表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラサー限界OL、前世で私を殺した最強の大魔法使いに執着されてます。~生き残るためと言い張って毎晩溺愛してくるお陰で完全復活~  作者: カクナノゾミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/25

第19話:イケメンアレルギー、悪化中(前編)

 遮光カーテンの隙間から、細い朝陽が真新しいフローリングに伸びている。

 エリオットが展開している『安眠と適温の結界』のおかげで、ここ最近の私は目覚まし時計(スマホのスヌーズ機能・恨み節設定)が鳴る前に自然と目が開き、シーツを蹴り飛ばす勢いで起き上がれるようになっていた。万年肩こりで鉛のように重かった身体は嘘のように軽く、無意識に深呼吸すら繰り返してしまう。

 限界ブラック企業の社畜が、毎朝こんなに爽やかな目覚めを迎えるなど、もはや現代日本におけるバグだよね。


 ただのOLが、六畳一間(内部拡張済み・王宮スイート仕様)で迎える極上の朝。そんな常識外れの同居生活にも、人間の順応性とは恐ろしいもので、私はすっかり適応しきってしまっていた。


 寝室を出て、リビングへ向かう。

 エリオットが淹れたであろうコーヒーの芳醇な香りが漂うその空間で、私はふと足を止める。


「…………」


 エリオットは、窓際のソファに深く腰掛け、静かに目を閉じていた。

 魔力を温存するための、彼なりの瞑想なのだという。私がネット通販やファストファッションで適当に見繕ったカジュアルなルームウェアを着崩しているというのに、その姿はルーヴル美術館の壁から抜け出してきたと言われても納得する完成度を誇っていた。


 朝陽を透かして、白銀の糸のように輝くプラチナブロンドの髪。血管の青みすら透けない白磁のような肌に、色素の薄い、ひどく長い睫毛が淡い影を落としている。形の良い薄い唇は静かに結ばれ、規則正しい呼吸に合わせて、広い胸がわずかに上下していた。


 ただ、目を閉じて息をしているだけ。

 たったそれだけなのに、圧倒的で暴力的なまでの「顔の良さ」がそこにあった。


 ――どくん、と。


 肋骨の裏側で、心臓が不自然に大きく跳ねた。

 私は咄嗟に胸元をきつく握りしめ、小さく息を呑む。


(……っ、まただ)


 最近、おかしいのだ。

 彼と同居を始めたばかりの頃は、部屋の隅で体育座りをしてガタガタ震えながら朝を待っていた。だがあのルンバとの死闘や、洗濯機との格闘(泡まみれ事件)、そして毎晩の極上ディナーによる餌付けを経て、彼に対する警戒心は見事にすり減り、いつしか背中を向けて熟睡できる「ちょっと顔が良すぎる、得体の知れない同居人ヒモ」へと認識が変化していた。


 だが、その『慣れ』が、逆に厄介な問題を引き起こしていた。


 警戒の壁が取り払われたことで、彼が本来持っている「規格外の美貌」という特大のパラメータが、物理ダメージとしてダイレクトに私の網膜を焼いてくるようになったのだ。

 ふとした瞬間の伏し目。コーヒーカップに口をつける横顔。私を見下ろす、あの絶対零度のアイスブルーの瞳。それらを視界に収めるたび、脳内でけたたましい警鐘が鳴り響き、手のひらにはじわりと嫌な汗が滲む。時には、呼吸の仕方を忘れて酸欠になりかけることすらあった。


(アレルギー反応厳しい!! イケメンアレルギーで死ぬかも!?)


 まるでヘヴィメタルのドラムソロのように早鐘を打つ胸を必死でなだめながら、私は自分自身に強く言い聞かせる。


(そう、これはアレルギー反応! 生命の危機を感じた細胞が起こす、トラウマからの自己防衛本能なんだから!)


 あの無駄に整った顔、あの冷たい瞳は、前世で公爵令嬢だった私を見下ろし、容赦なく断罪の魔法を放った男のものだ。細胞の奥底に刻み込まれた『死の記憶』が、彼の顔を見るたびに「ボスモンスターの気配察知!」とアラートを鳴らしているだけ。

 そう、これは強烈なイケメンアレルギーの重篤な症状なのだ。絶対に、そうだ。そうに決まっている。他に理由なんてない。

 ――ないったらないっ!


 懸命に心の中でポンコツな理屈を並べ立て、動悸を抑え込もうとした、その時だった。


「……おはよう、奈々」


 静かな、それでいて鼓膜を直接撫でるような低音バリトンが、空気を震わせた。

 ビクッと肩を跳ね上げて前を見ると、いつの間にか目を開けたエリオットが、こちらを真っ直ぐに見つめていた。


 朝の光を反射して煌めく、氷のような、けれどひどく甘い温度を孕んだ青い瞳。ソファから立ち上がった彼が、長い脚で音もなくこちらへ近づいてくる。顔面国宝の接近。頭の中のアラートが鳴り止まない。


「よく眠れたか?」

「あ、うん。……結界の、おかげでね」

「それは良かった。顔色も少し戻ってきたようだな」


 スッと、白魚のような長い指が伸びてきて、私の頬にかかった髪をそっと耳に掛けた。


 ただそれだけの仕草なのに、彼の指先が触れた耳介から、ボワッと発火したような熱が全身に広がる。肋骨を内側からタコ殴りにするような心臓の音が、彼に聞こえてしまわないか不安になるほどの爆音で鳴り響いていた。


「……では、今日の分を」


 エリオットが、長い睫毛を伏せ、少しだけ身をかがめる。

 神様が手描きでデッサンしたような綺麗な顔が、私の視界いっぱいに近づいてきた。


――毎朝の日課。

 魔力ゼロの現代日本で彼が消滅しないための、魔力供給という名の『業務連絡としてのキス』の時間が、今日もやってきたのだ。


 § § §


お読みいただきありがとうございます!

「イケメンアレルギー、悪化中」編、スタートです! 朝から心臓フルスロットルの奈々、お疲れ様です。寝起きの破壊力に耐えきれず「アレルギー反応」で片付けようとする姿、健気すぎませんか……?

そして毎朝の魔力供給キス、いよいよ登場。業務連絡(物理)の行方はいかに。

次回、後編ではさらにアレルギー(※)が悪化します。お楽しみに!

フォローや、★での応援、感想もお待ちしてます!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ