第004話 用務員採用試験
一週間後、王都に到着。試験日にマギステリア魔法学園へとやってきた。
「これがマギステリア魔法学園……」
スペルはその威容に圧倒されてしまう。
街一つ入ってしまいそうなくらい広い敷地とシンメトリーの美しい庭園、そして奥に、歴史と伝統を感じさせる巨大な建物が佇んでいた。
周囲は鉄製の柵で囲まれており、入り口には街の門にも勝るとも劣らない立派な門が設置されている。
流石は世界トップクラスの魔法学校だ。
スペルは門の前に立っている警備員に話しかける。
「あの、すみません」
「こんにちは。こちらへはどのようなご用件で来られましたか?」
「用務員採用試験を受けに来ました。これが推薦状です」
「……間違いなく本物ですね。どうぞお通りください。受付はあの建物です」
「ありがとうございます」
警備員に指示された建物に入ると、すぐ右手に受付のカウンターがあった。そこには優しげな雰囲気の女性が座っている。
「こんにちは」
「こんにちは。用務員採用試験を受けに来られた方ですか?」
「はい。これが推薦状です」
「確かに。こちらが受験票になります。案内が参りますのでそちらで少々お待ちください」
「分かりました」
スペルは受験票を受け取り、傍にあった非常に高価そうなソファに腰を下ろす。値段を示すように体を優しく受け止めてくれた。
「夢じゃないでしょうか……」
実際にここまでやってきたが、まだ現実として受け入れるのが難しい。
スペルはようやく半人前になった程度の人間だ。そんな自分がこんな凄い場所の仕事に合格なんてできるんだろうか。
期待と不安が入り混じる。
「すみません。受験番号48番のスペル様ですか?」
ぼんやりと物思いに耽っていると、凛とした声がスペルの耳朶を打つ。
声の方に視線を向けると、凛とした雰囲気の眼鏡を掛けた女性が目に入った。ピシリとしたブラウスとタイトなスカートに身を包み、いかにも教師然としている。
この人が案内してくれるようだ。
「はい、そうです」
「かしこまりました。試験会場にご案内いたします」
「よろしくお願いします」
スペルは彼女の後をついていく。
「受験番号が貼ってある席に座ってください」
「分かりました」
数分程で試験会場の部屋にやってきた。机が扇状に三列に並んでいる。後ろに行くにつれて一段ずつ段差が上がり、同じように机が並ぶ。
スペルは指定された席に着いた。
座っている人たちはスペルよりも若い人が多く、自分に近い人は一人か二人程度。やはりスペルの年齢でこの仕事に就くのは非常に難しいのだろう。
「受験者が揃ったようなので、用務員採用試験を始めます。私が今回の試験監督を担当するアナベルと申します。よろしくお願いいたします。皆様には筆記試験と実技試験を受けていただきます。まずはこのまま筆記試験に移ります。問題用紙と解答用紙を配布いたしますので、少々お待ちください」
アナベルが話し終わると、問題用紙と解答用紙が配布される。
魔法以外の勉強に関しては、執事やメイドに教えて貰っていた、しかし、追放された後はあまり勉強らしい勉強はしてない。果たして通用するだろうか。
「裏返したままにしておいてください」
配布された際にそう言われたのでそのまま自分の前に置いておく。
「全員に行き渡りましたでしょうか。問題用紙と解答用紙が配布されていない方は手を上げてください…………いないようですね。試験時間は開始から六十分となります。途中で体調を崩したり、トイレに立ったりすることは可能ですが、戻ってくることできませんのであらかじめお気を付けください。魔法を使用したり、不正をしたりした場合、失格になると共に永久に受験資格を失いますのでご注意くださいませ……それでは、ご準備はよろしいでしょうか? それでは……試験開始」
アナベルが注意事項を話した後、彼女の合図で他の人たちが問題用紙を裏返した。
スペルも慌てて問題用紙を裏返す。
「これは……」
問題を見てみたが、非常に簡単な一般教養の問題だった。この程度は追放される前にみっちり教えられていたので問題ない。
スペルはサラサラと問題を解いて、十五分程度で解き終わった。四回程見直ししたが、それでも後三十分も余ってしまう。
仕方ないので、瞑想をして時間を潰すことに。
「止め!! 筆記用具を置いてください」
アナベルの声でまだペンを持っていた受験者たちが机にペンを置く。その直後、問題用紙と解答用紙が速やかに回収されていった。
「筆記試験、お疲れ様でした。実技試験に移りますので、案内に従い、次の試験会場へと移動してください」
スペルたちは案内役に従って筆記試験会場を後にした。
「それでは、実技試験を開始します。当学園の用務員には、一定以上の魔法技能が必要となります。あちらの五つの的に向かって魔法を放ち、命中率と威力を測定します。そちらの方からお願いいたします」
次の会場には、弓の練習に使いそうな的が五つあり、ある程度離れた場所に分かりやすく、受験者が入る範囲が区切られていた。
あそこに入って魔法を放つらしい。
全く自信がないんだが、大丈夫だろうか。幸いスペルの出番は最後なので他の方の技能を見ることができる。諦めるのはまだ早い。
「火の玉よ、敵を燃やせ!! ファイヤーボール!!」
最初の人は下級魔法ファイヤーボールを五回唱えて的に飛ばした。その内、三つが的に当たり、二つは外れている。当たった的には五十前後の数値が表示された。
「氷の矢よ、敵を貫け。アイスアロー!!」
次の人は氷属性の魔法で一人目の人と同じような結果に。
それから何人もの受験者を見ていたが、思ったよりもレベルが低かった。用務員だから魔法の実力はそこまで高くないようだ。
「それでは最後の方、お願いします」
「分かりました」
ようやくスペルの出番がやってきた。
スペルが指定された範囲の中に入り、無詠唱で五つの属性の初級魔法を同時に発動させて、的を打ち抜いた。
「は?」
どこからか間の抜けた声が聞こえる。
「えっと、終わりでいいでしょうか?」
「え、あ、はい、え、いえ、一体どうやったんですか!?」
スペルが申し訳なさげに尋ねると、アナベルがしどろもどろになりながら詰め寄ってきた。
「普通に魔法を放っただけですけど……」
スペルはアナベルの様子に困惑する。
「詠唱は? なんで五属性も!?」
「それくらい誰でも使えますよね?」
「何を言ってるんですか!? 五属性も操れる人なんてほとんどいませんよ!!」
「え?」
アナベルの言っている意味が分からなかった。
魔法使いは全属性を扱えることが最低条件だったはずだ。それが五属性を使える魔法使いがほとんどいないとは一体どういうことなのか?
「そいつは絶対に不正をしてる!!」
「そうだそうだ、五属性を扱える人間なんてほとんどいないんだぞ!!」
「何かやましいことをしてるに違いない!!」
受験者たちが軽蔑するような目でスペルを睨みつけながら怒鳴る。
「ちょっと体を調べさせてもらっても?」
「それは構いませんが……」
「ありがとうございます」
検査を受けたが、何も見つかるはずもない。
「嘘だ。どこかに隠してるに決まってる!!」
「そうだ、インチキだ!!」
「いますぐそいつを失格にしろ!!」
しかし、他の受験者たちは納得ができずに騒ぎ立てた。
「何事ですか!!」
試験会場に一人の女性がやってくる。その女性にはなんだか見覚えがあった。ただ、どこで見たのか思い出せない。
しかし、女性の次の言葉で一気に記憶が蘇った。
「あれ? もしかして……お師匠様?」
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