表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界OL、前世で私を殺した最強の大魔法使いに執着されてます。~生き残るためと言い張って毎晩溺愛してくるお陰で完全復活~  作者: カクナノゾミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/54

第39話:WAGEプロジェクト、始動(後編)

 会議室の中は、すでに十数人のスーツ姿で埋まっていた。


 財務省、経済産業省、外務省、国土交通省。民間からは大手商社やコンサル、シンクタンク。名刺に書いてある肩書きが、どれもこれも見たことのないレベルで長い。


 一言で言えば、エリートの見本市。

 二言で言えば、なんでここに限界OLがいるんだろう。


 ドアを閉めた瞬間、何人かの視線がこちらに向いた。

 品定め、というやつだ。どこの省庁でもなく、大手でもない。聞いたこともない中小企業から来た、名もない女。

 誰も露骨なことは言わない。でも、空気が語っている。


 ――お前、誰? なんでここにいるの?


 座長の朝倉氏が立ち上がり、会議室を見渡した。


「本日から新たにチームに加わる方をご紹介します。小松奈々さん。民間選抜枠での参画です」


 朝倉氏が私の方に手を向けた。立ち上がって一礼する。心臓がうるさい。


「小松さんは国際貿易関連の現場実務を六年間担当され、先般ご作成された百ページの分析提案書は、当推進室の分析チームからも高い評価を受けています。なお、前職での人事上の事情がございまして、肩書きは一般職となっておりますが、実務能力については私が直接確認しております」


 朝倉氏は丁寧に言ってくれた。精一杯のフォローだと思う。

 でも、会議室の空気は変わらなかった。


 何人かがパラパラと拍手をした。義務的な、温度のない拍手。

 目の前の財務省のエリートは、私の名刺を一瞥して、資料の下に滑り込ませた。隣の経産省の男性は視線すら合わせてこない。わかりやすい。


 一般職。管理職ですらないOL。六年間の実務? それって要するに雑用でしょう?


 ――そういう空気だった。


(……前世の宮廷を思い出すなあ)


 初めて社交界に出た十五歳の夜も、こんな空気だった。成り上がりの商人上がりと陰口を叩かれた伯爵家の娘。誰も味方がいない広間。あの時は父が横にいたけど、今回は本当に一人だ。


 でも、あの時の私はここから這い上がったんだ。処刑されたけど。


 まずは、集まった人たちと名刺交換。

 そして当たり障りのない会話。この辺りは前の会社でのミーティングと同じだ。


 だが、会議が始まると――私の中の何かが、静かに目を覚ました。


「本プロジェクトにおける各地域の経済効果試算ですが、現行のモデルでは変数が不足しています。特に、環太平洋地域との関税連動シミュレーションが――」


 経産省のエリートが流暢に説明する。資料は分厚く、データは精緻で、論理は隙がない。

 隣の男は得意げに頷いている。さっき名刺交換もしてくれなかった人だ。

 だが、私の頭の中では、前世の記憶が勝手に動き始めていた。


(……この資料、構造が甘い)


 三カ国間の貿易均衡を管理していた前世の私が、無意識にそう判断していた。変数の選定が偏っている。リスクヘッジのシナリオが楽観的すぎる。何より、現場の物流コストを完全に無視している。


 机の上にあるだけのデータだ。現場を知らない。

 あの六年間、終電まで現場の数字と格闘し続けた私には、その空白が手に取るようにわかる。


「あの、一つよろしいですか」


 手を挙げた。

 十数人の視線が一斉に向いた。名もなき中小企業出身の、無名の女に。


(心臓が爆発しそう。でも、逃げない。もう逃げないって決めたんだ)


「この試算モデルですが、国際物流の末端コスト――具体的には、通関後のラストワンマイルの保管・配送コストが計上されていません。ここを補正すると、第三四半期の収支予測が約十二パーセント下振れする可能性があります」


 会議室が、静まった。


 経産省のエリートが目を見開いた。隣のコンサルが資料をめくり直した。座長の朝倉氏が、興味深そうに眼鏡の奥から私を見ている。


「……小松さん、でしたか。その補正値の根拠を、もう少し詳しく」


「はい。前職で六年間、国際貿易関連の現場実務を担当しておりました。末端物流のコスト構造については、実測データに基づく知見がございます」


 六年間の地獄が、初めて武器になった瞬間だった。


 § § §


 建物を出て、春の風を吸い込んだ。霞が関の空は、意外と広かった。


 スマホを取り出す。エリオットへのメッセージを打とうとして、やめた。

 どうせ千里眼で見ているだろう。あの男のことだ、会議室の隅っこから一部始終を覗いていたに違いない。


 代わりに、一言だけ打った。


『お弁当、おいしかった。だし巻き最高』


 三秒後に返信が来た。


『承知した。明日は二個入れる』


 ……そういうとこだぞ、あんた。


 § § §


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

 舞台は池袋のマンションから霞が関へ。限界OLの新しい戦場がついに始まりました。


 名刺を資料の下に隠されても、視線すら合わせてもらえなくても、六年間の地獄で磨かれた現場感覚は本物です。前世の令嬢スキルと、現代の社畜スキル。この二つが合わさった時、何が起きるのか——次回からさらに加速していきます。


 そして、エリオットの料理スキルがいつの間にか奈々を超えている問題。思考機械の頭脳でエアー素振り百回した男に、コンビニ弁当で六年間生き延びた女が勝てるわけないんだよなぁ……。


 フォロー・応援(♡)・★での評価が、続きを書く力になります!

 感想・コメントは全件お返事します。「霞が関こわい」「朝倉さん推し」「だし巻き二個w」なんでも嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ