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第031話 嫌がらせ

「お師匠様、教師たちは中々魔力感知できるようになりませんねぇ」

「そうですね、やっぱりこれまで生きてきた中で染みついた固定観念が一番の問題のような気がします」

「確かに。それはありそうですね」


 スペルはいつも通りに教師たちの指導を終え、生徒たちの許に向かう。


 教師たちは熱心に修行しているにもかかわらず、生徒たちよりも成果が芳しくない。


 魔力増幅法に関しては継続しているおかげで、魔力そのものはどんどん強化されているので、全く成果が出ていないわけではないが。


 それに、スペルの指導を受けている教師の中にカースは含まれていない。カースが訓練場を使わない派閥の一員で、教師たちにもかん口令が敷かれているので当然だ。


 それに、スペルは自分を冷遇した人間に教えられるほど人間ができてはいない。頼まれても断っていただろう。


 カースと再会してから調べてみたが、この学校には今、保守派、中立派、革新派の三つの派閥があるらしい。


 保守派は、生まれ持った魔力と属性が多い人間こそが優秀である、という、これまでの古い常識に則った考え方を持っている派閥だ。


 貴族の多くがここに属している。


 なぜなら、貴族が魔法を使えないことはほとんどなく、基本的に平民よりも生まれ持つ魔力の量も属性の数も多い傾向があるから。


 Sクラスは主に保守派の考え方に基づいた優秀な者が集まっている。その上、保守派の多くは自分たちが選ばれた人間だという思想を持っている。


 だからこそ、カースは負けを認めなかったのだろう。


 中立派は、これまで長年守られてきた保守派の考えを否定せず、新しい常識も受けいれるという、どっちつかずな派閥だ。


 主に下級貴族や平民の富裕層がここに多く属している。なぜなら、表立って革新派に所属すれば、保守派の感情を逆撫ですることになるから。


 新しい知識や力は欲しいが、上級貴族に目を付けられたら簡単につぶされてしまう。そういう軋轢を避けるための派閥だった。


 そして、最後に革新派。新しい考えや知識を積極的に取り入れ、より高みを目指すという派閥。


 一部の柔軟な思考を持つ貴族を旗頭として、平民の多くがここに属していた。ここに所属する人間が圧倒的に多いため、他の派閥にも勝るとも劣らない力がある。


 当然、スペルたちは革新派に組み込まれるだろう。


「お師匠様、生徒たちはそろそろ全員が魔力感知はできるようになりそうですね」

「そうですね、この前ミラさんの実演が良かったんだと思います。皆のやる気がグンと上がりましたから」


 一方でFクラスの生徒たちは劇的な成長をみせていた。もう全員が魔力を感知できるようになり、魔力操作を覚える修業に時間に充てている。


 魔力操作を覚えれば、最後はいよいよ無詠唱魔法だ。


 無詠唱魔法までできるようになれば、スペルの名声が高まると共に、Fクラスの生徒たちの評価も大きく変わるだろう。


「おい、これからここは俺たちが使うんだから出ていけよ」

「そうだそうだ」

「そうはいくかよ。ここは先生がすでに私たちのために押さえてくれた場所だ。勝手なことを言うんじゃねぇ」


 訓練場に近づいたとき、中から言い争うような声が聞こえてきた。スペルとフィリーネは顔を見合わせて中へと急ぐ。


 場内では、普段見かけない生徒たちとFクラスの生徒たちがいがみ合っていた。


 ただ、どう見ても普段見かけない子供たちの方が強気で、Fクラスの子供たちの方が弱腰だ。おそらく上位クラスの生徒たちだろう。


「いったい何事ですか?」

「先生!!」


 スペルが間に割って入ると、Fクラスの生徒たちが縋るような顔で集まってきた。


「Sクラスの奴らが俺たちにここから出て行けって言うんだよ」


 ミラが代表して状況を説明してしてくれた。


 彼女なら喧嘩を売られたら買ってしまいそうだが、Sクラス相手では分が悪いと思ったのか自重している。


「ほうっ。いったいどういうことですか?」

「どういうことも何も言った通りですよ、先生。ここはSクラスが使用します」


 スペルがSクラスの方に顔を向けると、先頭に居た金髪の生徒がスペルたちを蔑むように笑いながら告げた。


「あなたたちにこの子たちを追い出す権利はありませんよ。誰の許可があってこの子たちを追い出そうとしているんですか?」


 しかし、この時間の訓練場はFクラスが押さえている。いくらSクラスが一番優秀だからと言って横暴が許されるわけじゃない。


「私が許可した」


 後ろを振り返ると、カースが勝ち誇ったような笑みを浮かべて近づいてきていた。


 なるほど。今回の元凶はどうやらカースのようだ。スペルがシャロンやFクラスを教えていると知り、嫌がらせをしに来たらしい。


 昔と何も変わっていない。


「誰かと思えば、カース先生ですか。なんで勝手に許可したんです? すでに使用権は決まってましたよね」


 何で自信満々だったかと思えば、教師が絡んでいたわけか。全くご苦労なことだ。

 

「より優秀な生徒がより良い環境、良い待遇を得られるのは当然だろう? 訓練場も成長の見込みの薄い生徒より、将来有望な生徒たちが使う方が有意義に決まってる。ちゃんと許可証もあるぞ。分かったらさっさと出ていってくれ」


 カースが見下すような笑みを浮かべる。


 自分自身は気を付けていたが、生徒にまで危害が及ぶとは思わなかった。


「皆さん、いきましょう」

『先生!?』


 正式な許可証がある以上引き下がる他ない。


 武力で解決しても、それは相手の思う壺になる。できれば正当な手段で取り返すのが一番だ。


「話は後です。いきましょう」


 スペルは納得できない顔の生徒たちを連れて訓練場の外に向かう。


「無能は無能らしく大人しくしてるんだな」


 スペルの背中にカースの暴言が刺さった。





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