第020話 感謝の贈り物
ハンターギルドの応接室へと案内されたスペルとフィリーネ。
「お待たせしました」
しばらくすると、サーシャがお盆に布を被せて運んできた。
「いえ、グリフォンの件の調査が終わったとか?」
「はい。調査の結果、スペル様が討伐された個体は、災害認定されていた個体と同一の個体だと認定されました。こちら、報酬の金貨五百枚になります」
テーブルの上に載せたお盆の布を取ると、金貨の束が露わになる。
これほどの大金。スペルは今まで生きてきて一度も見たことがない。
「金貨五百枚ですか?」
「はい、少ないでしょうか?」
「いえいえ、まさかそれほどの金額になるとは思っておりませんでしたので……」
報酬があまりに大きな金額になったことに驚きを隠せない。
金貨五百枚と言えば、親二人、子二人の四人家族がそこそこ贅沢に暮らしても何十年も暮らせるほどの金額だ。
宿の年間の利益の合計だってこんなに出ていなかったはず。
それをグリフォンを倒した程度でもらえるなんて思ってもいなかった。
グリフォンがSランクのモンスターだというのは教えてもらったが、まだ実感できていないせいだろう。
「いくつかの村が壊滅的な被害に遭いましたからね。当然の金額です」
「そうなんですねぇ……」
まだまだ自分の常識と一般的な常識のズレに慣れそうにない。
「また、ご依頼いただいた通り、グリフォンの死体は解体させていただきました。そこで、少しお願いがございまして」
素材をもらって、そのまま解散とはいかないらしい。
「なんでしょうか?」
「グリフォンは非常に優れた薬剤の材料になる素材が多く獲れるため、いくらか譲っていただけないかと思いまして。主に内臓と血液ですが、いかがでしょうか」
「構いませんよ」
スペルは少し身構えたが、自分に不要な素材だったので一も二もなく頷いた。
「こちら、素材代として金貨千枚となります」
ベルを鳴らすと、外から再び布を掛けられたお盆をもった職員が入ってくる。
そして、先ほどの二倍の金貨が現れた。
「え……」
呆然となるのも無理はないだろう。
「お師匠様、少し良いですか?」
あっけに取られているスペルにフィリーネが話しかける。
「フィリ、どうかしましたか?」
「グリフォンは存在そのものが希少で、薬効の高い素材が多く獲れる上に、倒せる人材も少なくて中々手に入れられない代物。内臓と血液だけでも金貨千枚は安すぎると思います。他に持っていけば、もっとずっと高く買い取ってもらえると思いますが、本当にいいんですか?」
端的に言えば、ぼったくられてますよ、ということだ。
「そうですね、フィリーネさんの仰る通りです。商業ギルドや大店の商会に持っていけば、より多くの対価を得られるの間違いないかと」
サーシャも諦めたような表情で白状する。
「そうですね、他に持っていったら確かにもっと高く買ってもらえるのかもしれませんが、私はハンターギルドに卸したいと思います」
「いいんですか?」
サーシャは思いがけない答えにきょとんとした表情になった。
「その素材を正当に使われると思っても?」
「それは私が保証しましょう」
スペルの質問にサーシャはしっかりと頷く。
「それなら構いません」
スペルにとって不要な素材の価値なんて正直どうでもいい。でも、折角なら一番信頼できる組織に預けたい。
ハンターギルドはグレイやノーラを始め、ユイもお世話になっている、もしくは、なっていた場所。それを考えれば、ハンターギルドに譲るのが一番だろう。
「ありがとうございます」
サーシャが頭を下げる。
「ふふふっ、流石、私のお師匠様ですね」
フィリーネがいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
そこでスペルは彼女の意図に気づく。
「私を試したんですね?」
フィリーネはスペルがお金を取るか、お金よりも大事なものを取るのか見てみたかったのだろう。
「いいえ? 私は最初から信じてましたよ?」
「はぁ……全く」
明らかに確信犯だが、これ以上言ったところではぐらかされるだけだ。
スペルは追及を諦め、金貨を収納魔法に仕舞い込んだ。
ギルドでの用事を済ませたスペルたちは帰路に就く。分かれ道に差し掛かったところでフィリーネが呟いた。
「それでは私はこの辺で失礼しますね」
「本当に家まで送らなくて大丈夫ですか?」
フィリは実家暮らし。その上、もう日も沈んでいる。女性の夜の街の一人歩きは危ない。
「これでもお師匠様の教え子です。グリフォンが来ても負けませんよ」
「分かりました。でも、少しだけ待ってもらってもいいですか?」
「はい、いいですけど……」
気持ちは変わらなそうなので、説得は諦めてかねてより考えていたことを実行に移す。
スペルは収納魔法からテーブルと、グリフォンの爪、そして色とりどりの石を取り出し、テーブルの上に載せる。
その後、無属性魔法アルケミーを発動させた。アルケミーはモノづくりの魔法だ。
翳した手の間に見えない球体の膜があるかのように、その中に素材たちが宙に浮き、形を変え、一つに融合してぐにゃぐにゃと蠢く。
微調整するように翳した手を動かすと形が徐々に整い、完成系へと近づいていく。
そして、最終的に綺麗な装飾が施された腕輪がスペルの手の上にゆっくりと落ちてきた。
「できました」
「それは?」
フィリーネは不思議そうに腕輪を眺める。
「フィリには用務員採用試験の時からお世話になりっぱなしですから。感謝を込めてこの腕輪を送らせてください」
フィリーネには何かずっと恩返したいと思っていたところ、スペルは記念に持って帰ってきたグリフォンを思いだした。
硬質な嘴や爪、そして宝石にも似た瞳は、装飾品の素材として悪くない。
そこで、フィリーネにそれらの素材を使った装飾品を送ることにした。
「え、いいんですか?」
「はい、受け取ってもらえないと困ります」
「分かりました。有難く受け取らせていただきます。あ、あの、つけていただけますか?」
「勿論です」
フィリーネが恥ずかしそうに腕を差し出すと、スペルはその腕に腕輪を通した。
「あ、ありがとうございます」
フィリーネは嬉しそうに腕をくるくると回転させながら腕輪の具合を確かめる。腕輪が月明かりに照らされてキラキラと煌めいた。
「いえ、礼には及びませんよ。感謝の気持ちですから」
「い、言いたくなったんです。それでは、また明日。おやすみなさい」
「えぇ、おやすみなさい」
フィリーネはスペルに別れを告げ、去っていく。その背中が見えなくなるまで見送った後、スペルも学園へと歩き出した。




