第027話 ミラ VS スペル
「それじゃあ、私が審判をしますね」
フィリーネが二人の後に続きフィールドに登って二人の間に立つ。
「おうっ」
「お願いしますね、フィリ」
ミラは開始位置に移動してスペルと向かい合った。
ミラは初めてスペルを見て「なんだ、この冴えないおっさんは」そう思った。
こんな人が本当にあの無能のシャロンを劇的に成長させたのか、と。
パッと見、苦労人のような人の良さそうな見た目をしていて、物腰の柔らかさも含めて、まるで凄い魔法使いには見えない。
だからこそ、実際に戦ってその実力を試すことにした。
「準備はよろしいですか?」
フィリーネの言葉に二人とも無言で頷く。
「それでは……始め!!」
戦いの火蓋が落とされた。
「うぉおおおおっ、火の玉よ、敵を燃やせ!! ファイヤーボール!!」
開始直後、ミラがファイヤーボールを発動。普通のファイヤーボールよりも大きな火の玉がスペル目掛けて飛んでいく。
ファイヤーボールはミラの最も得意とする魔法だった。
「へぇ……」
スペルはその魔法を見るなり感心するような声を出す。
「ぼーっとしていていいのかよ!! どんどん行くぜ? 火の玉よ、敵を燃やせ!! ファイヤーボール!!」
スペルの余裕のある態度は、舐められているようでミラの感情を逆撫でした。追撃で何度も魔法を放つ。
いくつもの火の玉がスペルに襲い掛かった。
「この程度かぁ!?」
火の玉はスペルに殺到してもう当たる寸前。
今から詠唱していたのでは間に合わない。
なんだよ、こんなに弱いのか……。
ミラはあまりに呆気のない決着にガックリと肩を落とす。
――ジュウッ
しかし、ミラの予想は外れた。
当たると思っていたファイヤーボールが全て煙のように消えてしまった。
シャロンが無詠唱で魔法を使っていたのを見たことがあるが、それよりもはるかに発動が早い。
発動の瞬間が見えない程に。
「おらぁああああっ!!」
だが、その程度で怖気づくような性格をしてはいない。
ミラはさらに多くのファイヤーボールを放った。それはもう弾幕というにふさわしい数の火の玉だ。
ただ、その火の玉もスペルの前には無意味。全て消し去られてしまった。
少しずつスペルの異常さがミラを侵食してくる。
「もしかして、ファイヤーボールしか使えないんですか?」
スペルのその言葉を聞いたとき、心臓がドクンとひと際大きく跳ねた。
「うるせぇ!!」
なぜなら図星だったから。
それこそが、ミラがFランクのクラスに振り分けられた原因の一つだ。
一属性しか使えない人間は少なくないため、それだけでFクラスになることはない。
しかし、魔法が一種類しか使えないとなると話は変わる。
それでは試験で高得点を取れないからだ。そのせいでミラはFクラスに振り分けられた。
「以前、何か炎に関する事故にでも遭われたのでは?」
そして、次の言葉を聞いてさらに鼓動が跳ねた。
その言葉も当たっていたからだ。
「だからなんだってんだよぉっ!!」
ミラは自暴自棄になったようにファイヤーボールを連発する。だが、それも全てスペルに消されていく。
事故に遭うまでは確かにファイヤーボール以外の魔法も、他の属性の魔法も使えていた。
でも、事故に遭った後、炎に巻かれた記憶が焼きついたせいか、ファイヤーボール以外の魔法が使えなくなってしまった。
今更どうしようもない。色々な方法を試してみたが、どの方法も効果はなかった。何をしても他の魔法は使えない。
それがミラに突きつけられた現実だった。
スペルが魔法を消しながらミラに近づいてくる。
はじめはただの冴えないおっさんだと思っていたが、今は得体のしれない存在に塗り替えられてしまった。
まるで正体不明の怪物が自分に迫ってきているように見える。
「来るな、来るな、来るなぁあああああっ!!」
ミラは恐怖のあまり、スペルが自分に近づいてくるのを阻もうとファイヤーボールを連発するが、発動した端から消されてしまう。
そして気づけば、スペルが目の前に立っていた。
「えあああっ……ああっ……」
ミラは完全に恐怖に飲まれてしまった。
スペルの手がミラに伸びてくる。あの手に捕まったら、自分は終わりだ。
「ま、参った!! 俺の負けだ!!」
そう感じたミラは両手を上げて負けを認めていた。
「いいんですか? まだ勝負はついていませんが」
スペルが不思議そうに首を傾げる。
「あぁ、あんたには勝てそうねぇ」
まさに完敗だった。何もさせてもらえなかった。まさかこれほどまでに差があるなんて思わなかった。
もう二度と先程のような今日は味わいたくない。
ミラはそう思わざるを得なかった。
「勝者、スペル!!」
『うぉおおおおおおおっ』
フィリーネが宣言すると、生徒たちが歓声を上げる。
「悪かったな。あんたの実力を疑って」
ミラは一瞬でも実力を疑ったことを恥じた。
相手は自分が足元にも及ばない強者。同じ国の人間であることに感謝する他ない。
戦争で遭遇していたら、確実に殺されていた。
「いえいえ、割と慣れているので大丈夫です」
「なるほどな。これからよろしく、先生」
ミラは今までに自分と同じように喧嘩をふっかけた奴らがいるんだと納得。
彼らに同情すると同時に、彼女の中にどこか仲間意識のようなものが芽生えた。
ミラはスペルに手を差し出す。
「えぇ、こちらこそよろしくお願いしますね、ミラさん」
スペルは笑顔でそれに応えた。
「そういえば、先生。よく俺が昔事故に遭ったことが分かったな」
昔事故にあったことは学園に入学してから誰にも話したことはない。知る人間はごく限られている。それなのに、スペルはまるで確信があるように言っていた。
ミラにはそれが不思議だった。
「私も似たような経験があるんですよ」
「なんだ、そういうことか。先生の言う通り、俺はファイヤーボール以外の魔法が使えねぇ。これからもずっとな」
確かにそれなら納得がいく。
「いえいえ、その症状、改善できると思いますよ?」
「なんだって!?」
スペルの言葉を聞いたミラは目を大きく見開いた。




