中世の束縛
中世ヨーロッパの史実を基に構成しました
権力を得るためのマウンティング合戦が行われていたようです
その街の中央には、天を突く二つの象徴がそびえ立っていた
世俗の権力を誇る伯爵の城の塔と、信仰の権威を掲げる司教の大聖堂の鐘楼である
二人の統治者は、どちらの建築物が高いかで、自らの正当性を誇示するマウンティング合戦に明け暮れていた
街の測量士ハインリヒは、ため息をつきながら、泥と堆積物で詰まりかけた地下排水溝の図面を広げた
「伯爵、司教、地下の下水を清掃する予算を承認してください、このままでは不衛生極まりなく、いずれ恐ろしい疫病を招きます」
しかし、二人はハインリヒの訴えを一蹴した
「地下の泥掃除など、我が領民への示しがつかん、教皇派に侮られぬよう、塔をさらに高くするのが先決だ!」と伯爵が言えば、
「病など神への祈りで退けられる、皇帝派の鼻を明かすため、大聖堂の十字架に金を施す寄付を優先しなさい」と司教が遮る
街の安全を支えるはずの予算は、二人のプライドを満たすためだけに消費されていった
さらに司教は、かつての古代ローマの「性の乱れ」や「贅沢」を徹底的に否定することで、自らの清廉さをアピールしようとした
その結果、民衆に極端な戒律を課していく
「かつてローマの民は、浴場で裸になり、肉体の快楽に溺れて滅びたのだ、否定せよ、肉体を洗うことは、魂を汚す誘惑である」
街の公衆浴場は閉鎖され、人々は身体を洗うことを忌避するようになった
衣服にはノミやシラミが自然と湧き、街の衛生は確実に蝕まれていく
さらに、異端の象徴として街中の猫を排除する命令まで下された
ハインリヒが「天敵がいなくなれば、ネズミが増えて社会が混乱する」と数字で示しても、上層部は「前時代の悪習を断つこと」にしか目がいかなかった
数年後、彼らが自ら作り上げた「完璧な檻」が、その牙を剥く
東方からの交易船が、病原菌を宿したノミを乗せて、クマネズミの群れを街に運び込んだ
猫の消えた街で、ネズミは何の障害もなく爆発的に大繁殖した
二人が予算を出し渋ったせいで詰まった地下排水溝は、彼らの安全な高速道路となり、街中の家々に溢れ出した
そして、民衆は「裸=罪」の教えを忠実に守っていたため、ネズミから飛び移ったノミは、洗うことのない人間の衣服の中でぬくぬくと増殖していった
すべては、二人の不毛な主導権争いと、前権力への極端な反動ルールが人為的に用意した「束縛」の結末だった
「祈りが足りない、もっと教会に集まり、罪を悔い改めよ!」
司教は民衆を狭い大聖堂に密集させ、皮肉にも集団感染を最悪のスピードで加速させた
伯爵の無敵を誇った兵士たちも、鎧の中でノミに喰われ、戦う前に次々と倒れていった
数週間後、街は静まり返り、かつての賑わいは完全に失われた
大聖堂の前で、司教と伯爵が、互いに病に冒されて泥の中に倒れていた
二人は息絶える間際になっても、互いを睨みつけ、どちらに非があるかの擦り付け合いを続けていた
皇帝派と教皇派
政治の旗印は違えど、彼らは結局のところ、同じ「時代の常識」という見えない檻に囚われた、ただの囚人同士に過ぎなかったのだ
防護服代わりに油を塗った分厚い外套を着たハインリヒが、その光景を、冷めきった目で見下ろした
「いい部分まで全否定し、マウンティングに命をかけた結果がこれだ、あんたたちが作り上げたのは神の国じゃない、ただの『ネズミとノミの檻』だ」
ハインリヒは、二人がプライドのために建てた高い塔を見捨て、古代ローマの頑丈な石畳の道路を踏みしめながら、一人で街を去っていった
***
だが、絶望の先で時代は静かに、しかし決定的に変わり始めていた
神の檻が命を救わないと知った人々は、やがて教えに隠されてきた「人間の肉体の美しさ」や「科学の知恵」へと再び目を向け始める
全否定され、打ち捨てられていた古代ローマの偉大な遺産が、人間の手によって再び「再生」される時代が、すぐそこまで迫っていた
だが、人間はまたしても過ちを繰り返す
やがて訪れる光の時代は、富と快楽の深みへ極端に傾倒し、やがて「免罪符」という金まみれの新たな檻を生み出すことになる
人間がマウンティングと極端な否定から生まれる権力争いの連鎖から真に解き放たれる日は、まだ遥か先のことだった
時代に即したマウンティング合戦があるようです
その時代の 「合理」 とされるもの でマウントするのが習わしでしょうか




