第040話 切り札
――ドゴォオオオオッ!!
スペルはその勢いのまま天井を突き破りながら進んでいく。
――ドゴォオオオオッ!!
――ドゴォオオオオッ!!
――ドゴォオオオオッ!!
途中、巣の階層も何度も貫いた。
「な、なんだぁ、今のは!?」
「アリかぁ!?」
「皆警戒しろっ!!」
誰かの声が聞こえてきたが、構っている暇はない。
――ドガァアアアアアンッ
そして、地上までの岩盤を貫いて地上へと飛び出した。
「なんだありゃぁああっ!!」
「あいつはスペルとかいう拳聖の師匠じゃねぇか!?」
「いったい何が起こったんだ!?」
爆発と共に飛び出してきたスペルを、呆気にとられたような顔で見ている冒険者たちが視界に入る。
地面に着地したスペルは、彼らをしり目に、ギルドマスターであるサーシャの前まで一瞬で距離を詰める。
「ひゃぁっ!?」
「ギルドマスター、クエスト中にも関わらず、誠に申し訳ございませんが、緊急事態ゆえにここを離れます。女王アリは死亡寸前で後は残党処理だけです。それでは!!」
「え、あ、ちょっとっ!!」
驚くサーシャを無視して、スペルは言うべきことを言うと、再び走り出した。
「アーバンの森は……」
スペルが急いでいるの、シャノンに渡したペンダントから危険信号を受け取ったから。
万が一の時に備えて、ペンダントには使用者の危険を知らせる魔法を付与していた。つまり今現在、シャノンひいてはFクラスの生徒たちに危険が迫っているということだ。
女王アリに構っている場合ではなかった。
スペルは現在地とアーバンの森の位置関係を思い出し、最短距離を走っていく。
――ビュオオオオオッ
スペルが走った後に突風が吹き荒れる。
「じいさん、今なんか言ったか?」
「ばぁさん、なんか言ったべか?」
風の音で会話が聞こえない老夫婦の縁側の脇を通り抜け、
――ビュオオオオオッ
「おいっ、金目の物は置いていけ」
「ひぇええええっ、どうか命だけは!!」
「ご勘弁を!!」
「へっへっへっ、こっちの娘は上玉みたいだな――ぁ!?」
ちょうど馬車を襲っていた盗賊たちを跳ね飛ばし、
――ビュオオオオオッ
「橋が落ちてるなんて……」
「くそぅ。これじゃあ帰れないぞ?」
「娘が誕生日プレゼントを待って――あぁああっ!? 橋が!?」
時には、橋のかかっていない崖に土魔法で橋を架け、
――ビュオオオオオッ
「くそっ、こんな時に落石なんて……」
「このまま、奥様の命が……」
「この岩が、この岩さえなければ――ぁあああっ!?」
そして、峠道に崩落した瓦礫を弾き飛ばしながら走りつづけた。
その結果、一時間もせずにアーバンの森に辿りつく。
危険信号が発せられているのは、森の奥の霧の向こう。
――ビュオオオオオッ
スペルが霧に突っ込むと、その風圧で霧が全て吹き飛ばされてしまった。
――ドォオオオオンッ!!
霧が無くなった途端、大きな音と振動が伝わってくる。霧が内部の音や振動などを遮断していた効果を持っていたらしい。
風魔法を使って音の場所の特定してさらに加速。
「見つけました」
スペルはようやくFクラスの生徒たちを発見した。彼らには左から真っ赤な熊、右から巨大な炎が迫っている。
このままでは生徒たちは食いちぎられ、黒焦げになってしまう。スペルはすぐに水魔法プチウォーターで火を消し、風魔法のウィンドカッターで熊の頭を切り飛ばした。
ひとまずこれで命の危機は去った。
炎が放たれた場所にはアウグストが狼狽えた様子で立っている。
「これはどういう状況ですか?」
「先生、なんでここにいるんだ!? アイアンアントの巣の駆除に行ってたんじゃないのか!?」
ミラが驚きを隠せない様子でスペルに駆けよった。ミラは制服がボロボロになり、至るところ砂だらけでとても頑張ったことが窺える。
しかし、安心してる場合ではない。
「私の話は後です。簡潔に今の状況を説明してください」
「野外実習をしていたら霧に包まれて、マーダーベアに襲われた。撃退してどうにか逃げていたら、その途中であの野郎に襲われたんだ」
「なるほど。そういうことですか」
ミラの説明を聞いたスペルは粗方の事情を察した。
つまり、アウグストがなんらかの手段を用いて霧を発生させ、マーダーベアを誘き寄せて生徒たちを殺させようとしたんだろう。
しかし、Fクラスの生徒たちが思った以上に強くて撃退されてしまった。そのせいで自分が出て来ざるを得なくなった。
おそらくそういう流れだろう。
「お、おいっ、何を勘違いしてるかしらないが、俺はこいつらを助けに来ただけだ」
「だ、そうですが?」
スペルに対して言い訳するアウグスト。スペルは首だけ振り返って生徒たちに尋ねた。
「そんなわけあるか!! 俺たちに向かってあんな危険な魔法を撃ちやがって。絶対許さねぇ」
「そうです。私たちを明らかに殺すつもりでした!!」
ミラとシャノンがアウグストの意見に反論する。
「そうですねぇ、私も先ほど見ていましたが、明らかに君は殺意を持って魔法を使っていました。大人しくついてきてもらいますよ?」
どう見てもアウグストは嘘をついている。
危険な行為に及ぶ可能性があるため、拘束して連れていくため、アウグストに近づいてく。
「くそ、くそ、くそがぁっ!! 無能のくせに俺の邪魔ばかりしやがって!!」
嘘が通じないと分かったのか、取り繕うのをやめてアウグストは喚き散らした。
そして、懐から何かを取り出す仕草をする。
「無駄な抵抗は止めてください」
「うるせぇっ、もう知らないからな!!」
スペルが拘束する寸前で、アウグストは地面に何かを叩きつけた。
「グォオオオオオオンツ!!」
其の瞬間、巨大な生物が姿を現す。
それは獅子と竜と山羊の頭をもつ、キマイラと呼ばれる怪物だった。




