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携帯電話ハッキング

 私は化粧品の新商品発表記者会見の会場である数寄屋橋にあるホテルに訪れていた。

 会場は慌ただしかった。

 会場フロアはステージが組み上げられ、会場スタッフが音響や映像器材のチェックを行い、司会者がリハーサルをしている。

 入り口近くには、報道関係者が群がっている。

 今日取材に訪れているメディア関係者は200社を越える。

 エントランスでは、首から許可証を下げた関係者達が撮影器材をチェックしたり、煙草を吸いながら雑談に耽っている。

 また、一般からも観客が三百人招待され、会場入りを待っている。

 記者会見は午後四時を予定している。

 記者会見にはCMのイメージキャラクターを努める芹沢玲香が出席する予定だった。

 記者会見の特別プログラムとして、芹沢玲香のトークショーと、さらにCMで使用されるタイアップソングをアーティスト本人が生歌で披露する予定となっている。

 ゲストと聞こえはいいが、ようは営業だ。広告代理店の連中が考えそうな安い企画だった。パブリシティの為のネタと話題づくりにすぎない。芹沢ほどのランクのタレントが、今だにこんな仕事をさせられている。仕事の内容から察するに、アクティブスターの方針はおそらく芹沢をCMやドラマで使えるだけ使いたいという腹だろう。要は消耗品と同じだ。だが世間が飽きたら仕事は無くなる。

 今日この場を指定してきたのは奥野だ。

 たしかに芹沢が仕事をしている方がデータを持ち出しやすいだろう。

 私はエントランスで記者たちに混じり、奥野が来るのを待っていた。手には調査道具が入ったルイヴィトンのアタッシュケースを携えている。

 すでに芹沢は会場入りし、リハーサルを行なっているらしい。

 私の横を、大きなダンボールが乗った台車が通り過ぎる。ダンボールにはサンプル品と印されていた。おそらく招待客に渡すプレゼントだ。口コミによる宣伝も行なう腹なのだろう。

 私は会見が始まるのを待ちながら、森川のことを考えていた。

 森川は瑞貴の言うとおり恋愛感情を抱いていたのだろうか。マネージャーがタレントに手を出すなど御法度もいいところだ。

 タレントは商品である。それ以上でもそれ以下でもない。タレントに手を出せば業界での仕事はできなくなる。それを承知で森川は掟を破った。

 だが、森川の気持ちが分からないわけではなかった。芸能人という圧倒的に美しい存在を間近に見続けていたら、そこらを歩いているような一般人に興味をなくすのは当然の道理だろう。

 芸能人という磁場に引き寄せられた男の悲劇――他人事ではなかった。

 芹沢玲香近辺の張り込みはプランとしてあった。

 芹沢玲香は目黒区の分譲高級マンションに住んでいる。

 私は、芹沢宅への侵入まで考えていた。盗撮の為の盗聴器や隠しカメラの有無を確認したかったからである。もしその類のものがあれば、盗撮器材の線から森川を追うことができるかもしれない。森川のネタというのが盗撮映像であるという確証にもなる。

 だが、すぐにその案は打ち消した。

 仮に盗撮を慣行したとして、盗撮者が撮影器材をそのままにしておくだろうか。

 放置しておけば、第三者に流出する恐れがある。そう考えると、撤去されていると考えるほうが妥当だ。森川も自らが得たものの価値を下げるような真似はしないだろう。

 何より私自身が家宅侵入という法を犯すことになる。神山の為にそこまでする必要はない。個人的には芸能人の部屋に興味が無いわけではないが、携帯電話の情報を徹底的に洗ったほうが現実的だ。それでも十分にリスクは踏んでいる。

 しかし張り込み案を完全に捨てたわけではない。芹沢が恋しくなって、森川が顔を見にくることがある可能性は高い。耐えきれなくなり奴が姿を現す時、奴を捕まえるチャンスでもある。

 私には確信がある。なぜならば私も芸能人という磁場に引き寄せられた男の一人だからだ。私自身、今心を引き寄せられている女性がいる。

 小川瑞貴は私との食事で、私との距離を決して詰めることはなかった。

 自分という存在を崩すことはなかった。私は不覚にもその部分に激しく牽かれていた。

 それは神秘性と言い変えることもできる。自分という存在をやたら一般人と変わらないということをアピールしようとする最近の女性タレントとは一画を期す。

 もし仕事が無ければ確実に瑞貴をストーキングしているだろう。それ位瑞貴に対しての興味が高まっていた。

 森川が所持している記録をもし手に入れたらどうするべきか、という事に考えが移っていた。

 換金は難しいだろう。

 どこへ持ち込んでも二束三文で買い叩かれるのがオチだ。さすがの私も裏ビデオ業者のような人脈は無い。

 芸能事務所に持ち込んだら最後、警察に突き出されるかもしれない。

 複製した上で、一本は神山へ提出し、もう一本は手元に置くだろう。

 瑞貴への手土産にしてもいい。

 だが流出した場合、真っ先に疑いは私に向く。どう考えても、私にとっては爆弾以外の何物でもないようだ。

 いずれにしろ、芹沢玲香の携帯電話のデータが大きな進展を齎らすことは間違いない。

 一方で迷っていた。

 芹沢に接触するべきか、否かを――。

 神山には釘を差されている。

 聞き込みにおいて、最重要関係者に直接聞き込みをするなどご法度である。迂闊に森川のことを尋ねれば芹沢に悟られる可能性がある。

 しかし、聞き込みにより相手が重要な事を漏らすかもしれない。

 奥野を通して芹沢に接触できるこのチャンスを不意にするのは、得策でないように思えてならない。

「……また遅刻かよ、あの女」

 記者たちの会話が聞こえてきた。私は聞き耳を立てた。

「……体調が悪くて遅れたとかスタッフが説明してたけど、絶対遅刻だって……」

 芹沢玲香のことらしい。

 たしかに業界の間では、芹沢は遅刻魔で有名である。たわいもない悪評だと思っていたが、それはどうやら真実らしい。

「……で、化粧に時間が掛かってるんだろ。何様のつもりかね」

「しょうがねえだろ、天下の玲香様なんだから。誰も文句言えねえよ。セレブだって後ろ盾なんだろ。今日だってセレブの……」

 私は苦笑した。芹沢の遅刻の理由の一旦に思えた。芹沢自身この仕事に乗り気ではないようだ。

 さえないスーツ姿の男が私に近づいてきた。

 奥野だった。体調が悪そうな様子だった。浮かない顔をして、全身からひどく疲労感を漂わせている。まるで病人のようだ。

 私はアタッシュケースを手に取る。

「……お待ちしておりましたよ」

 私は森川に声をかけた。

「……一緒に来てください」と言う奥野の後を、私は着いていった。



 会場内入り口近くと通ると、物々しい雰囲気だった。イヤフォンを装着した会場スタッフ関係者が何人も忙しそうに行き来している 。

 人の流れに逆らうように、私と奥野は奥へ進む。

「芹沢さんは……?」

 私は奥野に尋ねた。

「……もう舞台裏に移動しています」

 奥野は言葉少なげだった。私とはあまり会話をしたくない様子だった。

 前方に火災報知機があるT字路に達すると、左側に行く手を阻むように「関係者以外立入禁止」という紙が張った立て札があった。つまり楽屋がある方向ということだ。構う事無く、私と奥野は左に折れた。

 左奥はいくつも子部屋が連なる所だった。

 部屋の扉にはそれぞれ紙が貼られていて、通路の一番奥の扉に、『芹沢玲香様』という紙が貼った部屋があった。

 奥野は楽屋の目の前に立ち止まると、カードキーを取り出した。カードリーダーのタッチ部にカードキーを当てようとした時、楽屋のドアが開いた。

一人の女が立っていた。

 突然のことに、私は一瞬誰なのか認識できなかった。

 白いワンピースを着た長身の女だった。

 女は奥野と私を見ると、眉を寄せ険しい表情になる。

「……奥野さん。どこ行ってたの? みんな探してるわよ」

 芹沢玲香だった。

 芹沢の声は尖っていた。聞いているだけで、身体が強ばりそうな、険のある物言いだった。

 思わぬニヤミスだった。

 芹沢にこんな形で出くわすなど、まったく予想していなかった。私は表には出さないようにしていたが、内心驚き、慌てていた。

「……芹沢さんこそ、どうしたんですか?」

 しどろもどろで奥野は言う。

 ビクビクされると、怪しまれる。私は横で見ていて冷や冷やした。

「……忘れ物を取りに戻っただけよ」

 芹沢の言葉使いから、二人の力関係は如実だった。

 すでに芹沢は奥野のことをアゴで使っているようだった。

 奥野自身小心者で、気が弱い。

 気が強い女ほどそれを見抜き、男をすぐ自分の下に位置付けようとする。芹沢の性分なのだろう。

 奥野を見る芹沢の眼は冷たかった。見つめ返すだけで、凍り付き身を引き千切られるような視線だった。現に奥野は芹沢と目を会わせようとはしない。

 芹沢玲香を間直で見ることになるとは思いもよらなかった。

 美しい――そして、瑞貴とは比べものにならないくらい強いオーラを放っている。人々に注目と称賛を毎日のように浴びた結果だろうか。今もっとも勢いのある女性タレントだけのことはある。

 ワンピースは象牙色で、清純さを演出するような装いだった。髪は大人の女の可愛いらしさを引き出すようセットされている。高そうなジュエリーを身につけ、着飾っている。

 メイクやスタイリストなど何人もの手が加わり、作り出されたものだろう。時間を掛け作り上げただけのことはある。

 他を魅了する美貌に異論は無い。

 だが、私はすぐにその美に潜む不自然さに気が付いた。

 あまりに完璧すぎた。芹沢のフェイスには欠点というものが無い。

 とくに切れ長の瞳は化粧で強調されてはいるが、それを差し引いても、不自然すぎるほど、鋭角的でくっきりしている。メスを入れた事は明白だった。

 与えられたものに満足せず、飽くなき美の追求。人工美の極致だった。

 それは芹沢玲香の貪欲さを如実に表していた。

 いつしか、芹沢は無言で私を見つめていた。敵意のある視線であった。

 私は思わず怯みそうになる。女一人に対して、だ。


 私を値踏みしている……反射的にそう思った。

 被害妄想かもしれない。だが、その視線は初対面の人間に対し、あまりに不躾であった。

 私は芹沢玲香の人間性を瞬時に見た気がした。

「……ああ、ご紹介遅れました。私、奥野さんと以前お仕事を一緒にさせていただいた前田と申します」

 感情的な反応を抑えこみ、私は別の人間を演じていた。

 演技力と会話力こそ探偵術の基本中の基本だ。

 豪胆ではないが、場数は踏んでいる。突発的な出来事に対する危機対処能力は低いほうではない。

 私が演じたキャラは、岡田をベースにしたものだった。

 動悸を意志で抑えつつ、次に紡ぐ言葉を必死に検索し、用意する。芹沢の言葉次第だった。

 芹沢からの返答は無かった。

 興味がないのか、関心がないのか、腕を組みながら露骨に迷惑そうな顔をしている。

 自分にとって利にならない人間には相手にしないらしい。

 そう判断されたのだ。

 屈辱だった。

 そして、芹沢の周囲の悪評をこの身で実感していた。この短時間の間に私の芹沢に対する感情は最悪のものと化していた。

 瑞貴の憎しみが、実感を伴って理解できた。

 事実、目の前の女に殺意に似たものを覚えつつあった。

「今日、偶然に奥野さんとお会いして、仕事でご相談したいことがありまして。芹沢さんにもご挨拶しようと……」

 私の並べたその場限り嘘の言葉に、芹沢は相変わらず答えない。

「……あまり、人に聞かれたくない話なので楽屋をお借りしてもよろしいですか?」

 ささやかな抵抗だった。

 私を見る芹沢の眼が、汚物を眺めるようなものに変化していた。

 視線には私から奥野に移る。だが、断ることもなかった。

「忙しんだからさあ……。あまりイライラさせないでよね」

 そう言い放つと、芹沢はステージの方へ向かって行った。

 芹沢の一言は奥野を萎縮させるのに十分だった。奥野は落ち着きを失い、意気消沈している。

 傍で見ていて、奥野が気の毒だった。仕事とはいえ、男の自尊心をここまで傷つける必要があるのだろうか。まして奥野は仕事仲間である。

 勤め人とは給料の為にこうも蔑まければならないのか。

「大変ですね」と私は奥野に同情の意を示した。

「……ええ」

 奥野は歪んだ笑みで答えると、ドアを開けた。誰も入ってこないよう、ドアをロックした。



 芹沢一人で使うには十二分に広い楽屋だった。

 複数の人間が使用できる、壁一面鏡張りのドレッサーの上は化粧道具が散乱していた。

 楽屋中央にはテーブルと椅子がある。

 テーブルにはスタッフの差し入れなのか、五〇〇ミリリットルサイズのミネラルウォーターのペットボトルや弁当、軽食用のお菓子、アルミの灰皿、そして芹沢の私物と思われるバックが形を崩して置かれてある。今流行のバレンシアガのエディターズバックだった。

 灰皿を見たとたん、私は芹沢が楽屋に戻った理由がわかった。

 灰皿には押しつぶされた煙草が数本、灰と共に捨てられていた。吸殻の吸い口には口紅が付着している。手を翳すと、微かに熱を放っていた。

「……芹沢さんは煙草をお吸いになるんですか?」

 私の問いに奥野は返答に詰まっていた。その反応で十分だった。

 一般人ならともかく、タレントが喫煙者などマイナスイメージの何物でもない。

 私は持参したアタッシュケースをテーブルに置くと、奥野は「見張っていてください」と指示を出した。

 奥野がドアの前に立つと、私はアタッシュケースの止め金を外し、開く。

 バックから取り出したのは手袋だった。

 手術用のラテックスゴム製である。指紋を残さない為のものだ。

 手袋を填めながら、私はすでに軽い興奮状態にあった。

 芹沢玲香のバックに近付き、中を見た。財布や化粧道具などの私物が入っているのが見える。

 私は手をつっこみ、バックの中身をテーブルの上に出していく。奥野が反射的に私を止めようとしたが、諦めたのか、すぐに固まった。

 目的の品である携帯電話があった。真っ白なボディの携帯電話だった。ストラップはブランド物のストラップが付けられている。

 さすがに電話を仕事中持ち歩くような非常識な真似はしないらしい。

 私は携帯電話を開く。すぐに液晶モニターが点灯し、待ち受け画面を映し出す。携帯電話はロックはされていなかった。この辺の脇の甘さが、今回の事態を招いた要因に思えた。

「……早くしてください」

 奥野が私を急かす。

「すぐに済みますよ」

 苛立たしげに言うと、私はアタッシュケースからノートパソコンとデータ通信用ケーブルを取出した。パソコンを開き、電源を入れる。

 パソコンが立ち上げると、ケーブルを芹沢玲香の携帯電話とパソコンに繋ぎ、パソコン側のソフトをクリックする。

 携帯電話編集ソフトだ。電話番号、メール、着信履歴など携帯電話内に存在するデータを根こそぎコピーできる。編集ソフト以外にも私のモバイルには調査用のソフトウェアが各種インストールされている。

 私は全てのデータのバックアップを選ぶと、実行をクリックする。暗証番号を解読する必要も無かった。

 タスクバーが展開し、芹沢の携帯電話のメールや画像、電話番号などのデータを次から次とコピーしていく。

 私は近くのパイプ椅子を引き寄せ座わると、作業が終わるのを待った。

 芹沢との先程のやりとりを思い出し、私は苦笑すると、「さっきは驚きましたね」と奥野に声をかけた。

「……ええ」と、奥野も苦笑いを浮かべる。

「悪いことはできませんね」

 私の皮肉に、奥野は困ったように笑った。

「芹沢さんは寝起きは悪い方なんですか……?」

 私は奥野に尋ねた。

「ああ、ええ……」

 奥野はあっさり認めた。

「……彼女は朝は弱くて、ほんと起こすのが大変なんですよ」

 奥野が疲れ切っている理由がなんとなく分かった。

「連れてくるのが大変でした。下手をすれば、仕事をすっぽかすとこでした。本当森川さんには頭が下がりますよ……」

 奥野は聞いてもいないことを自分から言った。よほど私に同情してもらいたいらしい。

 人は得てして、仕事の不満を誰かに聞いてほしいものである。

 パソコンを見ると画面には作業終了を告げるウインドウが表示されていた。

 作業が終わると、私はパソコンをシャットダウンし、アタッシュケースに入れた。

 奥野の顔は安堵の色を見せていた。

「奥野さん、ありがとうございました」

 手袋を外し、パソコンとケーブルをアタッシュケースに終いながら、私は言った。スーツのポケットに手をつっこみ、SDカードを手に取ると、「お約束の物です」と奥野に放り投げた。

 奥野は不様なくらいに、SDカードに飛び付いた。

「……ご存じですか。キャバ嬢の彼女ですが、セレブ系列のタレント養成所に通う娘ですよ」

 私は奥野に言った。

「えっ!?」

「気をつけた方がいい」

 奥野は私の言葉が理解できていないようだった。

「サービスで、彼女が養成所に通う画像も入れておきました。ご確認ください」

 奥野は何かを言いたそうだったが、それを聞く事無く、私は楽屋を後にした。


 会場を出ると、私は車を停めてある地下駐車上に向かった。

 コピーした芹沢のデータを徹底的に洗う為、まっすぐ部屋へ帰るつもりだった。これで調査が一気に進展するという期待が、私の中で高まっていた。

 空振りかもしれない。過剰な期待は決まって後で大きな失意を招く。だが、私は興奮を抑えられなかった。

 また、仕事とはまったく関係ないが、芸能人の秘密に迫れるという個人的な楽しみもあった。彼らの私生活を垣間見ることは、何度体験しても、飽くことはない。

 アタッシュケースを地面に置き、車の鍵を取り出そうとした時、「すみません」と背後から声を掛けられた。

 振り向くと、二人の男が立っていた。

 身長はどちらも一八〇センチ前後の長身で、ダークスーツを着ている。肩幅が広くて、冗談が通じないような剣呑な雰囲気を放っていた。

 嫌な予感がよぎった。

 二人の男はがっちりと私の肩と腕を掴んだ。キーケースが地面に落ちる。

「騒ぐなよ」と男が私の耳元で囁くと、腹部に衝撃が来た。

 右の男が私に拳を捻り込んでいた。呼吸が停まった。胃が痙攣する。足が震えた。

 呼吸が滞り、息が上手く吸えなかった。

 武器を何も装備していないことを悔いた。私は膝を屈すると、今度は左から膝蹴りが襲ってきた。再び胃にダメージを喰らうと、私の記憶が蘇った。

 セレブの創立パーティーの際、私がシュアファイアで目を灼いた男に間違いなかった。

 その時の恨みを晴らすことができたからなのか、男には笑みが浮かんでいた。

 ブレーキ音を上げ、車が私の真横に急停車する。

 ミニヴァンだった。

 横付けされたミニヴァン後部座席右側のスライドドアが開くと、男達は私を無理やり立たせ、ドアの奥に押し込んだ。

 車の中に入ったとたん、首筋に冷たく堅いものを押し当てられると、全身に電流が走った。

 スタンガンだと理解する間もなく、私は意識を失った。

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