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12 心

 あの邂逅から、ハリユンは時間を見つけてはクグルに会いに神社に来るようになった。

 いつも一人で来るので護衛はどうしたのか聞いてみたところ。


『ああ、撒いてきた。実は剣よりも隠れたり、逃げたりといったことの方が得意なんだ、私は』


 と笑いながら言うものだから、呆れてしまった。

 しかし、誰にも邪魔されずに彼とゆっくり話せることにクグルも嬉しく思っていたので、あまり強くは言えなかった。




 ハリユンと出会い、会話をしてから季節は冬へと変わり、青々としていた緋寒桜には可愛らしい花が咲いていた。

 今日は二人で花見がしたいというハリユンの提案で木の下で敷物を置いて並んで座っている。


「私、緋寒桜が好きなんです」


「私も好きだな。クグルのようで」


 釣り鐘状の花の形がクグルの体型と同じだといってからかっているのだろうか。

 いや、そんなに太ってはいないし、何よりハリユンがそのような人を傷つけるような冗談をいう人でないのはクグルがよく知っている。

 結局どういうことなのかわからず、首を傾げる彼女にハリユンは微笑んだ。


「緋寒桜の花言葉は『心の美』。正しく君のような花じゃないか。そう思わないか、なあ、(クグル)?」


 クグルというのはティーダの古い言葉で心という意味だ。ハリユンがどういう意図で言ったのかを理解したクグルは頬が赤くなるのを感じた。


「ご、ご冗談ばかり」


 彼に見られたくなくてつい顔を逸らす。ハリユンは黙ったまま、そっとクグルの手に自分の手を置いた。

 そのことに気が付き、彼の方を向くといつもの少年のような顔は鳴りを潜め、真剣な表情でクグルを見つめていた。


「冗談ではない」


 触れあっている手から伝わる熱で、彼が本気で言っているのだとわかり、クグルは何も言えなくなってしまった。そんな彼女に構うことなく、ハリユンは続けて口を開く。


「どうか私の妻となって共に歩んでくれないか」


「で、ですが、私では身分が」


 クグルは一般人だ。そんな自分が王であるハリユンと釣り合うはずがない。


「このティーダで神女(かみんちゅ)以上の身分の女性はいないと思うが。しかも、君はいずれ神女(かみんちゅ)たちの最上となる存在だ。誰も反対などしないよ」


 ハリユンと話した後、クグルはチヌユの跡を継ぐことを決めた。今までの学びに加えて、神女(かみんちゅ)たちの見本となるべく、それまでより厳しい指導を受けることになった。自由な時間は減り、辛いことも多いが、自分が決めたことに後悔はない。


「…それは王としての考えでしょうか」


 神女(かみんちゅ)たちの上に立ち、女神から力を授かった存在であるクグルを妃にすれば、いまだにハリユンが王に相応しくないと彼に反発する人々も流石に黙るしかない。


 ティーダを想う王としては正しい判断だ。彼と同じように国を想うのなら、クグルはこの提案に頷かなければならない。それが女神から首飾りを受け賜わった自分の義務だとわかってはいるのだが、返事をすることが出来ず、問いかけてしまった。


 何故か義務のようにそのようなことを彼に言われるのは嫌だと思ってしまったのだ。そんな駄々をこねる子供のようなことをしてしまった自分を恥じ、うつむいてしまった。

 頭上からハリユンの声がクグルの耳に入る。


「王としてと聞かれれば、そうだな。

 君を妻に迎えることが出来れば、ティーダの民も安心し、より良い国になることが出来るだろう」


 やはり、そうなのだ。

 わかっていたことなのに堪えようのない虚しさで顔を上げることができない彼女の手を彼は強く握った。その手にどこか優しさを感じ、クグルは恐る恐るハリユンの顔を向き、息を呑んだ。


「だがな、王など関係なく、君の心の美しさに私はずっと惹かれているよ」


 自分を真っすぐに見つめる彼の瞳には熱い恋情があるのを感じる。それが自分に向けられていると思うと目が逸らすことが出来ない。


「クグル、愛している。これが王としてではなく、ただのハリユンという男の本音だ」


 ようやく、こちらを見てくれたことにハリユンは嬉しそうに頬を緩ませる。


「君の答えが出るまで、いつまでも待つよ。ゆっくり考えてくれ」


 そう言って立ち上がり、去っていく彼を自分の気持ちがわからないクグルは見送ることしかできなかった。








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