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傷だらけの鬼  作者: ひなたぼっこ
第2章 魔道人形の気持ち
12/16

陽だまりの朝

 陽だまりの様な暖かさが肌を撫ぜる。

 ゆったりと身体が重さを感じていて、動かそうと考えるよりその温もりに身を委ねたい気持ちが湧き上がる。

 そこに小鳥の鳴き声が聞こえて、朝を告げているようだった。

 でも、まだ早いんじゃないかな、ぬくぬくするな、すごく、気持ちいいな、微睡みながらそう思った。


「って違うよ!朝だよっ!」


 チーは叫びながらガバリと起き上がる。

 気づけば、またお布団で寝ている。なんで?そう疑問を感じながらも、差し込む光に眩みかけた眼が開けていくと、ふわふわする頭が覚醒していった。


「コゥゥ」

「コ、コル?!」


 見れば捲り上げた布団からコルが満足そうに四肢を投げ出していた。

 それに驚き、思わず身体をひるがえそうとすれば、後ろに伸ばした手が柔らかいものに触れる。


「ゴ、ゴルも!」


 手の感触に慌てて振り返れば、ゴルが正座でベットのふちに座っていて、ニッコリと微笑まれる。


「ゴウゴゥ」

「あ、はい、おはようございます」

「コウゥ!」


 そうして丁寧にお辞儀されればチーもそれに対する礼儀をわきまえていた。

 ゴルに答えるようにベットの上で座りなおし、朝の挨拶をする。

 ちょんちょん、と肩を叩かれればコルも正座でお辞儀したので、チーはもう一度朝の挨拶をした。

 なんだか清々しい気持ちになって、コル達と一緒に笑顔が漏れる。

 朝の挨拶はやっぱり気持ちいいのだなと、深く胸に()みわたるのだった。


「って違うよぅ、起こしに来たのなら普通に起こしてよぅ」


 まったりとするも、じわじわと違和感が襲ってきたのだった。

 たしか、昨日もちゃんとベットの近くで寝たはずである。それなのにベットの上に移動していて、起きたら2人がいる。

 驚くも、これも新しい悪戯かな、そう考えた。

 そんな考えをよそに、少しばかりの不満を投げかけられた2人の反応は凡々としていた。

 困ったように笑うチーに2人は顔を見合わせ、嬉しそうに頷き合う。そうしてケタケタと笑いだした。


「な、なに?起こしに来たんじゃないの?えっ?どうしたの?」

「コルルゥ」


 問われて、コルがじゃん、と勢いよくベットから取りあげたのはコルの身体ほどもある大きな抱き枕である。

 ゴルも同じようにして布団の中からもぞもぞと取り出したのも、シンプルなラインが入った枕だった。

 そうしてゴルは、ぽいとその枕を投げ捨てた。そのまま、いそいそと布団を手に取り、チーの枕を高らかに持ち上げた後、ばふっと身体からベットに倒れこむ。暫らくしてわざとらしく寝息を立て始めていた。


「ゴ、ゴル?どうしたの?まだ寝るの?」


 いきなり始まった2人の演劇についていけず頭を傾げながら行動を見守るチー。

 もう魔性のベットからは退避済みだったから何も心配することはなかった。

 その間にコルはベットから飛び降り、扉の前に付くと、抱き枕を抱きしめ、びしっと手をあげる。


 コルは短く息を吸い、コゥ!そう叫んだ。


「えっなに?」

「コルルルルルルゥ!」


 チーの疑問もそこそこにコルがチーに突進する。

 勢いよく抱き枕ごとチーを吹き飛ばすコル。チーは柔らかい抱き枕とベットに押しつぶされて、ふひゅと変な声をあげていた。

 倒れこむチーをしり目にコルは何事もなかったように布団をばさりと被り、ゴルと一緒にわざとらしい寝息を立て始めていた。


「うぅ…もしかして…夜のうちから此処で寝ていたの?」


 そうまでされてやっとチーにも合点がいった。

 いつの間にとか、なんで僕は起きなかったのだろとかの疑問はあったけれど、コル達とみんなでお休みという体験が初めてであったチーは、どこか胸に暖かさを感じていた。

 コルとゴルは訪ねるチーにぷいっとうつ伏せに背を向けると、笑いをこらえるようにしてくぐもった声で寝息を立て始める。


「もぅっ!このベットは怖いんだよっ起きれなかったらどうするのさっ」


 いつも思っていることを口にするも、勢いが出なくて、口元が緩んでいることを自覚する。

 もぅっ、と余っていたゴルの小さめな枕をコルに向かって放ると、ぼすっと音をたててコルの頭を直撃した後、ころりと転がる。

 その瞬間、がばっとコルは起き上った。


「わぁ、コル、ご、ごめんって、ちょっと、ゴルも一緒になって、わぁ」


 コルは高らかに笑いながら、持っていた抱き枕をぶんぶんと振り回して、ぼすぼすとチーにアタックを仕掛けた。

 ゴルはバサバサと布団をひるがえしながらコルを追いかけている。

 狭い部屋で2人に追いかけられながら、あははは、そんなチーの明るい笑い声が部屋に満たされていった。


 暫らくして、コルが抱き枕を床におろして、ふんっと鼻息荒く踏ん反りがえっていた。

 その様子が晴れやかでいて、華奢な身体に支えられた抱き枕が雄大に感じられる。そうして、込み上げてきた笑いに抗う事はせずチーは大きく笑っていた。


「…何を楽しそうにやっているのだい?」

「ゴゥ!」


 笑い合うチー達に突然かけられた声に、びくりと身体が飛び上がる。

 ゴルは当たり前のようにお辞儀していたが、驚きながらチーが振り向けば、小さくドアが開いていて、隙間から除く様にしてセレネが顔を出していた。


「お、お師様っ!」

「ふむ、楽しそうだね、良い事だよ。ところでそろそろ私を起こしに来る時間だと思うのだが…どうだろうか?」


 にこやかな顔をそのままに師の来訪を喜ぶチー。

 それにうんうんと頷きながらセレネはドアの隙間から捲し立てるように云った。


「あ、その、すいません、夢中になっていて」

「いいのだよ、うん、楽しそうなら何よりだ、うむ、私の部屋には枕がいっぱいあるからね、うん、今から私を起こしに来てくれるのを心待ちにしようと思うよ」


 それだけ云ってせわしなく頷いた後、いそいそとした雰囲気を醸し出しながら足早にセレネは去っていった。

 残されたチー達はパタンと遅れて閉じた扉を見つめていた。


「…えっ?お師様起きてたよね?」

「コゥ!」


 突然現れてすぐに去っていったセレネに呆然としながらチーは疑問を漏らす。

 それに答えるように、ずびしっとコルが大きな抱き枕をチーに押し付け、そのままチーの枕を持ってくるとぶんぶんと振り回し始めた。

 ゴルはくちゃくちゃになった布団を片付けようとしているようだったが、コルから投げかけられた視線を受けて、ぽいと布団を投げ捨てて枕を手に取っていた。


「え、えっと…まさかだよね?」

「ゴゥゥ」


 コルに手を取られながら、さっきまでの追いかけっこを思い出す。

 お師様に枕を叩きつけるなんて恐れ多いにもほどがある様な気がして、ゴルに目線で問いかけるも、目を瞑りながら顔を左右に振るゴル。

 無情な返事を見てしまった気がして、淡い期待を振絞ってコルを見ようとする。

 その瞬間に短く叫んだコルに勢いよく手を引かれ、枕はやめた方がという言葉は吐くことが出来なかった。


「コルルルルルゥ!」

「わぁ、早いよコル、待って、もうちょっと考えてっ」

「ゴゥ!」


 前へ進めと指を指しながら楽しそうにセレネの部屋に突き進むコル。

 それに引っ張られる様に走るチーに軽やかに追走しながら走るゴル。

 そうして不安だったチーもなんだか楽しくなって、自分の足で走り出していた。


「もぅ、コルっ、お師様に投げても僕が全部撃ち落としちゃうよっ!」

「コルルゥ!」

「えっ?ゴルとやるってこと?ふふふっ僕だけじゃなくてお師様もいるならそんなのにも負けないよっ」


 走りながらコルに叫ぶ。

 コルはチーと握っていた手を放してゴルと手を繋ぐと、走りながら高く手をあげてくるりと回っていた。

 セレネの部屋は近くて、扉の向こうでいそいそと枕を押し入れから引っ張り出していたセレネは、その叫びを聞いてニヤリと笑う。

 そうして、1番乗りで部屋にたどり着いたコルが勢いよく扉を開ける。

 開けた直後、全面の光が閉ざされ、ぼすぼすと降りそそいできた物体達にコルは埋もれた。


「ふふふ、起こしに、とは言ったが寝ているとはいっていないよ、さぁチームは最早決まっているのだろぅ?それなら私が負けることなどないっ」


 高らかに宣言するセレネに、埋もれながらコルは叫び、がむしゃらに枕を投げ飛ばし始めた。

 そうして部屋にはセレネの笑い声やコルの叫び声などが反響して、賑やかな音が其処に溢れた。


 窓から差し込む日の光は暖かくて、笑いながらチラリと見たチーの眼に、焼きつくような鮮やかな光が飛び込む。

 眩しい光に一瞬だけ、動きが止まるチー。

 それを見て、大きく振りかぶったコルが枕を投げつける。それと同時に素早く魔法を展開し、枕を防いだセレネが滑り込んだ。

 音に振り返るチーには、笑うセレネとコルが悔しそうに叫ぶのだけが解った。


 不満そうにコルが口を尖らせると、セレネは鼻で笑い、それが本気かい?そう笑っていた。

 コルの攻撃に先ほどまでなすすべも無かったチーは、セレネの凄さをもう一つ知る。そうして、日の光を浴びて輝くセレネ達を見つめていた。


 チーは眼を細め、思案にふける様に考える。

 笑い合うコルもゴルもお師様も、みんなが暖かくて、ニコニコとするその姿は、どこかお日様の光みたい、そんな風に思った。

 それはとても暖かくて、その温もりに、自然とチーの顔からは笑みが漏れた。


「お師様っ」

「ん、なんだい?」


 チーが語り掛ければ、セレネは朗らかに笑った。


「あの、今日はゆっくりですけど、お仕事はないのですか?」


 ニコニコとして云った。

 その言葉にセレネは笑顔のまま固まり、少しして、固まった表情は変わらないが魔法を唱え始める。

 同時にたくさんの枕が宙に浮いていく。

 あとには何処か諦めたような、コルの短い悲鳴が響くのだった。

新章が始まります。

ほのぼのな雰囲気とストーリーを両立させていけたらと思います。


それと先日私の拙い文章に評価を頂いたのですが、とても嬉しかったです。

見て下さっている方がいるのがとても励みになりました。

これからも更新を頑張っていきたいのでよろしくお願いします。

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