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第019話 デート

 スペルは王都の広場にある噴水の前に立っていた。


「お師匠様、お待たせしました」

「いえ、今来たところですよ」

「それなら良かったです」


 やってきたのはフィリーネ。今日は買い物に付き合うことになっていたので待ち合わせをしていたのだ。


 今日の彼女は魔術師の正装ではなく、ブラウスにフレアスカートの女性らしい装いで、いつもはしていない化粧をうっすらとしていた。


 買い物に出かける際にきちんとオシャレをしてくるのを見ると、過去と違い、立派な女性になったことを思い知らさせる。


 思わず感慨に耽ってしまうが、今はそんなことを考えている場合ではない。


 女性がオシャレをしてきたら一も二にも褒めるのがマナーだ。


「今日の服装はフィリの髪色によく合いますね。とても可愛いですよ」

「そ、そうですか!?」

「はいっ。それからその髪留め。まだ持っていてくれたんですね」


 今日フィリーネが付けている髪留めは、遠い昔にスペルが誕生日プレゼントとして送った物。


 それなのに傷一つないし、綺麗に磨き上げられている。それだけで非常に大切に使ってくれていることが分かる。


「も、勿論です。お師匠様からいただいたものですから……」


 愛おしそうな表情で髪留めを触るフィリーネ。今もずっと大事にしてくれていると思うと、とても嬉しい気持ちになった。


 ただ、魔法学園の教師であり、宮廷魔術師の彼女に釣り合っていない気がしてしまう。


「ありがとうございます。嬉しいです」

「あはははっ……それでは行きましょうか!!」


 スペルは、ずんずんと早歩きで先に進むフィリーネの後を追った。





「まずはどちらに行かれるんですか?」

「お師匠様、カフェに行きましょう」


 二人は数分程歩いた場所にある落ち着いた雰囲気の店構えのカフェに入った。


 店内もシックな造りで、余裕を持った客席を設けられていることもあり、ゆったりと過ごせそうだ。


「ここのチョコクロワッサンが凄く美味しんですよ」

「それは楽しみですね」


 フィリーネが嬉しそうに語る。


「おまたせしました。チョコクロワッサンとアイスコーヒーです」


 数分後、お目当てのパンがやってくる。オシャレなデザインの皿にちょこんと乗ったクロワッサンが可愛らしい。


「いただきましょうか」

「えぇ」


 クロワッサンを口に含むと、サクッと小気味の良い音が口の中から伝わり、その内側からもちっとした触感が現れ、最後のチョコの苦みと甘みが口いっぱいに広がる。


 これは人気が出るのも頷ける味だ。


「んふふ~」


 フィリーネもご満悦といった表情で小動物のように頬張っている。その顔は昔宿屋でグレイの料理を食べていた頃と同じだった。


 その顔を見ているだけでなんだか幸せな気持ちになる。


 ただ、そそっかしいのは今も治っていないようで、ほっぺたにチョコを付けている。


「ほら、付いてますよ」

「!?」


 ナプキンで彼女の頬を拭ってあげると、恥ずかしそうに俯いてしまった。


 あぁ、そうか。フィリーネはもう子供じゃない。それなのに、保護者面して勝手に頬を拭いてしまうなんて、彼女が恥ずかしくなるのも当然だろう。


「すみません、つい昔の癖で」

「い、いえ、全然大丈夫ですから!! むしろご褒美です!!」

「え?」


 ご褒美?


「あっ、な、なんでもありませんっ!! とにかく大丈夫ですから!!」


 何か聞こえてきた気がしたが、どうやら聞き間違いだったらしい。


 とにかくフィリーネが気分を害したわけじゃないようなので安心した。


「次はどこに行きますか?」


 カフェを出たスペルたちは町を歩く。


「小腹も満たされたので街を散策しましょう」

「分かりました」


 二人は露店の多い、市場の方に向かい、色々見て回る。


 一人で見た時とは違い、誰かと一緒に回ると、また違った発見があって面白かった。


「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」

「はい」


 フィリーネが先導して次の場所へ。


「ううっ、良いお話でした」

「面白かったですね」


 劇場でお芝居を見たり。


「いかがですか?」

「あぁ、そういう服も似合いそうですね」

「買います!!」


 オーダーメイドの服飾店を回ったり。


「これが今の魔道具です」

「なるほど」


 魔道具店を見て回ったりした。


 魔力を使用することで魔法使いじゃない一般人でも魔法に似た現象を起こすことができる道具を魔道具と呼ぶ。


 火を起こしたり、水を出したり、用途は様々。


 自分で作った魔道具は持っているが、一般的に普及している魔道具を見たことがなかったのでとても参考になった。


「今日はお付き合いいただいてありがとうございました」


 もうすぐ日が暮れそうな時間まで街を回り、そろそろ学園に帰ることに。


「あまり買わなかったみたいですが、良かったんですか?」

「えぇ、気に入る物があまりなかったので。それに楽しかったので全然問題ありません」

「そうですか。それならいいんですが」


 荷物持ちの役目を果たすことができなかったが、楽しかったのなら良しとしよう。


「ん? 先生?」

「ユイじゃないですか。奇遇ですね」


 帰り道の途中、ユイとばったり出くわした。


「うん、先生は今日はどうしたの?」

「あぁ、今日はフィリの買い物に付き合っていたんです」

「フィリ?」


 スペルの言葉を聞いたユイが少し眉を顰める。


 そういえば、二人は初対面。


「私が昔面倒を見ていた子です」

「フィリーネ・ブランシュと申します。よろしくお願いしますね」


 スペルが促すと、フィリーネはスペルの腕に抱き着いて自己紹介をする。


 腕に成長したフィリーネの胸が当たる。女性らしく成長していることに感動を覚えた。


「あぁっ!? 私はユイ、よろしくっ!!」


 なぜかユイが対抗してスペルの反対の腕を取る。


 二人は笑顔なのに眉間に皺が寄っている。なんだかお互いの間に火花が散っているように見えるのは気のせいだろうか。


 まるでドラゴンとフェンリルが相対している構図みたいだ


「こらこら、二人とも。せっかくの可愛い顔が台無しですよ。仲良くしてください」

「「はーい」」


 何が原因か分からないが、腕をほどいて頭を撫でると二人は大人しくなった。


「あっ、そういえば、グリフォンの件、調査が済んだって言ってたわよ。学園にも連絡が行くと思うけど、ギルドに寄ってみたら?」


 思い出したようにユイが告げる。


「分かりました。ちょうど通り道ですから寄ってみましょうかね」

「うん。じゃあ、私はこれで」

「ありがとうございます。これから依頼ですか?」


 街の外に向かおうとするユイに声を掛けた。


「うん、ちょっと遠出しなきゃならないの」


 ユイは立ち止り、振り返る。


「そうですか。気を付けてくださいね」

「ありがとう。それじゃっ!!」


 スペルの言葉を聞いたユイは、嬉しそうに手を振って去っていった。


「まさかお師匠様が拳聖と知り合いだったとは思いませんでした」

「あの子も昔世話をしていた時期があるんですよ」

「道理で強いと思いました。お師匠様が指導されたのなら当然ですね」


 スペルの話を聞いたフィリーネは、うんうんと納得顔で頷く。


「強くなったのは全てあの子の努力の結果ですよ」

「お師匠様はもっと自分の力を自覚したほうがいいと思います」

「それはなかなか難しいですね」


 呆れるフィリーネにスペルは肩を竦めて苦笑するしかなかった。


 信じてきたものが勘違いだったと証明されたところで、これまでの思いがすぐに消え去るわけじゃない。


 劣等感もその一つだ。


「それでは申し訳ありませんが、ハンターギルドに寄って帰ってもいいですか?」

「勿論です」


 スペルとフィリーネはハンターギルドへと向かった。

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