Ⅹ song 『また明日……』
「う~ん」
俺の名前は、夜那珂ノ零時。よく周りの人からは変な名前って言われる。 でも、この名前は気に入ってる。夜中の0時。いいじゃん。
せっかく母さんがつけてくれた名前だ。だから俺はこの名前が好きだ。苗字は……まぁ置いておこう。
「う~ん」
俺は、さっきから唸っている。ただ一人唸っている。ワンルームのアパートの狭い部屋で、パソコンと向き合いながら唸っている。
「曲が出来たのはいいんだが。何せ俺は歌えないし。早く誰かボーカル入ってくれねぇかな~」
画面には俺が作曲した曲が映っていた。まだプリントしていない。
近くのスタジオで、バンドメンバーの募集をしているんだが中々メンバーが集まらない。まぁ、15歳の奴が仕切るバンドなんて誰も入らないよなぁ。
「明日、学校で誰か誘ってみるか。って、それこの間やったじゃんか……」
そう。俺は何も急にバンドを作りたいと言ったのではない。半年ぐらい前に、軽音楽部を追い出され、それからは俺個人のバンドを作ろう!と決意したのだ。
まず、最初にしたことは作曲。今考えれば先にメンバー集めないと駄目だったんだよな。
そして、メンバー集めをした。俺は1年だが、2年や3年の先輩にも色々と声を掛けたが、結果は惨敗。当たり前と言っちゃ当たり前なのだが、全校生徒697人中691人すべてに断られるとは思っていなかった。 残りの6人は軽音楽部のメンバーだから誘っていないのは当たり前!
「はぁ。ちょくちょく路上ライブとかやってんだけどなぁ」
以外に聞いてくれる人は結構居た。だが、やはりギター一人の歌無しは流石に……。
何度も他のバンドメンバーに誘われもしたが、俺がリーダーじゃなきゃ嫌だと言う子供のわがままで断ってきた。つまり、俺が言いたいのは、結構自分でも上手いと思ってる。えっへん。
だから、入りたいって言ってくる人の一人や二人居てくれてもいいんだが。
「はぁ。ちょっとその辺ぶらついてこようかな」
ついでに、コンビ二でおにぎりでも。
Tシャツの上から軽く灰色のコートを羽織って、俺は家を出た。
◇◆◇◆◇◆
「う~寒い、寒い」
流石に、1月の下旬にTシャツ一枚にコートは寒かった。 しかもなんだ。今日は雪まで降ってるじゃないか。昼間は降ってなかったのに。雪の馬鹿野郎。
俺は右手におにぎり二つと、紅茶を二本が入ったレジ袋を持って川沿いを歩いていた。なんと、コンビ二には俺の好きな紅茶シリーズの新商品が並んでいたのだ。だから、いつものお気に入りとその新商品の二本を買った訳だ。どうでもいい事だが……。
「あ~。暖かい」
お気に入りのホットな紅茶を両手で、カイロ変りに持つ。すげぇ暖かい。体はめっちゃ寒いけど。
紅茶を飲み終わった頃。俺は公園を突っ切る事にした。近道なんだよな。
公園にある時計をふと見る。今の時間は11時半と、そろそろ日付が変ろうとしていた。
一日ってのはたった24時間。その時間は一度しかこない。 そんな時間がいくつも積み重なって、人は人生を送る。
「やべ。なんか俺のキャラに合ってないわ。今の」
まったくその通りだ。学校では元気な奴で通ってるのに、こんなしみじみとした感じは俺にはあってない。
「こんなのが似合うのは――」
「ラ~ラ~ラララ~♪ ラララ~ララ~♪」
「早々。こんな寂しそうに歌うあの女の子とかがだな。って、女の子!?」
俺が馬鹿やってる公園では、一人の女の子がベンチに腰を掛けてこんな時間に歌っていた。その雪の降る公園のベンチに座って歌う後ろ姿は、やはりどこか寂しそうに見える。 それにしても、なんて綺麗に響く歌声なんだ。
(だが、この歌声はいい。ちと寒いが、もう少し聞いていても罰は当たらないよな)
近くにある、この公園の名前の由来にもなった大木に背中を預け、眼をそっと閉じてその女の子の歌を聴く。
「ララ~♪ラ~ララ~♪ラララ~ララ―――」
(ん?急に歌が止まったぞ? どうしたんだ?)
10分程聴いていると、女の子の歌が変な部分で終わった。そのことに違和感を感じた俺は、瞑っていた眼を開けて女の子の座っていたベンチを見た。
だが、そこには先程歌っていた子は居ない。
「き、消えた?」
突然と姿を消した女の子。俺はもしかして幽霊でも見てたのか? だが、ありえない話でもない。女の子が、こんな大木しかない公園で歌っているのはおかしい。しかも時間が時間だ。最近の子は夜更かしが当たり前のようだが、一人で居るのはおかしい。
俺も夜更かししてるけど。しかも一人だけど……。
「あんた。こんな所で何してんのよ!?」
「え?」
突然背後から声を掛けられ、変な声を出してしまった。
その声の主が誰なのか、後ろを振り向く。 そこには、真っ白なワンピースの上から少し短めのベストを着た女の子が居た。
日本人特有の黒の腰辺りまで伸ばした長い髪を、雪で頭の上だけを染め上げ、背丈は女子高生のそれ。そして、雪のように白い肌の綺麗な顔を、“むっ”とした表情にしていた。
この子は何をそんなに、“むっ”としているんだ?
「もう一度聞くわ。あんた、こんな所で何してんのよ」
「え?俺?」
「何度も言わせないで。こんな所で何してんのかって聞いてんの!」
目の前の見た目と、性格が真逆の女の子が腕を組んで俺に同じ質問を繰り返してくる。いきなり何なんだこの子は……。
「俺はただ、ここに居ただけだけど?」
女の子の幽霊が、綺麗な声で歌ってたから聴いていたなんて言ったら変人扱いだ。別に嘘は言ってないよな?な?
「もしかして、聴いてたの?」
何をそんなに顔を赤くして、言ってるんだ?ゴニョゴニョとしか聞こえないが。ゴニョゴニョって、言っても例えだからな。分かってるか……。
「ん?聞こえにくいのだが……」
「だから!私の歌聴いてたのかって聞いてるんだよ!」
なんだよ。いきなり大声出されたらビックリするじゃないか。 それにしても、今この子なんて言った? 私の歌?聴いてた?はて。
何の事だろうか。あれ?さっきの……。いや、違うだろ。でも一応……。
「聴いてたって、さっきのラララ~って奴?」
「///!!」
また、顔が赤くなっていくぞ?忙しい奴だ――
「ウハッ!!何、しやがる……」
この野郎。いきなり人の腹殴るとか、どんだけストレス溜まってんだよ。あれ、もしかして俺にむかついてんのか?もしそうだとしよう。
…………俺、何かしたか?
「誰にも聴かれたくなかったのに!なんでこんな所に居るのよ!」
無茶苦茶言うな、こいつは。俺が公園に居たら悪いのかよ。
ほんと見た目は、おとなしそうな美人でかわいい子なのに。なんてギャップの差だよ……おい。
「あ~もう!もう一回殴らせてもらうわよ!」
「ちょ、ちょっと待て!状況が理解できていない!そして、俺が何故殴られなきゃいかんのだ。もう既に、一回殴られてるが……」
「うるさい!私の歌があんたに聴かれた事にはらが立ってんのよ!」
「ん?何でだよ。あんなに綺麗な歌声なのに。俺、思わず眼瞑って心で聴くってのかな?聞き惚れたぜ?」
「え!?///」
俺の言葉が以外だったのか、目の前のギャップがすごい女の子はキョトンとする。にしても、さっきから怒ったり、殴ったり、赤くなったり、キョトンとしたり。どうなってんだ、この子は。
「私の歌。良かった?」
「だからそう言ってるじゃん」
ほら。また赤くなった。風邪でも引いたか?まぁ、確かにこんな雪まで降るぐらい寒い夜の公園でポツンと居たんだ。そりゃあ風邪くらい引くだろな。
仕方ないな、もう。親に心配かけんじゃねぇよ。馬鹿。
「な、何してんのあんた」
「そんな言い方はないだろう。こんなに寒いのに、そんな薄着だと風邪引くから俺のコート貸してやったのに。もう風邪引いてるかもしれないが……」
「べ、別に風邪なんて引いてないわよ……クチュン!」
「…………」
「…………」
沈黙。今クシャミしたよな、この子。いや、確実にしたな。クチュンだって。かわいらしいねぇ。ほんと、性格はこれであってるのか?なぁ神様。
「ふんだ!あんたこそ、風邪引くわよ」
何故そこで、顔を背ける。せっかく親切にしてやったのにその態度はなんだ。おい。 にしても、この子の言う事も一理ある。てか、正論だ。今俺はTシャツ一枚に、ジーンズとこの寒さの中では地獄の拷問状態だ。
だが、ここは男。いや、漢を見せるべき所!掛けてやったコートを1分も経たない間に返せって言うのはどうかと思う。てか、恥ずかしい。
「お、俺は、大丈夫。だ、だから。とっとと家に帰って風呂入って、ね、寝てろ」
ガクガクガク。 寒い寒い寒い。まじもう無理。とっとと家帰えろっと。
「あ、これおにぎり。後、新発売の紅茶」
そう言って、俺はレジ袋からおにぎりと紅茶を女の子に渡す。
「え、あ、ちょっと。なんでこんな物」
「こんな物とは失礼な。紅茶は飲まずに、手を温めろ。おにぎりはおまけだ。ついでに言うと、ツナマヨだ。それから、風呂でよ~く温もれよ。そして、出たらすぐ寝ろ。分かったな。 じゃあな」
少し、早口ぎみにそう言って、その場から離脱した。 後ろであの子が何か言ってたような気がしてたが、気にしない。
俺はとにかく早く帰りたかった。やばいよ。ほら、鳥肌すげぇじゃん。そして、さっきからクシャミが止まらないんだよ。
(これは、本格的にやばいな。それと、あのコート。地味に高かったんだよな。まぁいっか)
てか、さっきの別れかたは格好良かったんじゃないか? ………いや、去り際におにぎりと紅茶渡すってどうよ。 しかも風呂入ってすぐ寝ろとか、どこかの母親かよ俺は。
――結果。ただの、おにぎりと紅茶をくれた親切な人。俺、しょぼ……。
◇◆◇◆◇◆
「ふむふむ。なるほどなるほど。で、こっちをこうすると」
ジャラ~ン♪ 俺のマイギターが、音を奏でる。なんともしっくりくる音だ。
「おお~。やっぱりおじさんすげぇや」
「いやいや。その歳でこんな曲作るお前さんの方が、ビックリだ」
学校が終わり、放課後。
俺は今、新曲のリズム合わせをしていた。俺がちょくちょく通ってる、この貸しスタジオ。『レイル』の管理人のおじさんに俺が作った曲を聴いてもらって、少し手直ししてもらっている所だ。
「にしても、おじさん。白髪が目立ってきてんなぁ」
そろそろ、50歳を超えるおじさん。でもまだまだ元気なんだよなぁ。俺も何時までも元気にでいたいもんだ。
「俺も、もう56だ。誰かバイトでも雇わないときついか」
「あ、なら俺やるよ。今色々と金溜めてんだ」
「おおそうか。お前、バンド作るんだったな。その為にか?」
「おうよ。まだ、一人も集まってないけど……」
そう。メンバーが入ったら、色々と使うだろうから、金を結構溜めてたりする。でも、そのメンバーが中々な~。ボーカルに誰か一人入ってくれたら、即結成できるのに。
「焦らんでもええ。お前はまだ若いからな」
「でもさぁ、俺早くプロになりたいんだよなぁ」
「それも、秋斗の為か?」
「まぁね。父さんにあんまり俺の事で、苦労かけたくないんだよ」
別に超一流のプロになりたいんじゃない。ただ、自分一人でも生きていけるようになりたいだけだ。だから、おじさんに音楽の才能があるって言われた時から俺はずっとそれで食っていくって決めた。
おじさんの目に狂いはない。実際に、おじさんが見込んだ人が今プロとしてテレビとかにも出ているらしい。
「秋斗は、今度何時帰ってくるんだ?」
「う~ん。来年の盆には帰ってくるって言ってたかな?」
「なんだ。それじゃあ後1年近く帰ってこないのか」
「そうなるかな」
テーブルの上に、おじさんが入れてくれたコーヒーを飲む。うん。やっぱりここのは美味しいな。
「ボーカルは、俺の方からも何人か探してみておくわ」
「ん。ありがとうおじさん。それじゃあ、来週からにでもバイト入るな」
「おう。頼んだぞ」
そう言って、俺はレイルを出た。
帰り道。昨日の女の子と出会った、公園にきた。何もわざわざ足を運んだわけではない。ただ近道をしようと通りかかっただけだ。
だが、偶然にもそこには昨日の女の子が一人またポツンとベンチに座っていた。
「こんな公園に、また一人とは」
この公園は、街の一番端っこに位置する場所にある事で、あまり人は寄り付かない。たまに俺みたいな輩がいるが、この公園で立ち止まるなんて事はそうそう無いだろう。
「お嬢さん。貴方はお一人が好きなんですか?」
「ほえ!?」
背後から声をかけただけなのだが、女の子は、一瞬ビクと体を跳ね上げてなんとも可愛らしい声で驚く。そして、ゆっくりと俺の方に体を向けるがその表情はやはり昨日と同じく“むっ”としている。
今一なんて言ったらいいのか分からないから、むっとしている感じとしか言いようがない。
「昨日とは逆だな。昨日はお前が俺の背後を取ったが、今日は俺がお前の背後を取った」
「意味分かんない」
「そうだな……」
ふ~む。やはりこの子は俺を嫌っているのか?こんなにも冷たい目線で見られると、なんだか寂しくなってくるじゃないか。
「で、またこんな公園で何してんだ? また歌ってたのか?」
「ち、違うわよ!」
何もそんなに全力で否定しなくても。いいじゃんかよあの歌。別に何も恥ずかしい事なんてないと思うんだが。
「これ」
そう言って、彼女は自分の着ていた灰色おコートを脱ぎ、俺に渡してきた。
「ん?あ、俺のコート」
彼女が俺に渡してきたのは、昨日貸したコート。ふ~む。性格はあれだが、根はいい子なのかもしれん。
「もしかしたら、あんたがここをまた通るかもって、ただコートを返す為にここで待ってたのよ」
「ふ~ん。ただコートを返すだけの為に?」
「そうよ!何か悪い? 借りたままだと、何か悪いし」
「まぁいいや」
俺は、そのコートを受け取り軽く折りたたむ。
「あんたの名前。夜那珂ノ零時。変な名前よね」
「ん?何で俺の名前知ってんだ?」
「コートに学生手帳入ってたから。そこに名前書いてあった。ちなみに住所も」
なんと。そういや、学校に着ていってからポケットに入れたままだったな。てか、コート返してくれてほんとありがとう。学生手帳無くしたなんて、先生方になって言われるか。てか、住所が分かったんなら直接家に来たほうが早いだろうに。だが、やはり男の家に行くのは躊躇うか。
「まあいいや。で、お前は何でそんなに薄着なんだ?」
「あ……えと……」
彼女は、長袖一枚だけしか着ていなかった。まるで昨日の俺だな。
「馬鹿だろ」
「な!だって……」
「まぁいいや。ほれコート。ちゃんと着てろよ」
そう言って、俺は彼女に再びコートを掛けてやる。なんとも、返してもらってまたすぐに貸してやるってのはどうかと思う。
「でも」
ん?遠慮してるのか? だったら――
「そうだな。じゃあまた明日にでも返してくれよ」
「え?明日?」
「ああ。明日またここで返してくれよ。それだったらいいだろ?」
「う、うん……」
なんだこれ……。何故に頬を染める。
「それよりさ。昨日の歌。良かったら聴かせてくれないか?もう一回その綺麗な歌声を聴いてみたいんだ」
これは本心だ。昨日のあれは良かった。実によかった。
「私の歌は、あんまり人に聴かれたくないんだ」
そう言う彼女の表情は、さっきまでとは違い、少し沈んでいる。何かあるのか?あの歌には。
「そうか。じゃあ無理してまで歌ってもらいたくもないしな。仕方ない。あきらめるか」
「あんたも何か歌、歌うの?」
彼女の視線は、俺の担いでいるギターケースを見つめる。フフフ。よくぞ気づいてくれたお嬢さん。
「俺は歌は歌えないんだ。下手だからな。でも、ギターは弾いてる」
「へ~」
「なんだそのリアクションは。もっとこう『すご~い』とかないのかよ」
「別に……。ギター弾いてる人なんて星の数程いるし」
む。言い返せない。確かに、ギターを弾いてるってだけじゃ今一ピンとこないよな。これが、プロのミュージシャンだったら別の話だが。
その後は、一緒にベンチに座り何げない話をした。 お互いの歳や、通っている学校。そして、日常でのおかしな話。実に楽しい時間だった。
「おっと。もう7時か。俺そろそろ帰るわ」
公園の時計を見て、何時の間にか1時間程経っていた事に少し驚いた。まだ昨日会ったばかりの彼女とこれ程までに時間を忘れて話すなんてな。ていうか、性格。もっとやわらかくてもいいんじゃないか? やっぱきついよ。せっかく綺麗な顔してるのに。そんなんじゃ、男が寄ってこないぞ?
俺が、ベンチから立ち上がり帰ろうとした瞬間。彼女にちょっと待って。と、呼び止められた。
「あ、明日は何時に」
「そっか。コートは明日返してもらうんだっけ。そうだな、今日この時間なんてどうだ?」
「分かった」
すっかり忘れていた。まぁあいつは覚えていたらしいが。
「それじゃあ、またな」
「うん。また……」
そうして、俺は彼女と別れた。
(あ、名前聞いてないや)
さっき話をしていた時は、おまえとかお嬢さんとかだったからな。向こうは俺の名前を知ってて、俺は知らないってのはどうかと思うし。 まぁ明日にでもまた聞くか。
◇◆◇◆◇◆
ども。なんか、滅茶苦茶中途半端な終わり方の短編小説。どうでしたか?
本当は、連載にしようかと思ってたんですが、友人からまずは短編で試せって言
われて、プロローグの部分をちょこっと変更しただけの作品です。
連載・・・しようかな~・・・・止めとこうかな~。
出来れば、感想などをいただけるとうれしいです♪ではでは~。