つむぎのバナナ牛乳
「ーお母さん、お腹空いた」
つむぎは学校から帰ってくると、出迎えた母親の翔子に言った。
「そう。じゃあ何か作ろうかしら」
「あたしも手伝う!!」
つむぎが勢いよく手をあげると、翔子はくすりと笑う。
「じゃあ手を洗って、うがいをして…」
「うん!! ちょっと待っててね」
急いでランドセルをおろし、洗面台へ向かう。その間、翔子は冷凍庫を見、何を作ろうか考えているのだった。
「準備、できたよ!!」
エプロンを着用し、キッチンに姿を現すと、翔子が振り返る。
「じゃあ作りましょうか」
「うん!! 何を作るの?」
「バナナ牛乳」
「バナナ牛乳!! 食べたい!!」
つむぎははしゃぎ、手を振る。今は夏だから、冷たいものを欲していた。
「つむぎがバナナを切る!!」
「やってみて」
翔子が立ち位置を交換すると、つむぎはまな板の前に立つ。バナナの皮をむき、包丁を手に持つと、一口大に輪切りにしていく。
「その調子、その調子」
「あたし、上手?」
「上手、上手!! あ、全部、切ったわね」
最後まで切ったのを確認すると、翔子は冷凍庫から牛乳を取り出す。切ったバナナをボウルに入れると、牛乳をひたるまで注ぎ、最後に砂糖を加える。
「砂糖が溶けるまで混ぜてくれる?」
「うん!! …えっと何を使おうかな」
つむぎが悩んだ末に手に取ったのは、大きめのスプーンだった。それでバナナを崩さないように、くるくると混ぜていく。
「…こんな感じでいい、お母さん?」
「うん。大丈夫!! じゃあ、ラップをして冷凍庫に入れましょうか」
「ラップはと…あった!! ボウルを覆うように広げて…」
つむぎはラップすると、翔子がボウルを手にする。
「食べる直前まで、冷やしておきましょうか。それであとはー」
「あとほ? 何を作るの?」
「薄焼きでも作ろうかと思ったんだけど…」
「薄焼き!! 大好物!!」
はしゃぐつむぎに、翔子は優しく微笑む。
「じゃあ、材料を取り出して…」
「うん!! 冷凍庫から薄力粉と卵を出して…」
作業台に置くと、翔子が砂糖と水を用意する。
「まずは薄力粉からボウルに入れて…」
「こんな感じ?」
「…そうね。それから卵を割って入れて…。殻が入らないように気をつけて」
「…よし。綺麗に割れた!!」
「良かった。あとは砂糖はこのぐらいで、水を入れて…と」
分量は翔子に任せ、つむぎは泡だて器を用意する。
「はい。かき混ぜて。ゆっくりでいいわよ」
「はい!! ゆっくり、ゆっくりかき混ぜて…」
粉が綺麗に滑らかになるまで混ぜると、つむぎは翔子に見てもらう。
「こんな感じでいいの?」
「…大丈夫そうね。それじゃあ、フライパンにサラダ油を大さじ1から2注いで…」
つむぎは言われるまま、ガスコンロを点火し、温まるまで待つ。
「もういいかしら」
翔子がフライパンに手をかざし、熱を計る。つむぎはわくわくしながら、隣で様子を見ている。
「よし!! じゃあ生地を流して…」
「お玉でいいよね?」
「いいわよ。お玉いっぱい分、伸ばして…そう。その調子」
生地を広げると、ジューッといい音がした。
「焦げないように中火にして…」
「中火、中火っと…。こんなくらい?」
「そうそう。表面がふつふつしてきたら、ひっくり返して」
「うーん、甘い香りがする」
キッチンの中は砂糖の焼ける匂いで、充満していた。
「よし!! ひっくり返して」
「フライ返しで、ひっくり返して…と。えい!!」
つむぎは慎重に生地を持ち上げると、ひっくり返すのに成功した。
「うわ、美味しそう!!」
「そうね。ホットケーキとはいわないけれど、そんな感じのものだしね。お母さんもお腹空いちゃった」
「一緒に食べよう!!」
「うん!! …あとは焼けるのを待って」
翔子がフライ返しを受け取り、焼き具合を確認する。
「あ!! もういいかもしれない。つむぎ、お皿をちょうだい」
「分かった!! お皿は…と。このくらいの大きさ?」
「それでいいわ。ありがとう」
翔子が皿に薄焼きをのせると、最後にマーガリンを置く。
「完成!! できた!!」
「できたわね。よく頑張りました」
「えへへ。お母さんに褒められると嬉しいな」
「そう? だったらいっぱい褒めてあげる」
「きゃー!! あはは」
2人はじゃれ合うと、残りの生地も焼いてしまう。
「よし!! じゃあバナナ牛乳を取り出して、お皿にもりましょう」
喉が渇いていたので、つむぎがごくりと唾を飲み込む。
「洗い物はあとでいいから、先に食べましょうか」
「うん!!」
つむぎは元気よく答えると、テーブルの椅子に腰かける。そして
「いただきます」
翔子と一緒に手を合わすと、バナナ牛乳を口にする。甘い冷たさが喉にしみ、とても滑らかだった。バナナを一口食べると、その熟した感じがとても美味しく感じられる。
「美味しーい!!」
つむぎは足をばたつかせると、一気に食べてしまった。翔子が
「ゆっくり食べればいいのに」
そう優しくさとすと、つむぎはちょっと照れくさそうに言う。
「あの、お腹空いてたから…。薄焼き、食べてもいい?」
「いいわよ。熱いうちに食べなさい」
「はーい!! フォークで一口大に切って…」
ぱくりと口に入れると、もちっとした食感がたまらない。マーガリンの塩味と生地の甘さがちょうど良く、つむぎはぱくぱく食べていく。翔子もそんなつむぎを愛おしそうに見、言葉をかける。
「また、一緒に何か作りましょうか」
「うん!! 次も作る!!」
にこりと笑うつむぎは、薄焼きを口に放り、幸せそうな表情を浮かべたのだった。




