6 嫌な予感
「ふぅ」
休憩になり、持っていた水を飲んで一息入れる。手で影を作り、上を向くとティーダの太陽の光が容赦なくクグルたちに降り注いでいるのが見えた。春とはいえ、しばらく歩くと汗が出てくる。
「クグル、大丈夫?」
心配そうに尋ねてくれる先輩神女にクグルは笑顔で答える。彼女はクグルを迎えに来た女性だ。神女となったあともよく声を掛けてくれる。
彼女の手助けのおかげでこうして神事に参加できるまでになっているので感謝しても足りないほどだ。
「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」
それを聞くと安心したようにクグルに微笑み返して同じように他の人へと声を掛ける。彼女が居なくなると年が近い他の神女たちが話しかけてくれる。最初は腫物に触るような扱いだったが、今では気安い会話も出来るようになっている。
とはいえ、ここは民の目が見える場所なので神女としての品位を保つような態度を取らなければならないので気は抜けない。
しばらく休んだのでそろそろ行こうかと話していると大きな叫び声が聞こえた。
「うわあぁあ」
声が聞こえた方を見ると男が複数の牛の魔物に襲われているのが見えた。同行していた兵士は顔を見合わせて頷くと数人を残し、他は彼を助けるために走っていった。
これまで神事の移動中に魔物が現れたなど一度もなかった。
産まれたときから街の中で暮らす一部の神女たちにとっては魔物を見るのは初めてのことだ。兵士もいるので逃げようとする者はいないが、ちょっとした混乱が起きていた。
「魔物は城の兵士が倒してくれます。だから、皆、落ち着いて」
「必ず皆様をお守りいたしますので、その場を動かないでください」
チヌユの代わりを任された神女と彼女たちを守るために残った兵士が声を上げるが、騒ぎは静まることはなかった。その中でクグルだけが冷静に状況を見ていた。
「クグル、貴方、随分落ち着いているのね」
先ほど、声を掛けてくれた年が近い彼女が驚いた顔で尋ねる。
「ええ。街の外で住んでいると魔物はよく見るので」
街外れの村で暮らしていたクグルにとって、畑を荒らすような魔物は見慣れたものだ。ティーダに出る大概の魔物は弱く、小さいので罠を張り、捕まえれば、女性でも倒すことができるのだ。彼女もそうして何匹か倒したことがあるので、初めて魔物を見る他の神女より冷静なのだ。
だが、魔物を何度か見たことのある彼女も兵士が相手をしているようなものは見たことがない。嫌な予感がして思わず首飾りに触れる。
しばらくすると何体か魔物を倒せたようだが、まだ残っている。クグルが戦っている兵士を心配しながら見守っていると一人の兵士が魔物の振る角に掛かり、地面へと投げ出された。
今まで目隠しの壁の役割をしていた兵士が倒れたことで、ハッキリと魔物の姿があらわになった。それの見たこともない不気味な姿に一瞬の静寂が周囲を支配し、やがて悲鳴が上がった。叫び声で神女たちに気づいた数体の魔物がこちらへと向かって来る。
明日も12時投稿予定です。よろしくお願いします。