第021話 成果と賭け
「今日はこのくらいにしましょう」
『ありがとうございました!!』
今日の実技指導を終える。
魔法の実技指導を任されてからそろそろ一カ月。スペルは現在広く知られている魔法の基礎の基礎はおおよそ理解した。
それを踏まえた上で、現代の魔法知識には間違っている部分が多くあり、兄姉に教わった嘘だらけの方法の方が正しい部分が多いことが分かった。
証拠は自分自身だ。
まず、魔法属性の適性に関して。
基本的に生まれた時に決まっていて、人間は基本的に一から三属性に適性があるのが普通だと言われている。
しかし、それは間違いだ。
スペルが初めて魔法を覚えた時、水属性の魔法しか使えなかった。しかし、数十年間努力し続けた結果、全属性を覚えるに至った。
まだ再現性を確認しきれていないため、正しいとまでは言えないが、少なくとも自分という例がある以上、生まれた段階で決まっていると言い切ることはできないだろう。
それから魔力増加について。
これも現代の常識では、成長期が終われば一生増えることはないと言われていたが、それも間違っている。
「皆さん、調子はいかがですか?」
「そうですね、先ほど検査しましたが、以前より多少魔力量が増えました」
「俺は変わりませんでした」
「なるほど」
教師たちには実戦に役立ちそうなことを教えながら、シャロンに教えた魔力増幅法を場合分けして試してもらっていた。
①マナ草茶を飲む
②マジックアップキノコを食べる
③魔力吸引呼吸法による瞑想を行う
④魔力を繰り返し使い切る
兄姉に教えられた魔力増幅法はこの四つ。それぞれ一つずつ単体では全く効果がないのは立証されている。
そこで、四つの内二つを組み合わせて実践する六通りのグループ、四つの内三つを組み合わせて実践する四通りのグループ、そして四つすべて組み合わせるグループ。
全部で十一通りのグループを作って実践してもらった。
その結果として、四つすべてを組み合わせたグループのみ魔力増加が認められた。一カ月でおよそ一%。つまり、単純な計算でも一年で十二%も魔力が増加することになる。
十年続ければ百二十%。確実に二倍以上にはなるだろう。
そして、より顕著だったのはシャロンだ。
「スペル先生、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
なんと彼女はひと月で約五十%も魔力が増加した。つまり、単純な計算でもたった一年で七倍になる。実際は複利的に増加するため、もっととんでもない増加率になるはずだ。
勿論、彼女の元々の魔力が少ないということもあるので、今後も同じように増加するのかは分からない。継続的に検証する必要がある。
教師陣の年齢はバラバラだが、大体同じ増加率。シャロンだけが違った。おそらく体が成長している年齢かどうかが大きく効果を分けている可能性が高い。
個人ごとに差が出るかどうかは、他の生徒に試してもらって結果を計測する他ないだろう。
なぜ、この方法が今まで見つからなかったかと言えば、まず第一に成長期以外に魔力が増えないという先入観があったことだ。
次点でそれぞれが単体では効果を発揮せず、四つ揃って初めて効果を発揮するという部分が大きいだろう。
単体で効果がない方法を組み合わせようとはなかなか思えない。しかも四つも。なんの知識もなかった幼い頃のスペルだからこそ、この四つの方法を素直に実践し、魔力を増加させることができたわけだ。
それを考えると、今の自分があるのは兄姉のおかげになるため、素直に喜べなくなった。
それに、兄姉がスペルを強くさせないように教えた修業方法が、奇しくもスペルを異常なまでに成長させてしまったのは、皮肉というスパイスが効きすぎている言えるだろう。
そして、成果はそれだけじゃない。
――ボッ
シャロンの指の上に蝋燭のような火が灯る。
「わぁああっ、スペル先生、魔法が、魔法が発動できました!!」
シャロンが大喜びではしゃいだ。その瞳の端には涙が浮かんでいる。
それもそのはず。
今まで魔力が少なすぎてずっと発動できなかった魔法を、ついにシャロンが発動させたのだから。
これは歴史的快挙と言える。
今まで魔力が少なくて魔法を発動できなかった人間は、魔法使いにはなるのを諦める他なかった。しかし、これからは違う。
魔力が少なくても魔力を増加させることで魔法使いになれる余地が生まれたことになる。それだけで今後魔法使いがグッと増えることは容易に想像できる。
それはつまり、国としての戦力が増えるということだ。他の国より何歩も先んじることができるとなれば、その効果は計り知れない。
逆に、生まれ持った魔力の多さで才能が測れなくなることから、魔力の多さを笠に着て威張っていた人間との軋轢も起こりえる。
今後は、魔力草とマジックアップキノコの確保と情報管理、そして、いかにして国民に浸透させるか、などが主な課題になるだろう。
この修業方法にはかん口令が敷かれることになった。
それだけでなく、無属性魔法の誓約魔法プレッジによって、各々が情報を伝達できないように強制的に誓約させられることになった。
プレッジは契約を破った場合、罰が下される。今回の場合は制約を破れば死ぬという厳しい罰が設けられた。
誓約は魔力差が大きければ大きいほど破るのが難しくなるため、誓約魔法を掛けるのは最も魔力量の多いスペルが担当することになった。
それだけどこかに広まった場合の影響が計り知れない大発見だということだ。
「まさかこれほどの発見をするとはのう。よくやった」
これまでの成果を学園長に報告すると、満足げに頷く。
「ありがとうございます」
「今後も検証に努めてほしい」
「分かりました」
スペルはたった一カ月で王国の魔法史に残る偉業を成し遂げたのであった。
学園長への報告からの寮への帰り道。
「おいっ、いい加減、目障りなんだよ!」
「そうよ、さっさとこの学園から出ていきなさい!!」
以前と同じような罵声が聞こえてきた。
「また、あなたたちですか」
声がする方に向かうと、再びシャロンが泣いている姿が目に入る。
「それはこっちのセリフだ。また邪魔しやがって」
「あなたたちはなぜシャロンにこのような仕打ちをするんですか?」
「はっ、無能に無能と言って何が悪いんだ? ここに無用は不要なんだよ!!」
「なるほど。それではシャロンが無能ではないと証明できればいいのですね?」
「何?」
青年はスペルの言葉に眉を顰めた。
「そういうことでしょう?」
彼の言い分は、シャロンが優秀なら居てもいい、と言っているのと同じだ。だから、彼が優秀だと思える結果をシャロンが出せば何も問題ないはず。
「はんっ、そんなことできるはずないだろ?」
「それでは私と賭けをしませんか?」
「賭けだと?」
全く信じずに馬鹿にする青年だが、賭けという言葉を聞いて表情が変わった。
興味を持ったらしい。
「はい。私が勝ったら、もう二度と彼女に酷いことをしないと誓ってください。逆に私が負けたら、私と彼女はこの学園から去ります。いかがでしょうか?」
「いいぜ、その賭け、受けてやるよ」
青年はできるものならやってみろと言わんばかりの態度で提案を受け入れた。
「条件は二カ月後にある魔法実技の中間試験で上位十位の成績までに入れなければ、私の負け、ということでいかがでしょうか?」
「ふんっ、いいだろう。どうせ無理だろうがな!! 行くぞ!!」
青年は取り巻きたちを連れて去っていった。
「ス、スペル先生、あんなこと言って大丈夫なんですか!?」
二人きりになると、シャロンが狼狽えた様子でスペルに問う。
「勝手なことをして申し訳ありません」
「いえ、それは構わないのですが、負けてしまった後のことを考えると心配で……」
シャロンは不安そうな顔をして俯いた。
「大丈夫です。たった一カ月で魔法を使えるようになったじゃないですか。あなたなら二カ月あれば余裕ですよ。私が保証します」
「本当ですか?」
「はい。勿論です」
「分かりました。私、頑張ります」
スペルがシャロンの方に手を置いて微笑みかけると、彼女は気合を入れるように胸の前で両手をグッと握った。




