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4 チヌユ

 神女(かみんちゅ)は王に仕える者たちと同じぐらい高い地位を持つ。そんな人と気軽に会えるような立場の人間など知り合いにいない。


「貴方も知っているでしょ。ほら、貴方がしている首飾りをくれた」


 その時、クグルはハッと気が付いた。チヌユが首にしている物は自分が今、首にかけているのと同じ物のように見える。

 チヌユが着けている首飾りは女神から賜わった物として広く知られており、それもあって国中が彼女を尊敬しているのだ。


「まさか」


 何かに気が付いた様子のクグルを見て、チヌユは頷いた。


「あの方はね、ティーダを作った女神様よ」


 予想も付かなかった答えにクグルは口元を手で覆い、目を丸くする。

 幼い頃に尋ねたことはあるが、その度にいたずらな笑顔ではぐらかされた。いつかわかると言っていたので、そのうち話してくれるのだろうと思って今まで気にしていなかった。


 いや、声の女性が醸し出す厳かで清らかな雰囲気、全てを見透かしているような話し方、そして、女神の祝福と言われている貝殻と真珠が使われている首飾りを人知れず贈られたことから本当は彼女が人ではないことは薄々わかっていた。

 だが、この国を作った女神だとは思わなかった。


「わ、私、そうとは知らず、女神様に失礼なことばかり話していました」


 両親が忙しくしている姿を見て遠慮してなかなか言えなかった今日起こったことや弱音など他愛ないことを聞いてもらった。

 女神という尊い方に何てくだらないことを言っていたのだろうとクグルは申し訳なく思った。そんなクグルを気遣いようにチヌユは優しく声を掛ける。


「あの方はね、貴方が心を開いて話してくれて嬉しいと言っていたわ。

 だから、気にすることは何もないわ」


 そういえば、いつもクグルが話してばかりだったのに彼女は楽しそうに何でも聞いてくれた。それが嬉しくて、次はいつ会えるのだろうとよく思っていたものだ。


 安心して胸を撫で下ろしていると新しい疑問がわいてきた。


「ですが、何故今、この首飾りを贈ってくれたのでしょうか」


 チヌユは幼い頃に女神から首飾りを賜わり、そのまま最年少で神女(かみんちゅ)に選ばれたと言われている。クグルも物心がついた頃に女神と出会ったのに、首飾りを贈られたのは成人も間近の年齢になった今日だ。

 何か理由があるのだろうかと思っているとチヌユが答えてくれた。


「ああ、それはね、幼い貴方と家族を引き離すのが可哀そうに思ったからだそうよ」


 神女(かみんちゅ)になると神事を行うために必要な知識や姿勢など学ぶことは多岐にわたる。

 もし、小さい頃に選ばれていたら、自由はほぼなくなり、家族とも疎遠になっていただろう。


「私は、家族と上手くいってなくてね。それを知って女神様が首飾りをくれたの。

 おかげで、あの人たちと離れられた上に居場所も出来て、私は嬉しかった。

 でも、貴方はそうではないでしょ」


 クグルの両親は彼女を愛してくれている。彼女もそれがわかっているからこそ、何か出来ることはないかと考えて母の手伝いや弟妹の面倒を見ているのだ。

 それを姉なのだから当然だと考える家庭もあるそうだ。


 しかし、クグルは両親からそんなことを言われたことは一度もない。いつも感謝の言葉をくれるが、同時にクグルに気を使わせていないかと心配してくれる。そして、自分のしたいことをしてもいいのだと言ってくれる。


 優しい両親に可愛い弟妹も慕ってくれて、クグルは家族が大好きだ。


「だから、女神さまは待っていてくれたのですね」


「ええ。それにあの方はこうも言いました。クグルが望まないならば、神女(かみんちゅ)になるのを強制はしないとね」


 女神はクグルが家族を大切に思っているのを知っているからこそ、そう言ってくれたのだ。


 自分は何と贅沢者なのだろうと思った。

 クグルを愛してくれる両親だけでなく、女神も彼女の心を理解してくれるほどに想ってくれる。自分のように幸せな人間はなかなかいないだろう。


「チヌユ様、私は神女(かみんちゅ)になることを選びます」


 だが、そんな女神だからこそクグルは彼女に仕えたいと思ったのだ。迷いはなかった。

 力強く答えるクグルにチヌユは満足そうに笑った。


「貴方ならそう言ってくれると思っていたわ。

 これから貴方には神女(かみんちゅ)として必要な知識を学び、そして、この首飾りの正しい使い方を知ってもらうわ」


「これは女神からの贈り物というだけではないのですか」


 そういえば、彼女はどう扱えばいいのかあの子が教えてくれると言っていた。改めて首飾りを触ると何か力を感じる。


「それはね、私たちの中にある女神の力を自由に使えるようにする物なのだそうよ。

 私もよくわからないのだけれどもその力があるから、私たちはあの方と会話をすることが出来るらしいわ」


 クグルが手の中にある首飾りを握ると優しく光る。まるで女神に励まされているように感じて心が温かくなった。


「チヌユ様、どうかご指導のほどよろしくお願いします」


 姿勢を正し、深く礼をするクグルを見てチヌユは頷いた。


「私も誰かに直接教えるというのは初めてなの。一緒に学び、成長しましょう」


「はい!!」




 これが後に混乱するティーダ王国を支え、戦った神女(かみんちゅ)クグルの誕生であった。










明日も12時投稿予定です。よろしくお願いします。

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