デートと情報交換
私が座る前方の席で、冴えない中年と釣り合わない女が楽しそうに会話をしている。化粧の濃い、派手目の女だった。髪をおもいっきり盛っている所からも、同伴なのは明らかだった。これから寿司屋や高級料理店で、さぞかしたかられるのだろう。
目の前の男を笑うことはできない。私も似たようなものだ。
私はコーヒーをすすりながら、瑞貴が訪れるのを待っていた。
私が待ち合わせに指定したのは、六本木の喫茶店だった。水商売風の女が客と同伴するための待ち合わせによく利用している。週末の為か、夕方にもかかわらず、店は一般客で混んでいる。
予定時刻より早めに到着していた。来る前にシャワーを浴び、下着も新しいものを身につけていた。酒を飲むつもりなので、車では来ていない。
瑞貴を口説きたいという下心がまったく無いわけではないが、それ以上に私は森川に関する情報を得たかった。
すっぽかされる事はある程度、覚悟していた。
まかりなりにも瑞貴は芸能人だ。一般人の誘いに乗るなどプライドが許さないだろう。表面はすましていても、いずれも自意識と自尊心の固まりのような連中であることは、これまでの調査で経験済みだ。瑞貴も例外ではないだろう。
「――根津さん」
背後で名を呼ばれ私は振り返った。
瑞貴だった。私は席を立つ。
「お待たせいたしました」
瑞貴は微笑む。
「……こちらこそ、無理を言って申し訳ありません。何か飲みますか?」
「いいえ」
瑞貴は席には座らずに答えた。私は思わず、瑞貴を見つめていた。
私は改めて、瑞貴のスタイルの良さに感心していた。
瑞貴は襟のついた黒のワンピースを着ている。締まっていて丸みを帯びた美しいヒップラインが浮き出ている。長くて美しい脚がスリットから覗く。瑞貴の成熟さが際立ってよく似合っていた。手首にはカルティエの小さめの時計を巻いている。
「では、移動しましょうか」
「はい」
私は勘定を済ませ、瑞貴と共に店を出ると、路上でタクシーを拾った。瑞貴と共に車に乗り込むと、運転手に麻布方面に向かうよう指示した。
私は高揚していた。隣に瑞貴という極上の女がいるからだろう。
それなりに身形を整えて来てくれたことに、私への気遣いが伺えうれしかった。
えりのような若い女もいいが、瑞貴のような成熟した女と食事をするのも堪えられない。
今日の情報交換の場に選んだのは、西麻布にある和食ダイニングだった。飯が旨いというのもあるが、個室が在り、秘密の会談をするにはもってこいの場所だった。
タクシーの中で瑞貴と会話はしなかった。
店に着き、中に入ると入り口受け付けのスタッフに「ご予約の方は」と尋ねられた。私は自分の名を告げると、スタッフは確認の為に端末を操作する。
店内は薄暗く、ムーディーな音楽が流れている。
入り口近くに熱帯魚が泳ぐ大きな水槽がある。水槽の中にはライトが設置され、ゆらめく水に光が乱反射している。
数匹の熱帯魚が泳ぐ様を、瑞貴は興味深そうに見ていた。
確認が終わると、別のスタッフが私達二人を店内に導く。
予約したのは二人用の個室席だった。席は間接照明により淡い光で演出されている。
私と瑞貴は向かい合うように席に座ると、メニューを見ながら飲み物や食物を注文した。
私も瑞貴も中ジョッキのビールを頼んでいた。
スタッフが去ると、瑞貴から以前に臭いだ柑橘系の馥郁たる芳香が漂っている。私はその匂いを時々吸い込み、楽しんでいた。
ビールが運ばれてきた。
乾杯すると瑞貴はビールを一気に喉に流し込む。
「お好きなんですね」
私の言葉にに瑞貴は恥ずかしそうに俯く。
「お強いんですか?」
私の問いに瑞貴は微笑した。何処か寂しげな微笑だった。瑞貴はときどき翳りに満ちた表情を見せる。
「……この業界の女は嫌でも強くなる。みんな打ち上げ好きだし参加しないと顔を覚えてもらえないから。わたしの場合は……元々好きなほうなんでしょうね。お酒の味を覚えてすっかりハマってしまって」
間接照明の淡い光が、瑞貴の表情をより一層際立たせる。
芸能界で生き抜くために泥水を啜ってきたのだろう。年齢を誤魔化し、ダイエット薬で体をボロボロにしても体型を維持しようと勤め、必要とあらば整形手術も厭わない。
私は瑞貴が哀れになった。
「根津さんは?」
瑞貴が私に尋ねる。
「……付き合いで飲むくらいです。貴方みたいに強くないので」
本当だった。決して強いほうではない。それでも瑞貴に付き合うため、酒を口に入れる。酒で口を緩めるのは常套手段だ。
瑞貴は何かを握っている。私が信用できるかどうか、見極めようとしている。そんな確信があった。だから私の誘いにものったのだろう。
瑞貴は前菜を口に運ぶ。
箸の動き、唇の愛らしさ、そして咀嚼する様、その所作は洗練されていて、可愛らしい。自分がどう動いたら魅力が最大限に発揮されるかを知り尽くしているようだ。分かっていても思わず引き込まれる。さすがはタレントを職業にしているだけのことはある。
服から覘く、首筋や鎖骨は透けるような白い肌に覆われ、染み一つない。
私は我に返ると取り繕うように、
「正直驚きましたよ。まさか誘いに乗っていただけるなんて」と言った。
瑞貴は私の言葉に微笑む。
「あまり誘われないんですよ。こんな仕事をしているのにもてないんで」
瑞貴は言った。
「貴方を誘う男なんて、よっぽど自分に自信がある方だ」
「……そんな」
薄く笑いながら、瑞貴はサーモンのマリネを食べる。
私は鳥の腿肉のソテーを味わっていると、「調査の方はなにか進展がありました?」と瑞貴は尋ねてきた。
やはり調査の進捗状況が気になるらしい。あまりにストレートすぎて私は苦笑した。
「駄目ですね。お手上げです」私は答える。
「芸能人ならまあ探しようもあるんですが、業界関係者となると難しいですね。情報がまったく流れてこない。出てくるのは芹沢さんの話だけだ」
「……そうですか。予想は付いてましたけど」
瑞貴は落胆した様に言った。
「藤崎理奈と伊沢達也に関してどういった感想を持たれました?」
私は尋ねると、瑞貴は微笑する。
「わたしは単純に芸翔のリークだと思いましたけど」
「そう思いますか?」
「藤崎理奈を叩けるのは芸翔だけです」
瑞貴はきっぱりと言い放った。
「情報が漏れる経緯は主に三つ。一つは異性関係からのタレコミ、二つ目は売名行為、そして三つ目は――」
「……他の事務所からの妨害工作」
私の言葉に「その通りです」と瑞貴は頷いた。
「根津さんは本当に探偵なんですか?」
瑞貴は私に尋ねてきた。
「……なぜですか?」
「この業界のことに妙に詳しいから……。わたしからどんなスクープを引き出したいんですか?」
口元に笑みを浮かべながら瑞貴は踏み込んできた。
確かに桧垣恭吾のことや蓮沼など、聞きたいネタはたくさんある。だが、まだ話題に上げるには早い。もう少し瑞貴と食事を楽しみたかった。
「探偵ですよ。ただし――」
「ただし?」
「芸能人専門の……です。芸能事務所や広告代理店の依頼を受け、芸能人の素行調査をする。そこまで言えばご納得頂けますか……?」
瑞貴は箸の動きを止める。
「そう……そうなの」
瑞貴は私の職業に明らかに戸惑いを見せた。当然だ。芸能記者以上に私は危険な存在と言える。なんらストーカーと変わらないだろう。
瑞貴から笑みが消え、表情は硬くなっている。今までの仕草や態度が一変する。
どこか私の中に失望感が漂う。
「バラしてしまえば、元々私は伊沢達也の素行調査をしていたんですが、突如森川さんの捜索に依頼がシフトしましてね。気になったものですから」
言い訳がましく言う私に対し、瑞貴は手元を見てる。
会話が途切れ、重苦しい空気が漂う。
瑞貴は一旦酒を口に含むと箸を置き、座りを直す。
「依頼人はどなたなんですか?」
瑞貴が静かに尋ねてきた。どこか刺を含んだ口調だった。
「それはお答えできません。申し訳ありませんが……」
瑞貴も馬鹿ではない。ある程度想像は着いているだろう。だからと言って、すべてのカードを開示するつもりはない。
瑞貴がどういうカードを切ってくるのか、楽しみだった。
「森川さんの居場所を突き止めた後はどうなされるおつもりですか?」
瑞貴の問いに、私は答えを詰まらせた。
「……さあ、そこまでは。私の関知するところではありませんから」
「芹沢玲香に何かするんでしょうか……?」
瑞貴の疑問に芹沢への関心度の高さが伺えた。
「……おそらくは。事務所同志のバーターの材料にでも使うつもりなんでしょう」
「森川さんは、芹沢玲香に関して、取引の材料になりうるようなものを持っているということでしょうか?」
「……さあ、想像もつきません」
瑞貴の指摘は私を困惑させた。
考えもしなかった。だが、瑞貴の意見はもっともな事だった。藤崎理奈の件もある。
芸翔は私は別の話題に返るため、「小川さんのほうはどうですか。何か新しい情報は入りましたか?」と尋ねた。
瑞貴はコップを玩びながら、何か物思いに耽る。
コップをテーブルに置き私の方を向くと無言で私を見つめた。何かを私に伝えるかどうか悩んでいるようだった。結局、再び元に向き直る。
私は瑞貴の言葉を静かに待った。
「……根津さんは本当に森川さんを探しているんですか?」
瑞貴の質問の意味が分からず、私は「どういう意味でしょう?」と尋ねた。
「根津さんの目的は森川さんではなく、わたしじゃないんですかと聞いているんです」
「……何の為に?」
私の返しに瑞貴は気まずそうに俯く。
「……そうですね。どうかしてました」
自意識過剰などとは思わない。芸能記者や週刊誌のスクープチームに追っ掛けられたことなど一度や二度ではないはずだ。当然の反応といえよう。
一方で、瑞貴が私を芸能記者と思い込み、近付いてきたのは間違いない。当然情報を得る為だろう。何が目的なのか、知りたかった。
「……小川さんこそ何をお知りになりたいんですか?」
私は自分の疑問を口にしていた。瑞貴は答えなかった。
「小川さんが私を芸能記者だと思ったのは、その方が都合がいいということではありませんか?」
今度も瑞貴は答えはなかった。
「もう、腹の探り合いはよしませんか……?」
私の言葉に、瑞貴は視線すらあわそうとしない。
「――何を知りたいんですか? そして貴方の目的は……?」
瑞貴はようやく私の方を向く。
「――根津さんと同じです」瑞貴は私を見る。
「自分を守るために情報が欲しい。それだけです――」
瑞貴は宝石のような黒瞳で見据える。本当に美しい瞳だった。
瑞貴の視線と美しさに耐えられなくなると、私は「そうですか」といいながら視線を外した。
それ以上聞かなかった。もちろん納得はしていない。だが、これ以上追求しても二人の空気は冷えるばかりだ。
一か八か今のこの空気を打破する質問が一つある――蓮沼だ。
だが、一歩間違えば、瑞貴の心をより一層閉ざしてしまうことになる。
まさかとは思うが、瑞貴と蓮沼が何か関係があるとは思えない。根も葉もない中傷の類だろう。だが、瑞貴も蓮沼のことを切り出せばいい気分はしないだろう。
危険な賭けだった。
私は覚悟を決め、遠回しに蓮沼の事を切りだすことにした。
「森川さんなんですが……」
「はい」
「セレブの蓮沼という男も探しているらしいんですよ」
「……蓮沼!」
瑞貴の表情に明確な変化が現われた。
「ご存じですか?」
「え……ええ」
瑞貴は動揺していた。手が動き、口元を覆う。口元に触れている指が震えていた。予想以上の結果だった。
「……業界では我々より有名人ですから」
瑞貴は苦笑いを浮かべた。
だが苦笑いでは誤魔化せないほど、嫌悪が滲んでいた。
「なぜ彼が捜していると思いますか?」
瑞貴は私の問いに、答えなかった。
半開きになっている桜色の下唇が微かに震えていた。必死になって思考を加速させようとしているが上手く行かない様子が眼に見えてわかる。
「……芹沢さんはセレブと仲が良いみたいだから」
瑞貴は搾り出すようにやっと答える。
「そうなんですか?」
私は訊いた。
「……根津さんは蓮沼に依頼されて彼を捜しているんじゃないんですか?」
「何の為に……?」
問い掛けながら、私は言葉遣いの綺麗な瑞貴が蓮沼のことをはっきりと呼び捨てしていたことに引っ掛かった。芹沢の時もそうだった。蓮沼に対する感情が見えた。
「何か弱みでも握られているとか……?」
瑞貴はあいまいに言う。
「芹沢さんが脅迫を受けているという噂でもあるんですか?」
「いいえ」
私は否定する。
「なぜ彼女はセレブと関係が深いのでしょうか?」
私の問いに瑞貴は瞬きを繰り返す。またしても回答に困っている。
蓮沼というカードを切ったことを私は後悔していた。今、切るべきではなかった。
これではただ瑞貴を追い詰めただけにすぎない。
これ以上、瑞貴を苛めるのも酷だった。私は話題を切り替えるために、「他に情報はありますか?」と訊いた。
「はい」
瑞貴は小さな声で言った。
私は「聞かせていただけますか」と言うと座りを直す。
「芹沢の誕生日が近いことは知っていますか?」
「……いいえ」
「去年とあるホテルのパーティー会場を借り切って盛大なパーティーをしたそうですよ」
あまり調査と関係の無い事柄のように思えたが、すぐに考えを改めた。
「――今年もやるかも知れませんね」
「……成程」
瑞貴の言いたい事がわかった。森川がその日に訪れる可能性があるということだ。芹沢の誕生日となれば、森川も駆け付かない訳には行かないだろう。
「……ですが、森川さんは現れますかね?」
私は半信半疑だった。
「わたしは、必ず来ると思います」
瑞貴は自信げだった。
「彼女がどういう人間か、そして森川さんとどれほど強いつながりを示すエピソードがあります」
「……お聞かせください」
「もともと彼女は、わたしと同じようなモデル事務所に在席していたらしいんですが……」
「はい」
「スクープされたんです。スポーツ選手と付き合っていることを――」
すぐに思い出せなかった。仕事柄、週刊誌は全紙すべてチェックしているが、すべて覚えているわけではない。
「芹沢玲香が前の芸名である『芹沢貴子』の時代の話です。名前は忘れましたが、当時飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍しているJリーガーだったはずです。それをきっかけに今の事務所と契約を結びました」
「……ああ。そういえばそんな話ありましたね」
無名に近い時の芹沢玲香初めての醜聞。だが、その時のメインはスポーツ選手で、芹沢はおまけのようなものだ。
私は瑞貴が何を言いたいのかを悟った。
「……まさか」
「大手事務所に入るために、彼女自身が週刊誌にリークしたという噂があるんです。そして、今の事務所への移籍の手引きをしたのが……」
「森川……ですか」
瑞貴は頷く。
「話題性を煽って、アクティブに移籍……か」
「そもそも、あそこの事務所は基本的に一人のマネージャーがデビューからマンツーマンでマネージメントするシステムです。トップタレントを育てなければ、上にのしあがることはできない。互いに上昇指向が強いならば、それくらいのことはするでしょう」
信憑性はない。
だが、もし本当のことならば、芹沢玲香はかなり狡猾で策士だということになる。ということは森川の失踪も芹沢が咬んでいるのだろうか。
「わたしは森川さんと芹沢との繋がりは深いと考えています。芹沢玲香がなんらかの形で森川さんの失踪に絶対関わっているはずです」
いつのまにか、わたしと瑞貴のコップは空になっていた。互いの話に触発され、興奮したのか、すぐに喉が渇く。
「お代わりを頼みましょう」と店員を呼ぼうと呼び鈴を押そうとした時、瑞貴は「根津さん」と私の名を呼んだ。
「はい?」
「蓮沼の方ですが、わたしの方から探りを入れてみましょうか?」
瑞貴の思いがけない言葉に「えっ」と思わず私は聞き直した。瑞貴の提案に一瞬乗りそうになったが、思い止まる。
「彼と、お知り合いなんですか?」
「わたしの事務所はセレブ系列ですから。ご存じなんでしょう……?」
「ええ、まあ……」
今度はこっちが、どぎまぎした。私の様子に瑞貴は苦笑する。
「いや、しかし……」
魅惑の言葉だ。だが、それは一人のタレントを危険に曝すことになる。
職業上、良心や良識とは無縁の私だが、瑞貴の提案に簡単に賛同することはできなかった。美しい女となれば尚更だ。騎士道精神など到底持ち合わせてはいない私ですら躊躇った。まして相手は悪名高き男だ。情報と引き替えに、何を要求されるかわからない。
瑞貴を見ると、どこか淀んでいた瑞貴の眼に精気が灯っていた。黒目がちの瞳がより一層輝きを増している――凄味すらある。
「よろしいんですか?」
私は確認した。
「はい」
瑞貴ははっきりと返事をした。
もしセレブ側の動きがわかれば、調査は大きく前進する。しかし、そこまで危険を冒す必要があるのだろうか。
依頼人とはいえ小田、いや芸翔の不義理な態度には怒りすら覚える。他人を巻き込んでまで貫徹させる意味がこの仕事にあるのだろうか。
「……危険ですよ」
私は分かり切ったことを言った。
「大丈夫です」
落ち着いた声で瑞貴は言った。
「根津さんが蓮沼に近付いて情報を得るよりずっとリスクは少ないです。それに蓮沼から情報を引き出さなければ今後の調査は進展ないのでは?」
「……確かに」といいながら、瑞貴が何故ここまでしてくれるのか疑問で仕方がなかった。やはり瑞貴にも何か目的があるのだろう。
それとも私のことを蓮沼に言うつもりだろうか。私に味方したところで瑞貴にはメリットはないように思われる。私の情報を引き替えに、蓮沼へ擦り寄ろうとするという風に考えるのがずっと自然だ。
答えが出ない――。
「……それとも、私のこと信用できませんか?」
私を見透かしたように瑞貴に自らの思惑を指摘され、私は苦笑した。
その通りだった。
「根津さんのことは絶対に蓮沼には漏らしません。お約束します――」
瑞貴の言葉にタレントとしての矜持が見えたと同時に、私はあるアイディアが思い浮かんだ。
「……わかりました。では、蓮沼氏と食事の約束でも取り付けていただけませんか?」
「ええ。はい……?」
私の言葉に瑞貴は怪訝な顔をする。
「貴方を介し、色々聞いてみたいことがある」
「……わたしを介して、ですか?」
「テレビでよくあるでしょう。CCDなんかを仕込んで……」
「……ああ」
瑞貴は納得したように微笑した。
「私が仕掛人になるんですね。……おもしろいかも。わたしが一人でやるよりいいかもしれない。了解しました」
瑞貴に少し元気が戻ったようだった。
「……その代わり」
「なんでしょう」
「もし、蓮沼から何かネタを引き出せたら、わたしのお願いを一つきいていただけますか?」
瑞貴の言葉に私は戸惑う。
「お願い……ですか?」
「はい」
先程より瑞貴の態度が少し和らいでいた。
「……恐いな」
「大したことではありませんから」
金品でも要求するつもりなのだろうか。だが、もし瑞貴がプレゼントを要求するならば、報酬にそれ位のことはしてやってもいいかもしれない。
女に金をかけることは嫌いではない。美人ならば尚更だ。
「いいですよ。お約束します」
私は承諾した。
「絶対ですよ」
そういいながら瑞貴は私の手を握った。
「ええ」
頷く私を瑞貴はいつものように真っすぐ見ていた。
間近で見ると本当に美しい女だった。
瑞貴の美しさは自然美に満ちている。おそらく、手は一切加えられていない天然の造形だろう。
えりのような若さや個性さは無いが、細面の整った容貌。
人に見られるという行為を一身に受け続けてきた結果、放つオーラ。
そして甘く上質な柑橘系の香りが、彼女の印象を強くする。
こんな女が事務所の力学で不遇を強いられていることに、憤りすら覚えた。
互いの会話が止み、いつしか酒を静かに飲んでいた。
さして好きでもない酒を飲みながら、私の中では、目の前の女への興味が膨れ上がっていた。それは欲情にも似ていた。だが、えりに抱いたような肉欲ではない。
久しく忘れていた感覚、渇望、そして期待だった。
聞きたかった――なぜ仕事を干されたのか
岡田の話は本当なのか。
蓮沼と何があったのか――。
だがそれを聞けば、瑞貴を利用できなくなる。それ以上に無用に瑞貴を傷つけるような気がしてならなかった。
私は自分の興味を押さえ込むように、コップの残りの酒を一気に呷った。