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第024話 信じられない光景

「アウグスト様、ようやくあの無能を学園から追い出すことできますね」

「あぁ、やっとあの目障りな顔を見なくて済む」


 筆記試験を終えた後、アウグストは意気揚々と実技試験会場に移動する。


 マギステリア魔法学園は世界でも最高峰の魔法の学校だ。優秀な才能を持っている者たちが集まっている。そして、貴族の子弟が多い。


 この国では、貴族の家の人間が魔法を使えないのは恥。魔法に関しては幼い頃から厳しく育てられるため、当然と言えば当然。


 その優秀な人間しか入れないはずの学校に魔法が使えない落ちこぼれ、しかも正室の子ではない妾の子がいる。


 それが我慢できなかった。


 ほとんどの子供は魔法を使用できるようになるが、まれにシャロンのように魔法が使えない子供もいる。


 そういう子供は基本的はマギステリア魔法学園に入れないが、大貴族の場合、権力と金の力で無理を推し通すこともある。


 入学後、幾度となく酷い言葉を浴びせてきたが、シャロンはなかなか出ていこうとはしなかった。


 それが尚更アウグストの気持ちを逆撫でし、さらに行動がエスカレートさせ、殴ったり蹴ったりすることも。


 しかし、それも今日まで。


 シャロンが試験で結果を残せないのは明白。


 腹立たしい思いをする必要がなくなると思うと、晴れやかな気分だった。


「スペルとかいう男も馬鹿だな。せっかく手にした職を無能のために失うなんて」

「おっしゃる通りですね」


 そこでふと、シャロンの傍らにいたスペルと呼ばれた教師の存在を思いだす。


 シャロンに対するいじめの現場を言い咎められるまで、一度も見たことがなかった。


 軽く聞いてみたが、最近学校にやってきた新人だと言う。


 それ以上のことは調べていない。なぜなら、その男もシャロンと一緒にいなくなるのだから。


 調べるだけ無駄だ。


 アウグストはスペルの姿を思い浮かべて嘲笑した。


「それでは実技試験を開始します」


 会場に着いてしばらく、実技試験が始まる。


 アウグストは今年入学したばかりの新入生。


 順番は入学時の成績順に行われる。


「次、アウグスト・フェルナンド君」


 アウグストは上位五人目。


 そのため、すぐにアウグストの番が回ってきた。これまでに習得した魔法の中で難易度の高いものを選び、披露していく。


「おおっ、これは素晴らしい」

「流石、フェルナンド家のご子息ですな」

「魔法の完成度が非常に高い」

「詠唱にも淀みがありませんね」


 魔法を見た審査員たちの反応も上々。これなら高得点は間違いないだろう。横目で遠くで俯くシャロンを見てほくそ笑む。


 試験は順調に進み、ついに最後のシャロンの出番がやってきた。


「おいっ、無能の出番が来たぜ」

「よくまぁ、ここに来れたな」

「まじそれ。次の会場行こうぜ」

「どうせ見ても意味ないもんな」


 生徒たちは次の試験会場へと移動し始める。そして、審査員の顔にも見る価値もないという表情がありありと浮かんでいた。


 アウグストも彼らと同じようにその場を後にしようと会場に背を向けた。


「な、なんと!? 無詠唱だと!?」

「信じられん!?」

「魔法は使えないんじゃなかったのか!?」

「これが落ちこぼれの魔法だと!?」


 しかし、次の瞬間、後ろから審査員たちが驚愕する声が。


「なんだと!?」


 すぐに振り返ると、ついこないだまで全く魔法が使えなかったはずのシャロンが魔法を放つ姿が目に映った。


 しかも、なかなか難易度の高い魔法もある上に、どの魔法も高い完成度を誇っている。


 何よりも特筆すべきなのは、魔法を完全に無詠唱で操っていること。無詠唱で魔法を発動できるのは国内でも十人にも満たない。

 

 そのはずなのに、この前まで全く魔法が使えなかった落ちこぼれが、その無詠唱で魔法を使っていた。


 ありえない……。


 その事実は鈍器で頭を強く殴られたかのように衝撃的だった。あまりに信じられない光景に脳がその光景を理解するのを拒んでいる。


「お、おい、あいつ、あの落ちこぼれだよな……!?」

「いったいどうなってるんだ? この前まで魔法なんて使えなかったよな?」

「ありえない。なんであんなに魔法を並列使用できるんだ?」

「どの魔法も美しい……」


 夢であればどれほど良かっただろうか。他の生徒たちもシャロンが魔法を発動させているのを見て、度肝の抜かれていた。


 目の前の光景は紛れもない現実だった。


「ははははっ……不正だ。不正に決まっている。そうだよな?」

「そ、そうですね、高度な魔道具か何かを使っているかと」

「落ちこぼれが魔法を使えるはずがないのでおっしゃる通りかと」


 アウグストは勿論、取り巻きたちも現実を受け入れられずに逃避する。


 しかし、それは審査員も考えたのか、シャロンの身体検査が行われた。


 その結果、完全に白。


「そんなバカな……」


 彼女は不正になるような物は何も持ち込んでいないし、ドーピングの類もしていない。彼女の力が完全に彼女自身のものであることが証明された。


 その後、他の二種目の実技に置いてアウグストは精細を欠き、芳しくない成績を残すことに。


 一方でシャロンは他の二種目で歴代二番目の記録を叩きだし、実技で学年一となった。


 落ちこぼれに負けるなんてなんという屈辱か。


「あいつだ、あいつが何かしたんだ……」


 アウグストは、自分が負けたのはスペルのせいだと逆恨みする。


 その瞳には暗い炎が燃え上がっていた。

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