第026話 落ちこぼれクラス
ここは生徒用の訓練場。
「こちら、Fクラスの実技を担当することになったスペル先生です」
「スペルです。よろしくお願いしますね」
スペルはフィリーネに紹介され、十数人の生徒たちの前で挨拶をしていた。
事の起こりは前日に遡る。
「お主には生徒の実技指導を頼みたい」
「私がですか?」
「そうじゃ」
「それは光栄な話ですが……」
中間試験から数日後、スペルは学園長と対峙していた。
その理由は先の試験結果にある。
全く魔法が使えなかったはずのシャロンが、魔法を使えるようになるどころか、学年一の成績を修めるまで至った。
たった数か月でそれほど劇的に成長するなど本来ありえない。この国始まって以来の大事件だ。
そのおかげで質問や要望が殺到。
本当に不正はなかったんですか?
どうやってあんなに成長させたんですか?
あの子に指導した人は何者ですか?
私も指導を受けさせてください。
その修業方法をよこしなさい。
穏当なものから横暴なものまでさまざま。
ただ集約すると、自分にも指導を受けさせて欲しい、というのが大半だった。
スペルと関わりのある教師たちはもちろん大賛成だったが、関わりのない教師たちが大反対。
そこで折衷案として、落ちこぼれのクラスを担当させて様子をみよう、ということで落ち着いた。
この学校は成績順でクラス分けされている。
一番上がS、そこからA、B、C、D、E、Fの順となる。
学園長の話は、定期的にFクラスの魔法の指導をお願いできないかという話だった。
勿論一人の魔法使いとして光栄な話だが、ただでさえ、不慣れな状態で教師たちの指導をしているのに、さらに子供までとなると不安の方が大きい。
「勿論一人でとは言わん。助手としてフィリーネもつけよう」
「そうですね……それなら助かります」
フィリーネとは旧知の間柄。その上、教師の指導の時も彼女がフォローしてくれたおかげで大分スムーズに教えられた。
フィリーネがいるのであれば、どうにかできそうな気がする。師匠としては情けないばかりだが、今回も力を借りよう。
「魔力増幅法に関してはどうすればいいんでしょうか?」
魔力増幅法に関しては、誓約とかん口令が敷かれているため、誰かに勝手に教えることはできない。
ただ、スペルに関しては除外されている。
なぜなら、スペルこそが発案者であり、この手法の権利を持っているからだ。その上、異常な魔力を持つスペルを誰も誓約魔法で縛ることができない。
ただし、生徒たちに誓約させる必要が出てしまうが。
「そうじゃのう。シャロンと違って他の生徒たちは全員魔法は使えておる。他のクラスとの差が開きすぎるのも問題じゃ。魔力増幅法に関しては、今回は控えてほしい」
「分かりました」
本来であれば、全員に魔力増幅法を教えられるのが理想だ。しかし、様々な軋轢を生むことを考えると安易に広めることはできない。
それも分かっている。
「すまんな、面倒を押し付けて」
学園長は申し訳なさそうな顔をする。
学園長は確かにこの学園の頂点に立つ存在だが、だからと言ってなんでも自分の思った通りにできるわけでもない。
生徒たち、ひいては保護者たちにまで話が及べば、いかに学園長と言えど無視できないことがある。
それはいろんな支援を受けて運営されている組織である以上どうしようもないことだ。
「いえ、学園長には恩がありますから。このくらいどうってことありませんよ」
「そうか、感謝するぞ。それじゃあ、指導の件、よろしく頼む」
「分かりました」
こうして、スペルはFクラスの実技指導を行うことになった。
そして、冒頭へと戻る。
「先生っ」
挨拶を終えたスペルに一人の生徒が手を上げた。
「どうしました?」
「先生が本当にシャロンが魔法を使えるようにしたのか?」
「そうなりますね」
偏にシャロンの努力の賜物だが、彼女の感謝を受け入れた以上、否定するのは彼女の気持ちをないがしろにするも同然の行為。
そんなことはできない。
「それじゃあさ、その実力を見せてよ」
言葉遣いが少し荒々しいが、生徒は真っ赤なショートヘアーの女の子。
その瞳には挑発的な色が浮かんでいた。
「こら、ミラさん。お師匠様に失礼でしょ!!」
フィリーネがその生徒――ミラを叱りつける。
「なんだよ、フィリーネ先生。別にちょっと見せてくれるくらいいいじゃん。というか、お師匠様ってもしかしてフィリーネ先生の師匠なのか? 見えねぇえええっ」
ミラはスペルを見てバカにしたように笑う。
「いい加減にしないと怒りますよ」
「ひぇっ、怖い怖いっ」
フィリーネは完全にからかわれていた。
「いいでしょう。何をすればいいんですか?」
師匠として、弟子の前でバカにされてそのままという訳にもいかないだろう。
「へっ、そうこなくっちゃ。俺と魔法で勝負してくれよ」
「分かりました」
「よっしゃ、早いとこやろうぜ」
ミラは近くにあった決闘用のフィールドの上に飛び乗った。
「いいんですか?」
その背を見送るスペルにフィリーネが尋ねる。
実力を見せなければ、生徒たちもついてこない。それを考えると、ミラの提案はいい機会だ。断る理由はない。
「勿論です」
スペルはミラの後を追ってフィールドの上に飛び乗った。




