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第034話 自分の手で

「なんでナイフで倒す必要があるんだよ。俺たち魔法使いだぜ?」


 真っ先に文句を言うミラ。他の生徒たちも同意するように首を縦に振る。


「それは勿論、魔法だと命を奪っているという実感が薄いからです。もし、魔力が無くなった時にホーンラビットに襲われた場合、ちゃんと殺すことができますか?」

「それはまぁ、そうだけどよぉ……」


 スペルの話を聞いた生徒たちは渋い顔をする。


 正直に言って魔法ではほとんど生き物を殺したという実感は得られない。それでは実戦に慣れたとは到底言えないだろう。


 きちんと実感を得てこそ、今後モンスターと戦うことになった際に躊躇せずに済むはずだ。


「今度、野外実習が始まるそうですね?」

「あぁ」

「そこではこの草原よりも強いモンスターが出てきます。躊躇っていたら、怪我をするかもしれませんし、最悪死ぬ可能性もあります。それでもいいんですか? モンスターは待ってくれませんよ?」


 スペルの話を聞いた生徒たちが騒めく。


 聞きたくないことかもしれないが、命に係わる大事なことだ。できれば、誰にも死んでほしくはない。


「はぁ……しゃーねぇか。やりゃあいいんだろ、やりゃあ」


 ミラがガシガシと頭を掻くと、他の生徒たちも諦めたように頷いた。


「はい、その意気です。それでは、これも私が見本を見せますね」

「先生、大丈夫なのかよ?」


 ミラがスペルを心配そうに見る。


 今まで散々魔法は見せてきたが、スペルが近接戦闘をしているところは見せたことがない。


 自分でも武術が使えそうには見えないと思うので、ミラが不安に思うのも無理はない。


「ホーンラビットくらいなら問題ありません」


 先ほどと同じようにホーンラビットに近づくと、ホーンラビットが迫ってくる。スペルもタイミングを合わせて走り出した。


 今回は生徒に事前に言った通り、魔法を使わず純粋な体術で戦う。


「ふっ」 


 すれ違いざまに一閃。


 ――ザシュッ


 スペルはホーンラビットの首を切り落とした。


 二つに分かれた死体が地面に落ち、ドクドクと血が流れだす。きちんと手に生き物の首を斬った感触が残っている。これこそが生徒たちが乗り越えるべきものだ。


「こんな感じです」


 スペルが振り返って生徒の方に向き直る。


「すげぇっ!! 先生、武術もできたんだな!!」


 ミラの驚愕に合わせ、他の生徒たちもスペルに拍手と賞賛を送った。


「手慰み程度ですがね。それじゃあ、ナイフもミラさんからでいいですか?」

「おうっ、覚悟を決めたから大丈夫だ」

「そうですか。それでは、このナイフを使ってください。それから戦う人には防御魔法を掛けるので安心してください」

「分かった」


 ナイフを受け取ったミラがスペルと同じようにホーンラビットに向かう。


「キュキュウッ!!」

「はぁああっ!!」


 ミラはホーンラビットの角突きを躱し、ナイフを狙いを定めて振り下ろした。


 ――ザシュッ


 刃が首を捉える。


 完全に切り離すことはできなかったが、深々と斬り裂いた。着地に失敗したホーンラビットがゴロゴロと転がり、止まったところで斬ったところから血が溢れ出す。


 しばらくしてホーンラビットは完全に動かなくなった。


「はぁ……はぁ……」


 ミラは少し呆然とした様子で粗い呼吸を繰り返す。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ、大丈夫だ」


 やはり直接自分で手を下すのは魔法とは全然違ったのだろう。少し顔が青い。


「近接戦は初めてだったのによく躊躇せず振り下ろせましたね」

「このくらいどうってことないっての」

「そうですか。それでは、皆の所に戻って少し休んでください」

「分かった」

 

 ミラは他の生徒の所に戻り、地面に腰を下ろしてぐったりと俯く。


 堪える部分があるかもしれないが、今後避けては通れない道だ。乗り越えてもらう他ない。


「それじゃあ、次の方、前に出てきてください」


 スペルの指示で次の子がおずおずと前に出てくる。


 ミラはあっさりクリアしていたが、ここからが大変だった。


 ナイフがそもそも当たらなかったり、モンスターを目の前にして目を瞑ったり、錯乱してナイフを振り回したり、ナイフを振り下ろせなかったり。


 ミラ以外の子たちはホーンラビットを殺すまでとても時間がかかった。それでもどうにか全員殺すことに成功。何順もさせてモンスターの命を奪う行為に慣れさせた。


 最終的に全員がきちんとホーンラビットを殺せるようになった。これだけ慣れておけば、野外実習も問題ないだろう。


「お師匠様、お疲れ様です!!」


 ちょうどそのころ、フィリーネがスペルの許にやってくる。フィリーネの方も最後までやらせたらしく、血まみれになり、どんよりとした空気が漂っている。


「フィリ、お疲れ様でした。首尾はいかがですか?」

「はい、頼まれていたところまでしっかりやりました」

「そうですか、ありがとうございます」

「えへへっ、どういたしまして」


 フィリーネの頭を撫でると、彼女は顔を緩ませた。


「皆さん、お疲れ様でした。今日の訓練は今後必ず役に立つはずです。今は辛いと思いますが、徐々に慣れていきましょう。それでは、学園に帰りましょう」


 血だらけで帰るわけにはいかないので、全員に浄化魔法を掛けた。先ほどまでドロドロだった制服が新品同善に綺麗になる。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴッ


 しかし、全員で帰ろうとした途端、地震が発生した。しかも、すぐそばで地面が崩落していくのが見えた。


 これはマズい。


「皆さん、走って下さい!!」


 スペルとフィリがしんがりを務めて生徒たちを王都の方に走らせる。すぐに反応できない者もフォローして連れていく。


 何十メートルか離れたところで地震は治まった。その代わり、草原に大きな穴を開けた。


「ギギギギッ」


 そして、その穴の中から蟻型のモンスターが姿を現す。一匹一匹が人以上の大きさがある。


 しかも一匹や二匹ではない。何匹もの蟻が這い出してきている。


「アイアンアント!?」

「いけませんね、ひとまず生徒たちを安全な場所まで連れて行きましょう」

「分かりました」


 スペルとフィリーネは生徒たちを街まで送り届けた。

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