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第008話 模擬戦

 教師用の訓練場にやってきた。


 ここでは宮廷魔術師も訓練しているらしい。なぜなら、マギステリア魔法学園の教師は宮廷魔術師を兼務している者がほとんどだからだ。


 世界でも有数の魔法学校の教師ともなれば、多くが優秀な魔法使いでもある。宮廷魔術師に選ばれているのも当然だろう。


「学園長だ」

「副学園長もいるぞ」

「フィリーネ様もだ」

「あの三人が揃っているなんていったい何が起こるんだ?」


 中に入った瞬間、場が騒然となる。


 クライストはどうやら副学園長だったらしい。マギステリア魔法学園の副学園長を任されているということは相当な使い手に違いない。


 スペルはそれほどの強者と対峙することになる。一気に高まる緊張。すこしだけ模擬戦と受けたことを後悔した。


「あのおっさんは誰だ?」

「見たことがないな」

「新しい同僚か何かか?」

「それにしては魔力は無さすぎるでしょ」

「冴えないしなぁ」

「ほんそれ」


 一方でスペルは言われたい放題。その通りだからため息も出ない。


「「「ひっ」」」


 一瞬、フィリーネの魔力が膨れ上がった気がした。


「ん? 何かありましたか?」

「いえ、なんでもありませんよ」


 スペルがフィリーネの顔を見るが、先ほどまでと変わらない様子。敵でも襲ってきたのかと思ったが、気のせいだったらしい。


 連れてこられたのは訓練場の一角にある模擬戦用のフィールドが集まる区画。


 いくつものフィールドが並んでいて、そのうちの一つに学園長が幼女らしからぬ動きでぴょんと跳び乗った。


「皆、すまんが、少しの間、ここを開けてはもらえぬか?」

「学園長、勿論ですっ!! どうぞ」

「うむ。ありがとう」


 学園長が訓練していた教師に声を掛けると、嬉しそうに場所を明け渡す。


 なんだか自分のために修行の場所を奪ってしまうのは少し申し訳ない。


「それでは、クライスト、スペル、上がってまいれ」

「はっ」

「分かりました」


 学園長に手招きされたので、フィールドに上がる。


「致死性の高い魔法は禁止じゃ。分かっておるな?」

「「はいっ」」

「それでは、お互いに印のある場所に立つのじゃ」


 フィールドは三十メートル四方程度の広さ。お互いに十五メートルほど離れた場所に立ち、向かい合う。


「おいっ、副学園長とあのおっさんが模擬戦をするみたいだぞ!!」

「マジであのおっさん何者なんだ? お偉いさんか?」

「そんなことより副学園長が戦うところなんて滅多に見れないぞ!!」

「目に焼き付けるしかねぇ!!」


 フィールドの外が騒がしいと思っていると、訓練していたはずの人間たちがフィールドを取り囲んでいた。


 これほどの人間に自分の未熟な魔法を見られるのは恥ずかしい。


「お師匠様、頑張ってください」


 しかし、今は弟子の前。無様に負けるのわけにもいかない。もう逃げも隠れもできない。いい加減覚悟を決めなければならないだろう。


「ふぅ~」


 スペルは目を瞑り、深呼吸をした後、目をカッと見開いた。


「お互いに準備はよいか」

「いつでも」

「私もいつでも構いません」

「それでは……」


 学園長が言葉を溜めると、先ほどまで騒がしかった訓練場が静まり返る。


 まるで時が止まったかのようだ。


「はじめっ!!」


 そして、学園長の声とともに時が動き出した。



 ◆   ◆   ◆



「はっ」


 クライスト様が手を翳すと、いくつもの火球が放たれた。クライスト様も数少ない無詠唱魔法の使い手だ。


 クライスト様が放ったファイヤーボールは、人間の頭くらいの火の玉を放つ下級魔法。初級魔法のプチファイヤの上位互換だと言える。


 お師匠様も全く同じ数の魔法を放った。


「ぐっ」


 そのはずなのにクライスト様が顔を歪めて膝をつく。


「いったい何が起こった?」

「どうして副学院長が被弾してるんだ?」

「あのおっさんが何かしたのか?」


 周りで観戦している人たちが騒然となった。


 やっぱりお師匠様は凄い。誰もお師匠様がしたことを理解できていない。


 お師匠様はクライスト様と同じ属性のプチファイヤを同じ数だけ放った。本来は相殺するつもりだったはず。


 でも、お師匠様の魔力は凄まじい。誰も気づいていないかもしれないけど、ここにいる誰よりも魔力量が多い。もちろん学園長よりも。


 つまり、お師匠様のプチファイヤには相当の魔力が込められている。そのせいでプチファイヤでファイヤーボールを撃ち抜き、クライスト様に当たってしまった、というわけ。


 お師匠様は魔力を体外に一切漏らさない凄まじい魔力操作を身に着けている。本来魔力を全く漏らさないなんてできない。


 学園長でさえ魔力が少しだけど漏れてしまっている。それなのにお師匠様はそれをやってのけている。学園長以外その異常性に気づいていない。


 本人も全く気づいていないけど。


 今後お師匠様のそういう常識の違いを是正していくのがフィリーネの課題だ。


「大丈夫ですか?」

「まだまだ!!」


 お師匠様が困惑した顔で尋ねると、クライスト様は先ほどまでの顔と打って変わって真剣な表情になった。


 多分お師匠様を見下していたんだと思う。フィリーネも初見だったら、同じような反応をしていたかもしれない。


「はぁっ!!」


 よろよろと立ち上がったクライスト様は、ウィンドカッターを放った。


 ウィンドカッターは緑色の魔力を帯びた風の刃を飛ばす魔法。小さな風を敵に叩きつけるプチウィンドの上位互換。


 またもやお師匠様は同じ属性の魔法を同じ数放った。


「ぐぅっ」


 結果はさっきと同じ。初級魔法で下級魔法を完全に打ち負かしてしまった。


「うっ」

「ぐはっ」

「ぐほっ」

「ぐぺっ」


 何度やってもお師匠様は全て初級魔法だけで圧倒。


「はぁっ!!」


 ――バリバリッ


 クライスト様が雷属性の中級魔法ライトニングを放つ。稲妻がお師匠様目掛けて走った。だけど、その中級魔法さえ、初級魔法プチサンダーで打ち勝ってみせた。


 あまりに強すぎて乾いた笑いしか出ない。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 クライスト様はもう満身創痍という感じ。


「はぁあああっ!!」


 そこでクライスト様は学園長との約束を破り、致死性の高い上級魔法メガフレイムを放った。


 ――ゴォオオオオオオオッ


 凄まじい勢いの炎の柱がお師匠様を襲う。


「うわぁ、副学院長やりすぎじゃね?」

「流石にあのおっさんもこれは無理だろ」

「医療班を呼んだ方がいいんじゃないか?」


 観客たちにも不安そうなムードが漂った。


 それでもフィリーネは全く心配などしていない。だって、どっちが勝つかなんて分かり切ってる。


 お師匠様が再びプチファイヤを放つ。


 ――バシュッ


 プチファイヤがまるで刃物のようにメガフレイムの炎を斬り裂いて突き進んだ。


『はぁ!?』


 外野の驚く声が揃う。


「がはっ」


 そして、そのまま気を抜いていたクライスト様へ着弾。クライスト様は白目を剥き、後ろへと倒れてしまった。


「……」


 辺りに沈黙の膜が下りる。


 それもそのはず。この学園でもナンバーツーの魔法使いが、どことも知れぬ輩にあっさりと敗れてしまったのだから。


 彼らにとってあまりにも信じられない光景に違いない。


「勝者、スペル」

『うぉおおおおおおおおおっ!!』


 だけど、学園長が宣言した瞬間、観客たちが湧いた。


 その中心で困惑しているお師匠様の姿が見える。


「ふふふっ」


 フィリーネは嬉しくなって笑みをこぼした。


 だって、ずっと諦めていた光景が目の前にあったから。


 お師匠様は、頑として自分の才能を認めようとしなかったし、ずっとおじさんとおばさんに義理立てして宿から離れようとしなかった。


 宿屋の顔なじみのハンターがパーティに誘った時も、フィリーネの両親が魔法学園に誘った時も頑として首を縦に振らなかった。


 いくら周りが言ったところで、本人にその気がないのなら、無理にさせるわけにもいかない。


 だから、お師匠様の才能が日の目を見るのを半ば諦めていた。


 でも、お師匠様は恩人であるおじさんとおばさんに諭され、ついに重い腰を上げて宿の外に足を踏み出した。


 お師匠様がこれから世界中から注目されるのは間違いない。


 ただ、嬉しい反面少し寂しい。だって、これまでは自分だけが知っていたことを皆に知られてしまうから。


 でも、ここからお師匠様の輝かしい人生が始まる。それはフィリーネがずっと待ち望んでいたことだ。


 だから、フィリーネはお師匠様の活躍を一番そばで見ていたいと思った。

お読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。


よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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