第022話 実技試験に向けて
マギステリア魔法学園の中間試験は、筆記試験と実技試験からなる。その内の実技では、魔法の習熟度、威力、命中率と発動速度の三つを測定する。
習熟度は、自身が操れる属性の魔法をいくつか披露し、その難易度や精度の高さを審査員に評価される。
威力は、一つの的に対して魔法を発動させ、威力の高さを数値化して計測する。用務員採用試験でやったものに近い。
命中率と発動速度は、ランダムに出現する百個の目標物に対してどの程度命中させられるかを測る。
「早速ですが、シャロンさんには魔力増幅法の他に、魔力操作力とイメージ力をつけてもらいます」
「魔力操作力とイメージ力、ですか?」
「はい」
魔力操作とは、無詠唱魔法を使用する基礎の一つとなる技術。
スペルは、兄姉たちから『魔法を使用をする際の詠唱はあくまで補助であり、本来発動には必要ない』と教わってきた。
現在一般的には『特別な才能がある者以外は魔法を使用する際に詠唱は必要』だと言われている。
スペルは兄姉が自分に教えたことが正しいと考えている。
長らく時間がかかったが、詠唱によって補助されていた部分を分析し、一つ一つ自力で行えるようになることで、スペルは無詠唱で魔法を使用できるようになった。
その、詠唱が補助している部分というのが、魔力操作とイメージだ。
魔力操作は体内にある魔力を自在に操る技術。イメージはどれだけその魔法の完成形を想像できるかという想像力だ。
これらがしっかりできていれば、魔力さえ足りれば、無詠唱で魔法が使えるようになる。
実際、自分がそうだった。
魔力操作力は、習熟度、威力、命中率、発動速度など全てに影響を与えるし、無詠唱魔法は魔法の発動速度に直結する。
成績で上位を目指すのは当然として、これから魔法使いとして活動していくのならあって困ることのない技術のはずだ。
「何をすればいいんですか?」
「魔力操作に関しては、まず体内の魔力を動かすのが訓練になります。普段は詠唱のおかげであまり意識せずに使っているので感じられないかもしれません。これは後ほど私が手伝います。イメージ力は、発動したい魔法を見る、触る、受ける、同じ属性の自然現象に触れ続ける、ひたすらにずっと考え続ける、などの方法が有効です。シャロンさんは火と水の属性を生まれ持っているので、水の魔法でやってみてください。火は危ないですから」
「分かりました」
「それでは、早速ですが、魔力操作からやってみましょう。申し訳ございませんが、少し背中に触りますね」
「は、はひっ!!」
スペルはシャロンの背に回り、彼女の背中に手を当てる。シャロンは体をビクリと震わせた。
「あっ……」
シャロンは何かを感じたように声を漏らす。
「分かりますか?」
「はい。暖かい何かがスペル先生の手から私の中に送り込まれています」
「それが私の魔力です。自分の魔力を感じやすくなったと思いますが、いかがでしょうか」
「……なんとなくですが、感じられます」
スペルからシャロンの表情は見えないが、頷いているところを見ると、感じ取れているのだろう。
「それを私の魔力を押し返すように動かしてみてください」
スペルの魔力に押し流されているシャロンの魔力が動こうとしているのを感じるが、元々詠唱に頼っていた部分のため、すぐには動かなかった。
「ぷはぁっ。全然動かせませんでした……」
シャロンがシュンと肩を落とす。
「お疲れ様でした。初日ですから落ち込む必要はありません。私など動かせるようになるまで何カ月も掛かりましたから」
スペルは自分が全然できなかった頃の自分と重なり、優しい言葉を掛ける。
「そうなんですね」
「根気よく練習していきましょう」
「分かりました」
話を聞いたシャロンは少し元気になった。
その後、シャロンの背中から手を離し、再び向かい合う。
「次にイメージ力。早速やってきましょう」
「はい」
「ウォーターボール」
スペルは分かりやすいように名前を唱えて魔法を発動させ、掌の上で留めておいた。
「あれ? 飛んでいかない」
シャロンが不思議そうに首を傾げる。
ウォーターボールの場合、詠唱して発動させると、自動的に手を翳した方に射出される。
しかし、自分の魔力を使い、イメージ力で魔法を発動させた場合、その魔法をある程度自分の意思で操ることができる。
「それでは、触ったり、観察したりしてみてください」
シャロンは宙に浮かぶ人間の頭くらいの水球に、恐る恐る指でちょこんと触る。まるで膜で覆われているかのように表面がプルルンと揺れた。
「これどうなってるんですか?」
非常に不思議そうな顔をしてスペルの顔を見上げる。
「私の魔力で割れないようにしています」
「そんなこともできるんですね」
「はい、魔力操作を覚えればできますよ」
「頑張ります!!」
俄然やる気になったシャロンは水球を触り続けた。
「それでは、今日のところはこれくらいにしておきましょうか」
小一時間ほど訓練を続けて、その日の修業はお開きに。
「あぁっ、お師匠様、何をしているんですかっ!!」
しかし、帰ろうとしたところで、聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。




