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第036話 駆除作戦の開始

 時は過ぎ、駆除作戦開始の日がやってきた。


「ユイ、今日はお願いしますね」

「こっちこそ、頼りにしてるからね」


 スペルは巣の入り口の前でユイと拳をぶつけ合う。


 今回の作戦のメインはユイとスペルが先頭で巣の中に突っ込み、最奥にいるであろう女王蟻討伐を目指す。


 そして、残りのハンターがA、B、Cの三班に分かれ、巣内の上位モンスターの駆除と、雑兵の駆除、そしてうち漏らしの処理を行う予定だ。


「そろそろ作戦を始めようと思いますが、準備はよろしいですか?」


 サーシャが二人の許にやってくる。


「いつでもいいよ!!」

「私もいつでも構いません」

「分かりました……皆さん、注目してください!!」


 返事を聞いたサーシャは、振り返って集まったハンターたちに向かって声を張り上げた。


「これから、アイアンアントの巣の駆除作戦を開始します。皆さん、くれぐれも焦って命を粗末にすることのないようにお願いいたします。それでは、事前に説明した通り、今回の要である二人とAチームには先行して巣に入ってもらいます。その一時間後にBチームが中に入り、Cチームはここで待機してください。それでは……作戦開始!!」

『うぉおおおおおおおおおおっ!!』


 サーシャの合図によってハンターたちが雄たけびを上げる。


「皆さん、少し待っていただけますか?」


 スペルはすぐには巣の中に入ろうとはせず、ハンターたちに声を掛けた。


「どうかされましたか?」


 サーシャが不思議そうに尋ねる。


「気休め程度ですが、戦いが楽になるように補助魔法をかけさせていただきますね」

「え?」


 目を丸くするサーシャをしり目に、スペルが天に向かって手を翳すと、複数の色の光がハンター全員を包み込んだ。


「それでは先に行きます。ユイ、行きましょう」

「相変わらずだね、先生は」


 なぜかじっとりとした目でユイに見つめられた。


「何がですか?」

「もういいよ、ほら、さっさといこ。Aチームの人も行くよ!!」


 ユイは質問には答えず、Aチームのハンターに声を掛け、巣に潜る。スペルは釈然としないまま、その後を追った。


『はぁあああああああああっ!?』


 後ろから何か怒号のような声が聞こえたような気がしたが、無視して進んだ。



 ◆   ◆   ◆



 俺の名前はアンタレス。Aランクのハンターだ。


 今回上位ランクのハンターが少なくて、王都にいるハンターの中でランクが一番高く、経歴の長い俺がAチームのリーダーをすることになった。


 Aチームはメインアタッカーの二人と一緒に巣の深層に潜り、アイアンアントの中でも近衛兵や将軍と呼ばれる上位個体を駆除するのが主な仕事だ。


 そのため、俺たちは拳聖とその先生だというハンターの後ろをついていっている。


 先生と呼ばれているハンターのスペルさんは、一見その辺にいる苦労人の人の良さそうなおっさんにしか見えない。


 顔合わせの時も疑問に思ったが、拳聖からの威圧によって誰も逆らうことができなかった。


 俺も拳聖のコネでやってきただけのお飾りハンターだと思い、今回の仕事はハズレだと思っていたが、さっき見た魔法で認識は一変した。


「気休め程度ですが、戦いが楽になるように補助魔法をかけさせていただきますね」


 そう言って、スペルさんが掛けた補助魔法はとんでもない効果を持っていた。


 補助魔法は本来数パーセントでも身体能力や体力などが向上すればいいもの。


 しかし、気休めと言って掛けられた魔法は、普段の倍くらいは強くなっているような全能感を齎すほどだった。


 そのおかげで、今の俺たちは蟻なんかに負ける気がしない。


 ただ、魔法は勿論驚きだが、もっとおかしいのは魔法使いなのに拳聖に余裕でついていってること。


「先生、今のどうだった?」

「ちょっと、力み過ぎじゃないですか? こんな感じで打ってみてください」

「へぇ~、分かった。やってみるね。よっと」


 それどころか、ちらほら現れる一般兵のアイアンアントを相手にして、拳聖に武術の指導をしている。


 しかも、スペルさんがアイアンアントに触れるだけで内側から弾け飛んで死んでいく。


 何が起こってるのか全く意味が分からない。


「おおっ、上手ですよ。良い感じです」

「コツ掴んだかも!!」


 その上、教えられたことを一瞬で吸収する拳聖。この二人が化け物だと改めて思い知った瞬間だった。


 他のメンバーたちの方を振り向くと、全員同じ気持ちなのを知ってお互いに頷いた。


 この二人と絶対に敵対してはいけない、と。


 偵察隊から聞いていた通り、巣の中は複雑に入り組んでいる上に、かなり広範囲にわたって広がっている。


「次はこっちみたいですね」

「おっけー」


 そのはずなのに、二人は全く迷う様子もなく、むしろ答えが分かっているように先に進んでいく。


 現れる敵は二人が全て殲滅していくので、俺たちは本当についていくだけだ。


「やっと深部に到達したようですね」

「そうみたいだね」


 一時間ほど進んでいくと、アイアンアントの上位個体ばかり出現するようになってきた。


 しかも、二人を脅威と見たのか、次々と他の個体が集まってくる。アイアンアントは匂いと音でコミュケーションを取っていると言われている。


 死んだ個体が発する匂いで集まってきている可能性が高い。


 これからが本番だと言える。


 しかし、二人にとっては全く関係なかったようで、それからさらに一時間ほど経つと、奥に開けた場所が見えてきた。


「どうやら、あそこに少し強いモンスターがいるみたいですね」

「私が戦ってもいい?」

「勿論です」


 どうやってか分からないが、スペルさんは先に強敵がいることをすでに把握していて、拳聖に至ってはワクワクした態度をとっている。


「せいっ!!」

「ピギャーッ!!」


 少し開けた場所にいたのは近衛師団長と呼ばれる災害級の巣にのみいると言われるSランク級の上位個体。


 強敵というだけあって足がすくみそう強さを感じたが、拳聖は全く意に介すことなく、瞬殺してしまった。


 これがSSSランクの高みか。


 俺たちAランクハンターはただただ呆然と見ている他なかった。


 それから近衛師団長クラスのモンスターを数匹ほど倒しながら、一時間ほど進むと、奥からわらわらと蟻が群がってくる。


「どうやらあそこが最奥みたいですね、大きなのがいます」

「楽しみね!!」


 スペルさんの言葉を聞いた拳聖がさらにやる気を漲らせた。


 アイアンアントの上位種は、最低でもCランク以上の脅威度を持ち、近衛兵にもなればBランク以上の強さを誇る。将軍でAランクだ。


 蟻の強さは一体一体の強さよりもその数が武器。Bランクのモンスターでも数が集まれば、Aランクの俺たちでも気楽に歩けけない。


 でも、この二人はただピクニックに来たみたいな気安さで先に進んでいく。


 これが絶対に超えられない壁の先にいる人間なんだと実感した。


 そして、とうとう最奥にたどり着く。そこにいたのは普通の女王蟻とはくらべものにならないくらい巨大なモンスター。


 そして、俺達でも恐怖で逃げ出したくなる威圧感を放っていた。


「あれが女王蟻みたいですね」

「へぇ~、いっちょ前にやる気じゃない。がたがたにしてやるわ!!」


 でも、二人にとってその威圧感もそよ風のようなもの。


 拳聖に至っては口端を吊り上げて楽しそうにしていた。


「あっ、それじゃあ、ここはお願いしますね」

「えぇ、任せておいて!!」

「お前ら、行くぞ!!」

『うーーーーっす』


 俺たちはそそくさと自分の仕事場へと移動した。


 逃げたわけじゃない。


 ただ移動しただけだ。本当だぞ?

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