粗雑な運営
「ど、どういうことじゃ!?」
いつも座っているあの女神が、驚いた顔で立ち上がった。
「ええ、ですから、この前送った異世界人はどうやら「スライム使い」という職業をうけまして、これにより現在は酷い扱いをうけております。」
「妾からのギフトは「万の服従」じゃったはずじゃ!」
「ええ、職業はスライム使いでございますが、扱える能力はギフトどおりとなります。」
「なんじゃと。つまり何らかの齟齬が起きて、スライム使いなどのふざけた名前になってしもうたのか?」
「その通りでございます。」
「……くっ、ふざけるでないぞ。」
「なら、一度ご確認を。」
神様の手の上にスイカほどの大きさの、水泡が現れた。その水の中に転生者の顔が浮かび上がった。
「……誠じゃな。」
女神はストンと腰をかけた。
「如何なさいますか。」
「規格外の力を与えたせいで、……混乱が起きたか。今更どうこうできる話でもあらん。お前、下界へ一度降りよ。」
「それは……。」
「彼奴が死ぬまでとは言わん。立場回復を手伝ってやれ。」
「承知。」
女神の部下は、女神の前で膝をついた。そうして、女神は椅子に腰掛けたまま、部下の頭をチョンと触れた。――すると神々しい服が質素な服に、綺麗な赤い目が青色に変わった。
「これでよかろうな?では頼んだぞ。」
「御身のご命令のままに。」
部下はパッと光って消えた。
――――――――――――――――――――
俺は今日も今日とて床掃除。今は外の井戸に水汲み中。あいつらすこーしでも汚れてっと、何故か俺だけをボコボコにしやがる。
「だーっもう、やってらんねー!」
「あ、あの……。」
声のする方を振り返ると、敷地のフェンスの外に誰かがいた。長くて白い髪と、あどけない可愛い顔。
「なんだい、お嬢さん。」
渾身のキメ顔とイケボで語りかけた。
「き、来てください。あの、あっちの方にすごく怖い魔物が……。」
「いや、なんで俺に?」
「私……、貴方の本当の能力が見えるんです。この街の中で、誰よりも貴方様が一番お強いのです。」
「つっても俺、「スライム使い」だぜ?」
「職業は……名前と能力が違ってしまう場合があるのです。」
つまり表記ミスってことか?んだそれ大問題じゃねぇか!……え?ってことはあの女神はちゃんと俺にチート能力をくれたってわけか。
「ち、ちなみに……どんな能力?」
「「万の服従」と、あります。」
「よ、よろずのフクジュウ……。」
な、何その能力、強すぎじゃない!?
「もーっ、そんなことはいいから早く来てください!」
「ご、ごめん。俺どこ行けばいい?」
「着いてきてくださいませ。」
その女性に手を引かれ、森の奥の方に連れてこられた。その人の長い髪がたなびくたび、いい匂いがする。
「ここです。」
この森に足を踏み入れた瞬間、異様な気配を感じてはいたが……。
「……お嬢様、い、いくらなんでも無茶すぎやしませんかね。」
「貴方様ならできます。」
まだ遠くからしか見てないが、あいつはマジでやばい。高層ビル程の大きさの、あれはドラゴンだ。
「ただのドラゴンではありません。あれは古代種、リューシスティックサラマンダーです。」
「なに?リュー……」
「……。サラマンダーです。」
「なるほどサラマンダーか。ねえ君、俺はあれにどうすればいいんだ?」
「さあ?私ができる鑑定は、取り扱い説明書ではありませんから。」
騒いでいたせいか、ドラゴンが起きてしまった。二人は顔を見合せた。
「これって、」
「やばいです。」
二人は全速力で逃げた。
「やっぱり俺じゃダメじゃないですかぁ!」
「貴方の能力が強いからいけないんです!」
「使えなかったら意味ないんだよ!」
「だって……、」
女性は震えた声になって、スピードが落ちた。
「お、おい、何も泣かなくても……。」
すると突然、女は片膝をついて祈りを捧げ始めた。さっきからなんなんだこいつは。
「嗚呼、わたくしは出来損ないの木偶の坊です……。我が主君、どうかわたくしめをお捌きください。」
「なにしてんの。」
すると突然目の前に大岩が落ちてきた。完全に行く手を阻まれ、逃げることができなくなってしまった。
「おいおい、俺まで殺す気か。」
「女神様は罪なき者を殺そうとはしません……。これもきっと神の導きゆえ、」
こいつはもしや、あの女神のことを言ってんのか?俺をサーカスの奴隷のような目で見ていたあの?
「そんな女神に心酔したってな。」
「貴方女神様を侮辱しましたね。女神は貴方のことを見ているのです、そういったことは許されざることなのです。」
なんだこの女は。
まてまて、雑談してる暇なんてなかったんだわ。サラマンダーは俺らに構わずどんどん近づいてくる。ええい、もうこうなったらやけくそだ!!
「えっと、何をお考えで?」
俺はサラマンダーに向かって土下座をした。
「ごめんなさい、許してください!」
「それで上手くいくんですかね。あれ、サラマンダーの動きが止まった?」
恐る恐る顔を上げると、サラマンダーは確かに止まっていた。だが、抗おうとしている。
「やばい、このままじゃジリ貧だ!」
「ジリ貧ってなんですか。」
「今そんなこと聞くなって!」
「貴方様、あれ、サラマンダーを操っているのではないですよ!サラマンダーの足元を見てください。」
どんどんと、近くの森からスライムが飛び出し、サラマンダーの足元にくっついている。
「やっぱりスライム使いじゃなか!?」
「そ、そんな馬鹿な……。あ、ああ、今信託来ました。あまりにも強い力なので、お主のギフトは段階式にしたんじゃったわ。だそうです!」
「お前、あの女神の回しもんか!」
「ち、違います!私は敬虔な信者なだけです!」
「じゃあとりあえず、その女神に苦情を言っといてくれ。」
「わかりました!」
女は空に向かって話しかけ始めた。……やっぱり女神と繋がってんじゃねぇか。そんなことよりドラゴンのことだ、あんなにいるとはいえスライムだけじゃ厳しいだろ。
ん?なんか、遠くの方からノシノシとデカイものが近づいてくるような……。
「女神様が言うにはレベル5まであって、今のままでも十分強いって……。うわぁっ、お、オークですよ!」
女の指差す方を見た。……巨体の猛獣が微かだが見える。一匹じゃないな、あれは二十は居る。
「あれがオーク?」
「貴方様はオークも操れるのですね!」
「操ってる自覚はねぇよ。」
「でも私の鑑定眼には見えますよ、従属中とね。」
「あんくらい居てもサラマンダーには勝てないんじゃね?」
「何言ってるんですか。サラマンダーはドラゴンの中では弱いですし、オークはそこら辺の冒険者じゃ倒せないくらい強いんですよ。」
「いやさっき、このドラゴンはただのドラゴンじゃないんですよ!って、」
「希少なだけですよ?弱いから数が少なくて。」
「屁理屈かよ。」
オークの群れはどんどんドラゴンに近づいていく。さっきまでサラマンダーは俺らを追いかけていたが、今はオークから逃げているようだ。
「暇ですね。では、改めまして挨拶をさせていただきます。」
「別に暇では無いけど、いいよ。」
女はコホンと咳払いをし、姿勢を整えた。
「改めましてルナ教の敬虔なる使徒、エルシーです。」
「エルシーか、俺は……あ、今世では名前ねぇわ。」
「前世のお名前は?」
「カナト。」
「では、カナトさんとお呼びいたしますね。あ、それとも私が命名致しましょうか?」
「……うん、そっちの方がいいかも。」
エルシーは顎に手を当てて少し考えた。数秒して、あっとした顔を上げた。
「じゃあ、カペル。私が昔飼ってた猫の名前です。」
「わかった。」
「いいんですか!?ダメって言うと思ってました。」
「いい名前だしな、カペル。呼び捨てでいいよ。」
「わかりました。ではこれからよろしくお願いしますね、カペル。」
オークがサラマンダーをボコボコにしている傍らで、俺とエルシーは握手をした。




