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第005話 教え子

 面影は残っているが、最後に会ってからずいぶん経っている。本当に彼女かどうか分からない。スペルは念のため確認を取る。


「もしかして……フィリですか?」

「はいっ、そうです!! 覚えていてくださったんですね!!」

「当たり前じゃないですか。以前よく宿屋によく来ていましたね」

「はい。えへへっ、懐かしいですね」


 嬉しそうに笑ってスペルの傍に駆け寄る彼女は、フィリーネ・ブランシュ。


 彼女の両親は学者でいろんな場所を飛び回っていた。そして、その両親はノーラとグレイと旧知の仲。多忙の両親はフィリーネを宿に預けることが多かった。


 当然と言えば当然だが、一番多く彼女の相手をしていたのはスペルだ。


 スペル自身も魔法の修業があるため、あまり構ってやるつもりはなかった。しかし、フィリーネが魔法に興味をもったため、昔教えられた()()使()()()()()()を少しだけ彼女に教えた。


 それ以来、しばらく一緒に魔法の練習をしていたことがある。


 彼女の成長もあってか、いつからか宿に来なくなったが、こんなところで再会するとは思わなかった。


「一瞬、誰か分かりませんでしたよ。まさかこんなに美しい女性に成長しているなんて……思わず見とれてしまいました」


 フィリーネが宿を訪れていたのは幼少期。それが今では二十代前半程度。もう十年以上経っている。見違えるのも当然だった。


 昔は短かった銀色の髪もすっかり長くなり、ふっくらとあどけない面持ちが洗練されている。


 まさに美女と呼ぶにふさわしい。


 スペルが微笑みかけると、フィリーネは顔を真っ赤にして俯いた。


「~~!?」

「どうかしましたか? どこか体の調子が悪いんですか?」


 スペルが突然俯いたフィリーネが心配になって顔を覗き込む。


「い、いえ、大丈夫です。それよりもお師匠様はどうしてこちらに?」

「そうですか? それならいいんですが。実はこの学園の用務員の試験を受けに来たんです」

「え? もしかしておじさんやおばさんに何かあったんですか!?」


 彼女もある程度スペルの事情を知っている。だから、フィリーネもスペルが宿に並々ならぬ思いがあることを知っていた。


 スペルがここにいることでノーラたちに何かあったと邪推するのも無理はない。


「いえ、二人は今も元気に働いていますよ」

「それではなぜ? お師匠様があの二人を置いて宿を出るはずないですよね?」

「その二人が私を送り出してくれたんですよ」

「あぁ……そういうことだったんですね」


 フィリーネは納得顔で頷いた。


 話していると、周りが騒がしくなり始める。


「おい、あれって史上最年少で宮廷魔術師に抜擢されたフィリーネ・ブランシュ様じゃないか?」

「すげぇ、あれが黄金の世代を率いた魔法学園史上最高の成績を叩きだした英才か」

「王子に求婚もなしのつぶてだった氷の女神と聞いてるぞ」

「初めて見た。五属性を使えるペンタグラムエレメンタラーのフィリーネ様だ」

「どんな相手にも謙らない孤高の魔法使いのフィリーネ様か」


 どうやら周囲の人たちはフィリーネのことを話しているようだ。


 スペルはちょっとだけしか教えていないが、彼女が沢山の人に評価されていることがまるで自分事のように嬉しい。


「それじゃあ、フィリーネ様が丁寧に話しているあの男は?」

「冷静沈着で表情を崩さないというあのフィリーネ様が感情を露わにしているぞ」

「いったい何者なんだ?」


 感傷に浸っていると、なんだか視線を刺さるのを感じた。そういえば、今の状況をすっかり忘れてフィリーネと話し込んでしまった。


 暢気に話している場合じゃない。


 フィリーネもそれに気づいたのか話題を変えた。


「コホンッ。それで今はどういう状況ですか?」

「それは私が説明いたします」


 フィリーネの質問にアナベルが前に進み出る。


「お願いします」

「今、用務員試験を行っておりまして、スペル様が無詠唱で五つの属性魔法を放ち、見事に的を撃ちぬいたのですが、スペル様が不正を行っていたのではないかと、他の受験者の方々から抗議がありまして」

「なんですって!!」


 話を聞いたフィリーネが眉を吊り上げる。


「フィリ、せっかくの可愛い顔が台無しですよ。少し落ち着いてください」

「す、すみません……」


 スペルが窘めると、フィリーネは大人しくなった。


 困惑しながらもアナベルが話を進める。


「えっと、検査させていただきましたが、そのような証拠はなく、スペル様の潔白は証明されています。ただ、それでも納得できない受験者が騒いでおりまして……」

「なるほど。そういうことでしたか」

「いかがいたしますか?」

「検査して何もないのなら当然問題ありません。それに、お師匠様の実力は私が保証します。フィリーネ・ブランシュの名に誓って」


 名に誓うというのは自分が全責任負うということ。簡単に言いだせるようなことじゃない。つまり、フィリーネにはそれだけの覚悟があるということだ。


 まさかフィリーネがここまで自分を思ってくれているなんて思わなかった。まだ半人前なのが本当に申し訳ない。


「よろしいのですか?」

「勿論です。文句がある方はいますか? 今すぐ名乗り出てください」


 フィリーネが参加者の方を見回すと、誰もが彼女から目を背けている。


 フィリーネがこれほど影響力のある魔法使いになっているとは…………今はさぞ凄い魔法使いになっているんだろうな。


「誰もいないようですね」

「そうみたいですね。それでは、これにて試験は終了とさせていただきます。結果は後日お届けいたしますので、お帰りの際に連絡が取れる場所をお知らせください」


 フィリーネのおかげで試験は無事終わりを告げた。


「そういえば、先ほどからスペル様のことをお師匠様と呼んでいますが、いったいどういうご関係ですか?」

「私が幼い頃よくお世話になっていた方です。私に魔法のいろはを教えてくれたのはこの方なんですよ? お師匠様と呼ぶのは当然じゃないですか?」


 アナベルの質問にフィリーネは不思議そうに答える。


『はぁあああああああああああっ!?』


 スペルとフィリーネ以外のその場にいた人間の全員の声が揃った瞬間だった。

お読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。


よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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