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第023話 試験当日

 声の正体はフィリーネ。


 彼女が眉を吊り上げてスペルに詰め寄る。


「何って魔法を教えているんですが……」

「女性の背中に触るだなんて破廉恥です!!」

「そんなつもりは全くないのですよ」


 シャロンは二十以上も歳の離れた女の子。自分の子供だとしてもおかしくない。幸せになって欲しいとは思うが、恋愛対象ではなく保護対象という方が正しい。


「そ、そうです。フィリーネ様、スペル先生は魔法を教えてくださってただけです」

「背中を触ることが?」


 必死にスペルの無実を晴らすシャロン。その言葉を聞いたフィリーネの片眉が吊り上がる。


「フィリにも昔したことがあるでしょう。魔力操作を覚えてもらうためですよ」

「あっ、そんなこともあった……かも?」


 フィリーネにもやっていたはずだが、相当昔のせいかどうやら忘れていたらしい。


 彼女は腕組んで不思議そうに首を傾げた。


「とりあえず、やましいことなんてしていませんから安心してください」

「ふぅ、それもそっか……朴念仁のお師匠様がそんなことするはずないよね」

「ん? 何か言いましたか?」

「いえ、なんでもありません」


 ぼそぼそと何か言っていたような気がしたが、聞き間違いだったようだ。


 フィリーネはいい笑顔で笑った。


「それでは、試験までは魔力増加と魔力操作、そして、イメージ力の強化に努めます。ある程度習得できたら、魔法の完成度をあげていきましょう」

「分かりました!!」






 そして、賭けをしてから、あっという間に二カ月が経った。


「大丈夫でしょうか……」

「いつも通で大丈夫ですよ。シャロンさんは頑張りましたから」


 スペルは不安そうなシャロンの肩をポンと叩く。


 この二か月間でやれるだけのことはやったと思う。シャロンも根が真面目な子なので、スペルが提案した修業を実直にやり続けた。


 その成果がしっかり出ていたので何も心配していない。


「ス、スペル先生の教え子として先生のお名前を汚さぬよう頑張ります」

「名などどうでもいいので、悔いの残らないよう存分にやり切ってきてください」


 シャロンが試験前にガチガチになっているので、安心するように微笑みかける。


「わ、わわわわ、分かりました」


 なぜかもっと悪化した。




 ◆    ◆    ◆




「ふぅ~、そろそろ行かなきゃ」


 スペルと別れたシャロンは、試験を受けるため、教室へと向かう。


「あっ、無能だ」

「アウグスト様に喧嘩を吹っ掛けたんでしょ? 恥知らずねぇ」

「ホントよねぇ、最下位から上位十位以内だなんてどうせ無理に決まってるわ」

「バカねぇ、さっさと辞めたらいいのに」


 教室に入ると、悪意に満ちた視線と言葉を投げ掛けられる。


 入学する前からこの調子だ。以前のシャロンでは耐えられなかっただろう。


 しかし、今は以前に比べて少しだけ自分に自信がついた。そのおかげで何を言われても前のように傷つかなくなった。


 だって、使えなかった魔法が使えるようになったから。


 スペルに比べればひよっこだが、落ちこぼれの自分でも徐々に何かをできるようになっていくのがものすごく嬉しかった。


 シャロンが席に着く。


「あっ、アウグスト様だ!!」

「かっこいい!!」

「流石、伯爵家の跡取りね!!」


 しばらくすると、教室が沸いた。


 傲慢な態度を隠そうともしない青年、アウグストが教室に入ってきた。しかし、そのまま自分の席にはいかず、シャロンの方にやってくる。


「無能、よく来れたな。逃げなかったことだけは褒めてやるよ」

「……」


 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべるアウグスト。シャロンは委縮してしまい、言葉が出ない。


「おい、何か言ったらどうなんだ? まぁ、怯えて何も言えないか。まぁいい。どうせ今日でお前は終わりなんだからな。さっさと出ていく準備でもするんだな」


 ひとしきり言いたいことを言うと、アウグストは自分の席に向かうが、思い出しように振り返って言った。


「あ、そういえば、あの教師も馬鹿だよなぁ、無能のために人生を棒に振るなんて。まぁ、無能とバカ、お似合いかもなぁ。せいぜい幸せに暮らせよ。はははははっ」


 魔法が使えず鈍くさかったシャロンは、昔から家族にも疎まれ、他の貴族たちにも蔑まれ、ずっと味方のいない状態で過ごしてきた。


 自分なんて生きている価値がない。


 そう思いかけていた頃に、味方してくれたのがスペルだった。そのおかげで魔法が使えるようになった。


 感謝してもしきれない。


 だからこそ、アウグストの言動が許せなかった。


「……先生……ません……」


 シャロンはボソボソと呟く。


「なんだと?」

「先生は馬鹿なんかじゃありません!!」


 シャロンは毅然とした態度で言い返した。


 自分のことはどうだっていい。でも、スペルの悪口だけは、それだけは到底許すことができなかった。


「どう考えてもバカだろ。お前みたいなののせいで底辺暮らしになるんだからなぁ」

「私が証明してみせます」


 シャロンの瞳に強い光が宿る。


「はっ、ほざくじゃねぇか。できるもんならやってみろ。無駄だろうがな」


 アウグストは嘲笑いながら席に戻った。


 シャロンは絶対に結果を出すと心に誓った。もう不安は消えていた。

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