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第017話 新しい教え子

「そういうことでしたか……」

「ううっ……うっうっ……」


 少女は堰を切ったように自分のこれまでのことを語った。


 現場を見られたことで隠しても無駄だと思ったのと、誰かにずっと話したいと思っていたのかもしれない。


 スペルはその頭をポンポンと優しく撫でる。


 彼女の名前はシャノン。貴族の家の生まれだけど、当主がメイドに産ませた子らしい。


 それだけでも正室や側室からの扱いがひどいのに、魔法を使えないことで使用人たちからもひどい扱いを受けていたようだ。


 扱いに違いはあれど、魔法を使えない者に対して厳しいのは、どこの貴族でも変わりないらしい。


 彼女の家は体裁を整えるため、金に飽かせてこの学園に入れたそうだ。


 自分も過去に同じ経験をしているから少女の気持ちは痛いほど分かる。


 いくら努力しても報われず、周りから蔑まれ、冷遇され続けるのは本当に辛い。自分なんて生きる価値がない、そう思わされる。


 少女の顔には諦観が浮かんでいた。あまり猶予はないように思われる。


 スペルにはグレイやノーラが居た。魔法なんか使えなくても受け入れてくれる優しい人たちが。彼らが居たからこそ、スペルは立ち直って今まで生きることができた。


 シャノンにはそういう存在がいないように見える。このままではこの子は遠からず世を儚んでしまうかもしれない。


 その前になんとかしたい。


「私はスペルと申します。最近この学園に来まして、魔法の実技指導をすることになりました。よければ、私の指導を受けてみませんか?」


 気づけば、スペルはそう提案していた。


「でも、私には才能なんて……」

「私も落ちこぼれと言われて幼い頃に家を追放されました」


 自分の才能を悲観するシャノンに、スペルは自分の過去を語り始める。


「え……」


 俯いたままだったシャノンが驚いたように顔を上げた。


「幸い親切な方に拾われて生き延びることができましたが、幼い頃の私は魔力もほとんどなく、本当に初級の魔法すら碌に使えない落ちこぼれで家族に蔑まれていました。そして、いくら努力しても彼らの言う普通の魔法使いになれず、自分が落ちこぼれだとずっと思ってきました」


 スペルはシャノンに背を向けてゆっくりと歩く。


「でも、それは間違いでした。数十年努力し続けた結果、落ちこぼれと言われた私でもこの学園で魔法の実技指導を担当できるくらい魔法を使えるようになっていたんです。一度騙されたと思って私に指導させていただけませんか?」


 そして、二メートルほど離れたところで振り返った。


「……」

「勿論必ず成功するとは言えませんが、失敗した時は私がその責任を取りましょう」


 スペルは自信ありげに胸を叩いた。


 どうしようもなければ、彼女をノーラやグレイに預けるのも一つの手だ。あの二人なら暖かく迎え入れてくれるだろう。


 詳しいことは分からないが、学園長辺りに相談すればどうにかなる気がする。


「え!?」


 ただ、その提案をした直後、シャノンが酷く狼狽した。


「どうかしましたか?」

「あ、いえ……私とスペル先生では歳が随分と離れてますし……それに、殿方とは一度も触れ合ったことも……でもちょっとかっこいいかも……」


 話しかけても俯いて何かブツブツと言っているだけで返事がない。


「あの~」

「え、あ、ひゃい!?」


 もう一度声を掛けると、シャノンは体をビクリと震わせた。


 どこか具合でも悪いのかもしれない。


「大丈夫ですか?」

「は、はい、大丈夫です」


 どうやら気のせいだったらしい。


「良かった。それでいかがでしょうか?」

「そ、そうですね……ご指導、お願いしてもいいですか?」

「勿論です。あ、ただ、一点だけお願いがあるのですが……」

「ひゃ、ひゃい、覚悟はできてます!!」


 スペルが言い忘れていたことを付け加えようとすると、シャノンはどこか覚悟を決めた顔をする。


 本当に大丈夫だろうか。


 信じてもらえるか少し心配になってきたが、今更言葉をひっこめることはできない。


「えっと、よく分かりませんが、私には魔法の常識がありません。もしかしたら、今の常識では考えられないような指導をするかもしれません。ただ、騙すような意図は一切ないので、そこだけ分かっていただけると助かります」

「え、あっ、そういうことですか……」


 説明を終えると、シャノンの顔がきょとんとした表情になる。


「何か?」

「い、いえ、なんでもありません……」


 何か言いたいのかと思ったが、そうじゃないようなのでこのまま話を進める。


「それでは早速ですが、シャノンさんに毎日やっていただきたいことがあります」

「な、なんでしょうか」


 シャノンはなぜか身構える。


 それほど肩に力を入れるような大したことではないんだが。


「それは、マナ草を煎じたお茶を飲むこと、マジックアップキノコを食すこと、魔力吸引呼吸法による瞑想を行うこと、そして最後に、魔力ポーションを飲みながら何度も魔力を使い切ること、です」


 これは私が魔法を教わってからずっと続けていることだ。兄姉たちからこれらを行うことで魔力が上がると教わった。


 彼らは嘘を教えたつもりだったのだろうが、結果的に今の私がある。


 もしかしたら一つ一つは本当に意味のない行為なのかもしれない。しかし、全て合わせることによって相乗効果が生まれて魔力が増えたんじゃないかと考えている。


「それってどれも過去に失敗した魔力を増やす方法ですよね? 魔力は成長期に自然に増える分以外は増えないと言うのが定説のはずです」


 やはりスペルの思った通りだ。兄姉は嘘を教えていたのだろう。


「そこで私がさっき言ったことを思い出してください」

「あっ……」


 シャノンはハッとした表情になる。


「そうです。私には魔法の常識がありません。でも、私は幼い頃、ほとんど魔力はありませんでした。でも現在は、身体強化を一生続けられるだけの魔力と魔力回復力があります」


 このくらい増えるのが普通だと思っていたからさっきまで気にも留めなかったが、シャノンの話を聞いて普通じゃないことに気づいた。


「ありえません。成長期の魔力成長はそれほど大きくないはずです」

「それが今の常識なのかもしれませんが、私は実際に増えました。だから、シャノンさんには一度試していただきたいのです。勿論費用は私が負担します」

「なるほど。早速やってみますっ」


 シャノンは納得した様子で頷いた。

 

 ある意味実験も兼ねているので、彼女に掛かる費用は全てスペルが負担するつもりだ。


「これからよろしくお願いします。もし何かあったら教員寮に来てください。私はそこに住んでいますから」

「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」


 シャノンは深々と頭を下げた。


 スペルは、彼女に念のため守護魔法を掛けた後、寮の自室へと戻った。

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