選ばなかった土地
離婚をきっかけに、終の棲家を探し始めた。
別居中に住んだ集合住宅で、隣や階上の生活音に悩まされたこともあり、一人暮らしであっても一戸建てに住みたいと考えていた。
不動産会社に相談すると、条件に合う物件をいくつか紹介してくれた。
休日のたびに、担当者と内見を重ねる日々が続いた。
ひとつ、妙な物件があった。
「お客様はここを選ばれないと思います。ただ、参考までにご案内します」
そう前置きされて連れて行かれたのは、駅から近い坂の上に造成された住宅街の一角だった。
周囲には新しい家が並んでいるのに、その区画だけが空き地のまま残っていた。
曇った晩秋の日で、前夜の雨のせいか、地面は湿っていた。
資料には、駅近の割に、相場よりかなり安い価格が記載されていた。
「ずいぶん安いですね?」
「ええ。事故物件なんです」
「え」
「前の家主が、ベランダで首を吊りまして」
事務的な口調だった。
「もしこちらを購入された場合、新しく家を建てますが、家の作りは大体同じになります。ベランダも、多分同じ向きになります」
想像してしまった。
もしここを買ったら、自分も同じ向きのベランダで、同じ景色を見続けることになる。
洗濯物を干すとき、息抜きをしたいとき、落ち込んだとき。そのときに見る景色が、前の家主が最期に見た景色と同じだったとして。
何十年も住み続け、同じ景色を見続けるうちに、ふと同じ行動をとってしまいはしないだろうか。
結局その土地の購入は見送った。
今でも、あの土地のことを時々思い出す。その後あそこが売れたかどうか、強いて調べることはしていないが、なんとなくまだ、空き地のままであるような気がしている。




