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第007話 推薦

「フィリ、いったいどこに行くんですか?」


 スペルはフィリーネの横に並んで尋ねた。


「それは勿論学園長のところですよ」

「どうしてそんなところに?」

「お師匠様がただの用務員だなんて勿体ないですからね。直談判しにいくんですよ」

「い、いえいえ、私は用務員で十分ですよ?」


 スペルはまだ自分の常識を捨てきれていない。だから、ここで働けるだけで満足だった。そんな大それたことをしてもらうなんて恐れ多い。


「わ・た・し・が・い・や・な・ん・で・す!!」


 しかし、これでもかとフィリーネに否定されてしまった。


「はぁ……分かりました」


 これ以上言っても聞いてもらえそうにないので、諦めてそのままついていく。


 ――コンコンッ


『入るのじゃ』


 フィリーネが学園長室の扉をノックすると、中から若い女性の声が聞こえてきた。フィリーネが室内へと入っていくのに続き、スペルも足を踏み入れる。


 二人は部屋の奥に鎮座する執務机の前まで進んだ。


「学園長、フィリーネ・ブランシュです」

「おおっ、フィリーネか。どうしたのじゃ?」


 学園長の椅子に座るのは、七~八歳程度の幼女。パッと見ただけでは学園長には見えない。


 しかし、一人前の魔法使いなら魔法で自身の体の若返らせたり、逆に成長させたりすることもできるので目の前の姿は当てにならない。


 その傍らには三十代前半程度の男が立っていた。短髪で猛禽類を思わせるキリリと整った顔立ちをしている。スペルを鋭い目で睨んでいた。


「用務員試験に私のお師匠様がいらっしゃったのでお連れしました」

「おおっ、そうか。ワシはこのマギステリア魔法学園の学園長をしている、イシュトリカ・スターラじゃ。よろしくの」

「はじめまして。スペルと申します。よろしくお願いします」

「こやつがお主が常々言っておったお師匠様とやらか?」


 挨拶を終えると、学園長の視線がフィリーネを向く。


「はい」

「ふむっ、大抵のやつは儂が学園長だと言うと「なんだこの幼女は」などとぬかすのじゃがな。驚きもせぬか」


 学園長がフィリーネからスペルに視線を映し、顎に手を当てて値踏みする。


「あなたの魔力制御はただの少女にしてはあまりに自然すぎますから」


 一人前の魔法使いは魔力を全く漏らさないほど精密な魔力制御が可能だ。


 元家族たちは()()()魔力を漏らすことで周りを油断させていた。目の前の幼女も見た目相応の魔力が漏れている。


 どう見ても一般人のただの幼女にしか見えないが、あまりに自然すぎた。一般人の幼女の魔力はもっと起伏がある。


 これもスペルを試すためにあえて学園長がそう見せていたのだろう。


 相当な魔法の使い手だ。学園長というのも頷ける。


「お見通しか、流石フィリーネを育てた師匠といったところか」

「お師匠様なら当然です」


 フィリーネが嬉しそうに自慢げに胸を張った。


「なぜお主が偉そうなのじゃ……」

「本当に基礎の基礎を教えただけなのですが、師匠を名乗ってもいいのでしょうか」


 少し疑問だった。あまり教えていないのに師匠などと名乗っていいのかと。


「一応も何も、先ほど言った通り、私の師匠は生涯お師匠様ただ一人です」

「だ、そうじゃ。師匠と弟子なんぞお互いさえ納得してればなんでもかまわん」

「そうなんですね……ありがとうございます」


 スペルは師匠と弟子という関係がよく分かっていなかったので勉強になった。


 フィリーネが自分を師匠だと慕ってくれるのならできるだけ応えよう。


 そう心に誓った。


「それでフィリーネ、なぜこやつを連れてきたのじゃ?」

「お師匠様に実技指導をお願いするためです」

「え?」

「なぜ驚いておる?」


 学園長が不思議そうにスペルを見る。


「いえ、何も聞かされてなかったので……」


 用務員じゃないにしろ、まさか指導をお願いされるとは思っていなかった。どんな仕事があるかは分からないが、他の何かに推薦されるものとばかり。


「まぁよい。採用しよう」

「本当ですか!?」


 フィリーネが目を輝かせて執務机に身を乗り出す。


「うむ。ワシに二言はない」

「やったぁ!! 良かったですね!! お師匠様」

「そうですね」


 返事を聞いたフィリーネはスペルに抱き着いた。スペルは柔らかな感触に少し動揺したが、自分を律して雑念を振り払う。


 用務員にはなれなかったが、就職できるなら二人も許してくれるはずだ。宿に帰ったら二人に手紙を書こう。


「お待ちください」


 しかし、喜んでいたのも束の間、鋭い声が室内に響いた。


「クライスト、どうしたのじゃ?」


 その声の主は学園長の傍らに立っている男。クライストと言うらしい。彼が会話に割り込む。


「いえ、フィリーネ君の師匠という彼の実力を拝見したいと思いまして。出来れば手合わせをさせていただきたいな、と」

「なるほどのう」

「いかがでしょうか?」

「どうじゃ?」


 少し考え込んでいた学園長が、スペルに視線を向ける。


「私……ですか?」


 スペルは辺りをキョロキョロと見渡した後、自分を指さした。


「うむ。どちらにせよ、雇うのはもう決めておる。後はお主がどうしたいかじゃ」


 先ほどまで見たのは、用務員試験を受験者の魔法だけ。


 今度は一人前の魔法使いの魔法を見ることができる。これでスペルが今までずっと教えられてきた魔法使いの常識が正しいのかどうかもっとハッキリするだろう。


 この機会を逃す手はない。


「そうですね。せっかくですから胸をお借りしたいと思います」

「そうか、よく言った。早速じゃが、教師用の訓練場に向かおうぞ」


 スペルたちは学園長室を後にした。

お読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。


よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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