3 赤く美しいスイムイ城
神女の女性の話を聞くと彼女たちの最上の存在であるチヌユがクグルを呼んでいるとのことだった。知らずに何か彼女に失礼なことをしたのかと思い尋ねたが、用件は会ってからとのことだった。
心配する両親と一緒に悩んだが、断ることの方が失礼に当たるだろうと考え直して迎えに来たという彼女たちが乗って来た馬車に乗った。
神女たちはティーダの神々、そして王に仕えており、神の言葉を王へと伝えたり、神事を執り行ったりといったことが主な仕事だ。また、地域を統治することで離れた地に住む人々の声を王に届ける者もいたりとこの国でも重要な役割を持つ役職なのだ。
中でもこの国を作った女神と唯一会話出来ると言われているチヌユは最もよく知られた神女だ。
彼女は幼い頃から女神と話すことが出来たそうで、最年少で神女に任命された。勤勉で賢い彼女は前王が信頼する人物の一人だったのだそうだ。
そんな人が何故自分をと思っていると動いていた馬車が止まった。チヌユが待つ神女たちの住居に着いたのだ。恐る恐る馬車から降りるとスイムイ城が見えた。
父が務めているが、クグルは今まで遠くから眺めるだけだった。その赤く美しいスイムイ城をこんなに近くで見たのは初めてで暫し、見とれていると一緒に乗っていた神女の女性に声を掛けられた。
「クグル様」
「あ、はい」
急いで振り返ると彼女はおかしそうに笑っていた。それは見下すような嫌な笑いではなく、クグルが幼い妹を見るときのような慈しみから来るものだった。
クグルは長女であり、母が大変そうにしているのを見て、しっかりしないといけないと小さい頃から思い、行動してきた。そんな彼女にとってそのような目で見られるというのは経験がなく、どうすればいいのかわからずに視線を彷徨わせる。
心なしか顔が熱いので、赤くなっていることだろう。
「美しいですよね、スイムイ城」
クグルから目線を外し、同じようにスイムイ城を見つめて彼女は口を開いた。気を使われていると感じたクグルは何か答えなければと言葉を探した。
「わ、私こんなに近くて見たことがなかったので、つい見とれてしまいました」
「わかります。私は地方出身なのでそれまで名前だけ知っていたのですが、一目見て国の象徴である厳かさとどこか懐かしい気持ちにさせるその姿からティーダの民に愛されるのも納得だと思ったものです」
もしかしたら、スイムイ城を見るクグルに彼女は昔の自分を重ねたのかもしれない。そう思うと緊張が解けて安堵のため息が漏れる。それがわかったのか、彼女は微笑みを深くする。
「チヌユ様がお待ちです。行きましょう」
「はい」
背筋を伸ばして姿勢を正し、彼女の後をついていく。長い廊下を抜けてしばらく歩いていると大きな扉が見え、彼女はその前で止まった。
「中でお待ちです。どうぞ」
扉を開けて中へと促す彼女に従い、クグルは足を踏み入れた。部屋には白い髪を綺麗に結い上げ、神女特有の服をキッチリと着こなす年を召した女性がいた。
神事の時に一度だけ見たことがある。間違いなく、目の前の女性がチヌユだ。
彼女はクグルを見ると顔のシワをより一層深くして微笑む。
「ようやく会えたわね、クグル」
その言葉にクグルは首を傾げた。一方的に見たことがあるだけで彼女と会った覚えはない。
もしかしたら、自分が忘れているだけかもしれないとクグルは問いかける。
「あの、私、チヌユ様とお会いしたことがあったでしょうか?」
それを聞いて笑ったまま彼女は首を横に振った。
「いいえ、初めてよ。
でもね、色々とあの方から聞いているから、私は初めて会ったような気がしなのよね」
「あの方?」
明日も12時投稿予定です。
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