表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

本当のところ

作者: 尚文産商堂
掲載日:2011/07/14

カタカタと単調なキーボードの音が響く。

一人だけの部屋で、担当へ送るメールに添付するための小説を書いているところだ。

足元には、チワワのチーちゃんがカゴの中で丸くなって寝ている。


昔、担当が高校生だった頃には、良く一緒にいた。

同じ高校で偶然同じ部活で、同じ学年だったから、必然的に一緒にいられる時間が多かった。

今じゃそんなことがあったことも忘れてしまうような、そんな距離が二人を隔てていた。

いつしか、そんなふうに別れてしまったのだ。

今でも俺は一緒にいたいと思ってる。でも彼女はそう思ってくれているかはわからない。


書き終わると、メールを送ろうとする。

それよりも先に担当からメールがきた。

「今なにしてる?ちゃんと書いてるんでしょうね。絶望を味合わせるのが小説であったとしても、感動や幸福を味合わせるのも小説の力よ。終わったら、ちゃんとメールを!」

分かってる分かってると独り言を言って、書き上げたばかりの小説を、メールに添付して送った。


彼女のことはいったん横に置いて、まずは作品を素晴らしいものに仕上げるのが先だ。

彼女のことを思いたいのであれば、そのあとでも十分に間に合うだろう。

気持ちを切り替え、メールの返信を待つ。


5分もしないうちに、担当から返信がくる。

「これでOKです。お疲れ様」

それだけだけど、気持ちが固まるには十分だった。

「これから暇だったら、昔みたいにどこかに行かない?」

すぐに返信がくる。

「いいわよ、じゃあ、 よく使う喫茶店で。3時に」

「わかった、喫茶店で3時に待ってる」

今の時間を確認する。

ちょうど2時半だ。

急いで準備をして、チーちゃんを連れて喫茶店に向かった。

ペットが入れる喫茶店は、散歩代わりになるから、こう言う時には嬉しい。


喫茶店に着いたのは、まもなく3時になろうかと言う感じの時間だった。

彼女はまだ来てないようで、二人掛けの席と、ペット用の椅子の席に座り、コーヒーを頼む。

エスプレッソの濃いコーヒーだ。

彼女が好きなものの一つだったはず。


3時をわずかに回った頃、彼女はやって来た。

「ごめんね。編集長に出かけるって言ってきたから、長い時間いけるよ」

椅子に座りながら、彼女は言った。

「あのさ、俺たちって結構長い間友達だっただろ」

「まあね」

コーヒーがちょうどきて、彼女はミルク小さじ1杯を入れてゆっくりとかき回し始めた。

「それでさ、ひとつ思ったんだ。ここまで長い間友達だからこそ、俺は正直でいなければいけないんじゃないかって」

気持ちを落ち着かせ、一息で言う。

「付き合ってくれませんか」

かき回す動きが止まる。

店の壁掛け時計の秒針が、カチッカチッとしっかりした音を俺に知らせる。

「そうねぇ、それはとても面白い誘いだけど、ごめんなさいね。でも条件があるわ」

一瞬断られたと思ったが、そのあとの言葉で気を取り直した。

「あなたの作品には力があるわ。楽しくも、悲しくも、感動も、絶望もどんなことも味合わせてくれる小説よ。だから、私にあなたと付き合わせるような作品を仕上げてくれれば、付き合ってあげるわ」

その日から、俺は一気に書く意欲が湧いた。

横で、チーちゃんが、元気な声で一鳴きした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ