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第038話 絶体絶命

「きゃああああああっ!!」


 クラスメイトの一人が悲鳴を上げた。


 その気持ちはよく分かる。俺だって叫べるものなら叫びたい。でも、恐怖で体が強張って声が上手く出せない。


 マーダーベアはアーバンの森でも相当奥の方に生息する脅威度の高いモンスター。


 その脅威度はBランク。


 スマッシュボアやフォレストウルフなんて目じゃない。フォレストウルフは単体でDランク、群れならCランク、スマッシュボアに至ってはEランク程度だ。


 Bランクにもなれば、小さな村くらい簡単になくしてしまえるくらいの力がある。


「み、皆、ビビんじゃねぇ!!」


 ガチガチと歯が鳴りそうなのを必死に堪え、俺は虚勢を張って皆を鼓舞する。


 恐怖で動けなくなったら確実に死ぬ。脅威度がBランクのマーダーベアなら宮廷魔術師と兼任する教師が来るまで凌げば、どうにかなるはず。


 それまで生き延びるにはクラスメイト全員の協力が必要だ。クラスメイト一丸となってマーダーベアに挑まなければならない。


「グルルルルルッ」


 マーダーベアがのそりのそりと値踏みするように近づいてくる。二メートルをゆうに超える巨体は俺たちを震え上げさせるには十分だ。


「急に動くなよ、餌だと思われて襲われるぞ。防御系の魔法を使える奴はいつでも発動できるように準備してくれ」

「りょ、了解!!」


 マーダーベアは俺たちの周りをゆっくり回り始めた。


「グォオオオオッ!!」


 一番か弱そうな小さな女の子に向かって突進してきたマーダーベア。野生のモンスターは一番弱い所を狙ってくる。


「今だ!!」

「お、おうっ!! 土の壁よ、敵の進撃を阻め、アースウォール!!」


 でも、好きにはさせねぇ。


 俺の指示でマーダーベアの前に分厚い土の壁が出現。魔力感知と操作を覚えた魔法使いの壁だ。厚みは六十センチを超えている。


 ――ドゴォオオオオッ


「きゃああああああっ!!」

「くっそ、マジかよ!!」


 でも、マーダーベアはあっさりと土の壁を吹き飛ばしやがった。そのままこっちに突進してくる。


 Bランクのモンスターがここまで強いなんて……。


「シャノンッ!!」

「はいっ!!」


 突進を止めるため、俺とシャノンで全力のファイヤーボールを放つ。


 ――ドォオオオオンッ


 二つの大きな火の玉が合わさり、凄まじい轟音を立てて爆炎が上がる。


「やったか……?」

「グォオオオオッ!!」


 しかし、マーダーベアが立ち上がって爆炎を吹き飛ばした。体のあちこちに焼け焦げた跡があるけど、ダメージは大きくなさそうだ。


 前足を地面につくと、再び俺たちに向かって突っ込んでくる。


「今度は二人で壁を作れ!!」

「「土の壁よ、敵の進撃を阻め、アースウォール!!」」


 一人でダメなら二人だ。


 二人で発動させた土の壁の厚さは一メートルを超えている。


 ――ドゴォオオオオッ!!


 すぐに止まれないマーダーベアは再び壁に突っこんだ。


「よしっ、いいぞ!!」

「やったぞ!!」

「よっしゃーっ!!」


 今回はどうにかマーダーベアの突進を止めることができた。


「グルルルルルッ」


 マーダーベアが崩れた壁の外から忌々しげに俺たちを見てくる。


 とりあえず、二人で魔法を使えば、攻撃を凌げることが分かった。


「よし、二人で前方に一メートルくらいの高さの壁を作ってくれ」

「「了解」」


 俺たちの前に壁を作らせて突進してこれないようにする。


「攻撃魔法を使える奴は順番を決めてあいつを攻撃してくれ」


 そして、攻撃魔法で壁の内側から攻撃を当ててけん制。マーダーベアはうっとうしそうに魔法を払う仕草をする。


 ただ、Fクラスの俺たちの魔力量は多くない。何十発もアースウォールを発動させるのは難しいし、他の奴らも同じだ。


 このままだと、そう時間も経たないうちに魔力が切れてしまう。どうにかしないと……。


 でも、全く名案なんて思い浮かびそうにない。


 しかも、あれだけ大きな音を立てたのに、いまだに引率の教師がやってこない。いったいどうなってやがる……。


 もう五分くらいは足止めしているはず。それにもかかわらず引率の教師が誰一人駆け付けてこないなんておかしい。


 突然、漂い出した霧といい、マーダーベアといい、不可思議なことが多すぎる。


「シャノン、何か案はないか?」

「そうですね…………もしかしたら、可能性はなくもないことくらいなら……」

「マジかよ、どうすればいいんだ?」

「まず――」


 シャノンの作戦を聞いた俺は、マーダーベアに仕掛けることにした。


「おらっ、くまこうっ!! こっちだ!!」


 俺は一人でクラスメイトたちから離れてマーダーベアの注意を引く。


「グォオオオオッ!!」


 案の定、マーダーベアは俺の挑発に乗り、俺に向かって突進してくる。


 俺は身体強化をして逃げだした。


 身体強化は魔力そのもので体を強化する技術なので、厳密には魔法じゃない。だからこそ、ファイヤーボール以外使えない俺でも使えている。


 「うぉおおおおっ!!」


 それでもマーダーベアの身体能力は凄い。身体強化をした俺もそう引き離せない。


「ミラさん!!」

「おうよっ!!」


 そこでようやくシャノンから合図が届く。


 俺はクラスメイト達の方に向かって走った。


「土の壁よ、敵の進撃を阻め、アースウォール!!」


 皆との距離が五メートルを切ったところで土魔法を使えるクラスメイトがアースウォールを発動。


「グォオオオオッ!!」


 それは当然突進で破壊される。


 でも、それでよかった。油断させて突進させることが目的だったから。


「今です!!」

「「大地よ、わが意に応え、姿を変えよ、アースコントロール!!」」


 シャノンの指示で土魔法使いが地面に手を付ける。


 すると、地面が陥没して大きな落とし穴を作った。


「グォッ!?」


 突然、目の前の地面が消えて驚くマーダーベア。でももう遅い。マーダーベアはそのまま穴の中に落ちた。


「はぁっ!!」


 それだけでは意味がない。シャノンが追撃で魔力全開で穴の中に水を注ぐ。マーダーベアは突然入ってきた水によって簡単に身動きが取れなくなった。


「皆、逃げるぞ!!」

『了解!!』


 マーダーベアは泳ぐこともできる。溺れさせて倒すことは難しい。それよりもこの貴重な時間を使って逃げることに。


 俺たちは全速力でその場から離れた。


「はぁ……はぁ……」


 しばらく走り続けると、マーダーベアの姿は見えない。皆も限界そうだ。


「ちょっと休もう」


 ――ゴォオオオオッ!!


 皆を休ませようとしたその時、俺たちは炎の柱が襲ってきた。


「はぁっ!!」


 シャノンの水の壁を作り、炎を防ぐ。さっきの炎は間違いなく中級魔法フレイムトルネードだった。


 それはつまり、人間が放った魔法だということ。


 フレイムトルネードを放った方から声が聞こえてきた。


「ちっ、運がいい奴らめ。まだ生きていたとは……」


 霧の中から姿を現したのはSクラスの生徒のアウグストだった。


「てめぇ、何しやがる!!」

「目障りなんだよ。ここで死んでもらう」

「なんだと!?」


 まさかSクラスがこんなに大胆なことをしてくるとは思わなかった。


 そうか、ここで全てが繋がった。霧もマーダーベアもこいつの仕業だったんだ。


「グォオオオオッ!!」


 しかも最悪なことに音を聞きつけたマーダーベアが後方からやってきた。


「それじゃあ、死ね!! 炎の嵐よ、敵を灰燼に帰せ!! ファイヤーストーム!!」

「グォオオオオッ!!」


 前からアウグストの魔法、後ろからマーダーベア。


 俺たちは絶体絶命の危機に陥った。


 くそっ、こんなところで死ぬのかよ……


 どうしようもない現実を前に、俺は目を瞑り、最後の時を待った…………しかし、待てども暮らせども決定的な瞬間が訪れない。


 恐る恐る目を開けると、人の良さそうな苦労人の男が立っていた。


「これはどういう状況ですか?」


 その男は困惑した表情でそう言った。


 


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             

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