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限界OL、前世で私を殺した最強の大魔法使いに執着されてます。~生き残るためと言い張って毎晩溺愛してくるお陰で完全復活~  作者: カクナノゾミ


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第9話:大魔法使いvs現代文明(前編)

 土曜日。待ちに待った休日。  ただし、休日だからといって何もしなくていいわけではない。


 朝からウィィィィンと元気に稼働しているお掃除ロボットを避けながら、私は大きく伸びをした。


「奈々。るんすけの進行方向を塞がないであげてくれ」


 真顔でソファから声をかけてきたエリオットに、私は思わず首を傾げた。


「るんすけ?」

「ああ。彼には『るんすけ』という名がある。伴星のように我々に尽くしてくれる忠犬(忠機)だ」

「ネーミングセンス……ってかいつの間に名付けたの!?」


 私のツッコミに呼応するように、足元のルンバが「ピロリッ」と嬉しそうな電子音を鳴らした。……気のせいか、最近この家電、やけに感情豊かになってない?


 まあいっか。

 それとそれとして、現実は残酷だ。冷蔵庫の中身は、なぜか昨日まであった謎の食材(エリオットが錬成したと思われる)が底をつき、がらんと空っぽになっていた。


「エリオット。コンビニ行ってくるけど、お昼何がいい?」

「コンビ……ニ?」


 土曜日。待ちに待った休日。

 ただし、休日だからといって何もしなくていいわけではない。現実は残酷だ。冷蔵庫の中身は、なぜか昨日まであった謎の食材(エリオットが錬成したと思われる)が底をつき、がらんと空っぽになっていた。


「エリオット。コンビニ行ってくるけど、お昼何がいい?」

「コンビ……ニ?」


 ソファに座り、少年漫画(去年買ったジャンプ)を真剣な顔で読み込んでいたエリオットが顔を上げた。

 魔道書か何かと勘違いしているのか、去年の七号を丁寧に行と行の間で指をゆっくり動かしながら追っている。怖い。

 万能の魔法使い様もまだ日本語は読めないらしい。


「この辺にある食料とか日用品が集まったお店のこと。ちょっとそこまで行ってくるね」

「そんな便利な商店が? ならば私も行こう。護衛として」

「護衛って……コンビニよ? 歩いて三分よ?」

「距離の問題ではない。コンビニといえば、荒くれ者が集う危険地帯だろう。君のようなか弱き女性が一人で向かうなど、言語道断だ」


 真顔で立ち上がるエリオット。

 何か巨大な勘違いがある気がする。

 ああ、コォンヴィニスと勘違いしてるのか。

 コォンヴィニスは元の世界で下層階級の人たちが使う市場のことだ。


 恐らく翻訳魔法を使っているのだろうけれど、文字があやふやだったり単語がおかしかったりするので、魔力が足りてないのかも知れない。

 魔力が足りないと、翻訳魔法は精度が下がるって昔聞いたことがある。


 ……まあ、一人にして帰ったら何をやらかすかわからないし。前回一人にしたら六畳一間が王宮になってたわけだし。連れて行った方がましか。


「わかった。ただし絶対に変なことしないでね。魔法も使わない。約束よ」

「承知した。現代の法には従おう」


 頷いたエリオットは、いつも通り一分の隙もない三つ揃えのスーツ姿で颯爽と玄関へ向かった。

 だが、立ち上がった瞬間――私はそれを見逃さなかった。


 ほんの一瞬だけ。彼の足がよろめいた。


「ちょっと、大丈夫?」

「問題ない」


 即答。だけど、微かに顔色が悪い。よく見れば、肌が普段よりもほんの少し白い。唇の色もわずかに薄い。

 そういえば、彼は普段――私が仕事に行っている間、魔力の消費を極限まで抑えるために、部屋でずっと瞑想していると言っていた。この世界には魔法の源になる「魔素」とやらがないから、朝のキス(魔力供給)だけが命綱。その僅かな魔力を、私が帰ってくるまでの十四時間、一滴も使わないようにじっと耐えている。


 つまり、外出するということは。

 彼にとっては「命を削る行為」に等しいのではないか。


 歩くだけで魔力を消耗する。認識阻害の結界も維持しなければならない。外の刺激に対応するために、常に神経を――魔力を――張り巡らせなければならない。

 それは瞑想で温存していた、彼の「なけなしの命」を盛大に浪費するということだ。


「……ねえ、エリオット。本当に来るの? 無理しなくていいんだけど」

「無理などしていない」


 ――嘘だ。

 そう直感したけれど、それ以上は言えなかった。彼の目が「行く」と決めた目をしていたからだ。

 前世で人を殺した男の目とは到底思えないほどに、澄んだ、強い意志を宿した目。


「じゃあ、行こうか。近いからすぐ終わるよ」

「ああ」


 § § §


 アパートを出て住宅街を歩き始める。

 三月の空は薄曇り。時折、冷たい風が吹き抜ける。

 絶世の美男子がスーツ姿で休日の下町をのんびり歩くという、どう見ても異常な光景なのだが――。


「……あれ?」


 すれ違うご近所さんたちが、誰一人として彼を見ない。

 散歩中のおばあちゃんも、犬の散歩をしているサラリーマン風の男性も。自転車で通り過ぎていく中学生も。

 まるでそこに「道端の石ころ」しか存在しないかのように、エリオットの存在をするりとスルーしていく。


「エリオット、今なんか魔法使ってる? 使わないって約束したよね?」

「使っていない。攻撃も防壁も一切展開していないが」

「でも、みんなあんたのことを全然見てないよ」

「ああ、認識阻害の結界のことか」


 彼はさらりと言ってのけた。


「呼吸と同じだ。意識せずとも自動的に展開されている。攻撃魔法でも防壁でもないから、約束の範疇には入らないだろう?」


 いや、それ一番やばいやつじゃない?

 都合よく「息をするように人々の認知を歪曲している」って、普通に考えてとんでもないチートなのだが。

 ……でも考えてみたら、こいつが無戸籍のまま現代社会で暮らしていけている理由って、まさにこれなのか。

 身分証もない。マイナンバーもない。保険証もない。それでも誰にも通報されない。

 なるほど。そういう「仕組み」で成立していたわけだ。


 ただ、その認識阻害の結界すら「魔力を消費している」はず。歩くだけでも消耗するのに、結界まで展開して――。

 ちらりとエリオットの横顔を窺う。

 相変わらず涼やかな表情。でもよく見ると、こめかみに、うっすらと汗が滲んでいた。


 ……やっぱり、無理してるじゃん。


 § § §


 最寄りのコンビニの前に到着した。


「ここが、この世界のコンビニスか……」


 エリオットはガラス張りの外観をじっと見つめている。蛍光灯の白い光が店内から漏れ出している。


「白く眩い光を放つ要塞だな。上級の防護陣を感じる」

「蛍光灯。防護陣って何。行くよ」


 私が先に立って入り口に向かう。


 ――ウィィィィン。


「っ!」


 自動ドアが開いた瞬間。

 エリオットが反射的に私を庇うように飛び出し、左手を前に突き出した。空気がピリッと張り詰める。一瞬、彼の掌に青白い光が走りかけて――すぐに消えた。


「退がれ、奈々! 魔力で起動する透過の障壁だ。何者かが術を仕込んで――」

「自動ドア!!」


 私は全力で叫んだ。


「センサーで近づいたら勝手に開くだけの! ただの! ドア!!」

「……じどう?」

「自分で動くドアって意味!! 魔法でもなんでもないの!!」


 エリオットは不審そうに自動ドアを見上げ、おそるおそる手を伸ばした。

 センサーが反応して、ドアがまた開く。

 引っ込めると、閉まる。

 伸ばすと、開く。

 引っ込めると、閉まる。


「…………」


 子供か。

 五回ほど繰り返したところで、ようやく満足したらしい。


「なるほど。魔力を用いず、物理法則のみで障壁を開閉する術式か。この世界の技術者は、なかなかに侮れないな」

「技術者は侮れないけど、あんたは侮れるわ。入って」


 背中を押して強制突入させる。


 ――ピンポーンパンポーン♪


「なっ!」


 エリオットの全身に、一瞬だけ殺気に近い何かが走った。


「探知魔法が起動した! 侵入を知らせている! 直ちに迎撃態勢を――」

「入店音!!」


 もう説明する気力も底をつきかけている。


「お客さんが来ましたよーって、お店の人に知らせるための音楽なの! それだけ! お願いだから迎撃しないで!!」



 ふと、引っ張った腕から伝わる体温が、少しだけ低いことに気がついた。

 手が冷たい。

 さっき家にいた時は、こんなに冷たくなかった。


 やっぱり。外に出ただけで、こんなに消耗しているんだ。

 でも、彼はそんなことをおくびにも出さない。私の三歩後ろで、不審者スタイル(高級スーツ)のまま、忠実な騎士のような顔で周囲を警戒し続けている。


 ……なんで、こんなにボロボロになりながら、つまらないコンビニのおつかいについてくるのよ、この人は。


 その答えを、私はまだ知らない。


§ § §




毎日お読みいただきありがとうございます! エリオットのポンコツおつかいの裏に隠された切なさ……後編ではさらに心を揺さぶるシーンが待っています。更新を見逃したくない方は、ぜひフォローをよろしくお願いします! 感想もお待ちしてます!



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