第032話 いたちごっこ
「うーん。どうしましょうか?」
修業自体は実際どこでもできるが、これまでの常識を覆す内容のため、あまり目立たないようにやるように言われている。
修業中は訓練場内を闇魔法のミラージュと風魔法のサイレントフィールドで周囲を覆っていた。
ミラージュは幻影を見せる魔法で、サイレントフィールドは音を遮断する魔法だ。二つの魔法で修業内容を見えないように風景を歪ませ、外に音が漏れないようにしていた。
ただ、外で修業した場合、風景に溶け込ませてしまうと人が間違って入ってくる可能性があって危険。元々なかった建物の幻影を出現させたら、逆に目立つことになる。
できれば、ある程度仕切られた空間で修業するのがベストだ。
「ひとまず教員用の訓練場に行きましょう。今日は空いていますから」
「そうですね、分かりました」
フィリーネの助言に従い、教員用の訓練場に移動することに。
「先生、逃げんのかよ!!」
しかし、動き始めようとしたところで大人しかったミラが叫んだ。
「まぁ、そうなりますかねぇ。それがどうかしましたか?」
色々理由はあるが、どう言い繕ったところで逃げるのは間違いない。
「俺はあんな奴らから逃げたくねぇ……」
「どうするつもりですか?」
「魔法でぶっ飛ばす」
勿論ミラの気持ちは痛いほど分かる。Sクラス、ひいてはカースのやりようは理不尽極まりない。
スペルも追い出されたばかりの頃は、家、特に兄姉に復讐したいという気持ちがなかったと言えば嘘になる。
「それでは彼らと変わりませんが、ミラさんはそれでいいんですか?」
ただ、理不尽を理不尽でやり返せば、同じ土俵に降りたようなものだ。
それに、理不尽だったとはいえ、正規の方法で場所を押さえ直された以上、ミラがルールを破って仕返しをすれば、何かしらの罰を受けるかもしれない。
その上、Sクラスの生徒は全員貴族の子弟だ。子供に何かあれば家族の恨みを買いかねない。それによってミラのこれからの人生に影が落とす可能性もある。
できればそんな選択はしてほしくない。
「それは……」
「確かに悔しい気持ちも仕返ししたいという気持ちも分かります。ですが、その悔しさを力に変えて修業へ注ぎ込んでもらえたら嬉しいです。そうすれば、近い将来、彼らなんて目じゃない魔法使いになっているはずです」
Fクラスの生徒たちはこのまま成長を続ければ、もっともっと上を目指せるはずだ。少なくとも古い価値観に囚われている人間よりは先に進めるだろう。
その時に見返してやればいい。
「ふぅ……分かったよ、先生。我慢する」
ミラがため息と同時に悔しさや怒りも一緒に吐き出して、気持ちを落ち着けた。
「偉いですねっ」
「……ばっ!? 撫でんじゃねぇよ!!」
スペルがミラを撫でると、ミラは一瞬蕩けるような顔になったが、すぐに顔を真っ赤にして腕を跳ね除け、肩をいからせてがに股でドスンドスンと先に進んでいった。
「私たちも行きましょうか」
「そうですね」
スペルたちはミラの後を追い、教師用の訓練場に向かった。
ただ、嫌がらせはそれだけでは終わらなかった。
徐々に内容がエスカレート。
訓練場の強奪だけに飽き足らず、Fクラス生徒に対する悪口、力による脅迫、学園の授業に必要な教科書や道具の破壊など、枚挙にいとまがない。
「先生、ちょっとひどすぎるぞ」
「そうですね、これは流石に目に余ります」
ミラもこめかみに青筋を立てている。
これだけ一方的にやられればそういう気持ちになるのは分かる。しかし、だからと言って報復すれば、保護者から更なる報復にやってくる。
そこで学園長に相談。
「学園長、どうにかできませんでしょうか?」
「ここはワシに任せておくのじゃ」
事態を鑑みて、学園長も各所に通達。
そのおかげで生徒からの嫌がらせは収束。これで終わりに見えたが、手を替え品を替え、すぐにチクチクとした嫌がらせが再開された。
スペルは生徒たちに危害が及ぶ可能性を鑑み、全員に精神安定魔法と守護魔法を掛け、彼らの持ち物に盗難や破壊ができないように魔法を付与。
これで生徒の心と体、持ち物は守れるようになったはずだ。
しかし、今度は保守派教師がFクラスに対する授業をボイコットしたり、態度が冷たくなったり、周りの態度が激変。
これもおそらくカースの仕業だろう。貴族の中でも魔法使いとして特別な実力を持つウィザード家の一員だからこそ為せる技に違いない。
「先生、俺はもう我慢できねぇ!!」
「ふぅ……分かりました。ここは私に任せてください」
流石にここまでされたら、スペルも黙ってはいない。誰にも分からないように隠蔽した上で、誓約魔法プレッジを学園全体を対象に使用した。
その効果は、Fクラスに害意を持ったら、ひどい頭痛に襲われる。しかも悪意が強ければ強いほど、その頭痛は酷くなる。
そのおかげで嫌がらせは急速に落ち着いていった。カースは犯人捜ししていたようだが、今のところスペルの仕業だとはバレていない。
魔法の修業に打ち込めるようになり、Sクラスに対する怒りを溜め込んでいたおかげか、生徒たちの成長が加速。
全員がかなり自由に魔力操作をできるまでになった。
「先生、見てくれ!!」
ミラの手の掌から詠唱なしで火の玉が射出。無詠唱でファイヤーボールが発動可能になった。




