンで一気に迫ってきた。そしてバンクを降りたところで抜かれる。バーンルーフをクリアすると、俺のマシンより幾らか前にいた。

「なんだなんだ!?その青いの、やけに速いじゃん。でも、ラストでまとめてぶっちぎる!」

 多少追いついてきた壮太も、ここでようやく二つアウト側のレーンのガンブラスターを意識しだしたようだ。だが、今更だ。最初の右回りのバンクを過ぎて、それでもまだ順位は動かない。

「ヤヴァい、本格的にヤヴァい・・・。」

挿絵(By みてみん)

 俺の口癖が出たときには最終コーナー。とうとうほとんど差が詰まることもなく、各車はチェッカーを過ぎていった。

『トップはガンブラスター、おめでとう!』

『それでは記念品、受け取ってくださいね。』

 ガンブラスター使いの女の子は慣れた手つきでマシンをすくい上げた。その駆動音は確かに静かで、昔、友達が使っていたSFMの嘶きとは別物だった。もよりちゃんから受け取った光る星形ペンダントをぶら下げ、その子はこっちに向き直る。

「やられたぁ。姉ちゃんすげぇな、それ、スーパーFMだろ?アトミでそんな速いFM、初めて見たわ。」

「ご覧の通り、バンパーもギヤも無加工、ただのスーパーFMだ。」

 変わったセッティングだが、市販パーツがそのまま取り付けられただけ、やはり俺のマシンと大差なく見える。だが、パーツ一つ一つの状態まで見るとそうとも言えない。

「その830、まだ回ってるのか?」

「830はそういうローラーだったはずだけど?」

 コースから引き上げて数十秒は経つのに、いつまでも回り続ける830ベアリングローラー。調子いいときは俺のマシンもこうだったが、これほど状態いいのを見たのは久々だ。そして何より気になるのは、キャノピーの奥に覗くGPチップ。

「・・・デュエルエッジ、なのか?」

 見間違えようもない、二つのL字が絡んで作る十字のエンブレム。その色は黄色だった。俺が呟くように漏らすと、その子はそれを聞き流さなかった。

「ふーん、それがわかるなら話が早い。・・・ちょっと、付き合って。」

 その子は俺と壮太が使っているのと同様のマシンケースにガンブラスターを収め、リュックに放り込むと会場出口に向かう。

「え、なになに?」

「どこ行くんだ?」

 荷物を担いだままの俺たちも、それに続く。

「場所を変えよう。そのマシンならレーンチェンジもない、ただただ回るだけのコースじゃ物足りないはずだ。」

「ちょい待ち。」

 壮太は一緒に続こうとしながらも、一旦女の子を呼び止めた。

「なに?」

「まずは名乗るが礼儀ってもんじゃん?オレ、佐々薙壮太。姉ちゃん、名前は?」

「・・・ミニ四レーサー、イオ。」

 ハンドルネームか本名か、女の子はそれだけ言った。自分を躊躇いもなくミニ四レーサーとか名乗る奴なんて、そうそうお見受けしない。でも、俺にはそれがごく自然に聞こえた。壮太や、ガーデン日吉のNコードさん、そしてあの神楽さんと同じにおいのする奴だと感じたからだろう。






次回予告


壮「へぇ、やられたぜ。とんだFMマシンだな。んで、リベンジマッチはどうするって?」

伊「行き付けの店がある。そこの3レーンフラットコースでどう?」

翔「黄のデュエルエッジ、ファルシオン・・・おまえも神楽さんと関係が?」

伊「こいつこそ、かつて双剣の神楽が愛用した得物の片割れ、GBファルシオン。あんたのドライブウイングとどっちが上か、確かめたい。」

翔「なるほど、避けられない勝負ってことだな。そういうことなら受けて立つ!」

壮「・・・あのーお二人さん、どうでもいいけどオレも混ぜろよー。」

伊「次回エアーズ、Flag005【双剣の一振り】」

翔「チェッカーラインを見逃すな!」

伊「見逃したって結果は同じだ。」

壮「むっかー!言ってくれるぜ。」




伊緒「この物語はフィクション、人物も団体も実在しない。もちろん、実際のミニ四駆の技術とも無関係・・・かどうかは、自分の手で確かめてくれ。」

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