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第016話 棚からぼたもち

「グリフォンですが、どうかしましたか?」


 初級魔法一発で倒せる程度のモンスター。そんなに驚くほどのことはないと思う。


「グリフォンと言えば、Sランクに相当するモンスター。ドラゴン同様に滅多に見られるモンスターではありません。もし出現したら、高位ランクのハンターや騎士団、そして宮廷魔術師から討伐隊を出すレベルのモンスターです」

「そ、そうなんですか!?」


 しかし、またもやスペルの常識がズレているという事実が発覚。グリフォンがそんなに強いモンスターだったとは思いもしなかった。


 先程からズレたことばかり言ってしまって申し訳なくなってくる。


「はい。それから、その渦みたいな魔法はなんなのですか?」


 この流れだと嫌な予感しかしない。


「アイテムを沢山収納できる空間を作り出す魔法なんですけど……」

「そんな魔法はおとぎ話でしか聞いたことがありません。空間を操る魔法を使える人物は現実には一人もいないはずです。あなたを除いて」

「収納魔法もでしたか……」


 やっぱり収納魔法も普通は使えないらしい。


 兄姉たちがいったいどれほど嘘ばかりの常識をスペルに教えたのか見当もつかない。ほぼ全て嘘だったと言う方が正しいかもしれない。


 これだけ齟齬が出てくると時は一刻を争う。


『すぐに信じられなくても大丈夫です。その内、否応なく知ることになりますから』


 脳裏にフィリーネの言葉がよぎる。


 あの言葉はこういう事態を指していたのかもしれない。まさか本当にその言葉通りになるとは思わなかった。


「ちなみにそのグリフォンはいつどこで討伐されたのですか?」


 Sランクのモンスターは街一つを滅ぼすような恐ろしい存在だと説明を受けた。


 それは一種の災害も同じ。


 ハンターギルドとしてその動向は極力把握しておく必要があるということだろう。


「そうですね、約一週間前にグランレストの東にある森で討伐しました」

「その割にはつい先ほど倒したように新鮮な状態ですが……」


 その原因は簡単にできる。


「この魔法で中に入れた物は時の流れが止まるんですよ」

「やはりその収納魔法は常軌を逸していますね」

「そ、そうですか……?」


 また異常性を指摘され、困惑するしかない。


「はい。魔法使いが全員その魔法を使えたら新鮮な食材がより安価に食べられるようになるでしょうし、新鮮じゃないと使えない薬草もどこにでも運べるようになるでしょう。生活が劇的に変化します」

「それは確かに」


 言われてみれば、サーシャの言う通りだ。


 王都は内陸にあって海ははるか遠く。買い物のために商業区を巡ったが、新鮮な魚介類は少なく、冷凍品か加工品ばかりだった。


 しかもべらぼうに高い。それだけ輸送費がかかっているということ。


 普通の魔法使いが全員収納魔法を使えるのなら、もっと新鮮な魚介類が王都にあってもおかしくないし、もっと安く流通しているはずだ。


 ずっとグランレストに居たスペルは全く気づかなかった。


「少々お待ちください。最近グリフォンに襲われた村や街がありましたね?」


 サーシャが受付嬢に話を振る。


「はい。八日前に王都の西、二百キロほど離れた辺りでいくつかの村や街の被害が発生し、討伐隊が派遣される予定でした」

「最近の状況は?」

「偵察隊によると、急に姿が見えなくなったとのこと」

「合致しますね」


 二人の会話を聞いていると話が見えてくる。


「私が倒したグリフォンがその個体だったと?」

「おそらくは。誠に申し訳ございませんが、グリフォンの死体をお預かりしてもよろしいでしょうか?」

「それは勿論です」


 村や街を襲った個体だったかどうか確認するためだろう。当然協力させてもらう。


「ありがとうございます。勿論所有権はスペル様にありますので、無断でどこかに引き渡すことはございません。ご安心を。それからこれからの調査次第ですが、承認されれば、災害モンスターの討伐報酬が支払われることになると思います。まだ確実ではありませんが、いち早く被害を食い止めていただき、ありがとうございました」

「いえいえそんな。たまたま遭遇して倒しただけですので……」


 スペルとしては日課の修業の最中に偶然グリフォンを見つけ、成長を確認するために討伐したに過ぎない。


 それなのに、こんなに感謝されてしまうと恐縮してしまう。


「流石先生ね。あっという間に事件を解決してしまう。昔からそうだった」


 話を聞いていたユイが誇らしげに笑った。


「そうですか?」

「そうよ。だからこそグランレストはどこの街よりも平和だったわ」

「身に覚えがありませんが……」

「そうでしょうね、先生にとっては全て些細なことだもの」

 

 スペルが困惑していると、ユイは呆れたように肩を竦める。


 解せぬ。


「ひとまずグリフォンを倉庫まで運んでいただいてもよろしいですか?」

「分かりました」


 スペルはサーシャに案内され、倉庫にグリフォンを取り出した。


「ありがとうございました」

「いえ」

「結果は追ってご連絡いたしますね」

「分かりました。調査が終わったら解体をお願いできますか?」

「かしこまりました」


 その後、細々とした手続きを終え、ようやくハンターギルドから解放された。


「美味しい~」

「それは良かった」


 ハンターギルドを後にしたスペルは、ユイとスイーツのお店に寄った後、学園へと戻る。


「すっかり遅くなってしまいましたね」


 もうそろそろ日も暮れるころ。


 買ってきたものを開封したり、実家から持ってきた物を出したりしなければならない。


「お疲れ様です」

「お疲れ様です」


 学園の門を潜り抜け、教員用の寮を目指して歩く。


「いつまで無能のお前がこの学園にいるつもりだ?」

「そうだそうだ、さっさと辞めちまえ!!」


 しかし、その途中で校舎の裏の方から悪意ある言葉が聞こえてきた。


 声がした方に向かうと、学園の制服を着た女の子が、複数の生徒に取り囲まれているのが見える。


「そこで何をしているんですか?」


 只事ではないと思い、スペルは声を掛けた。


「ちっ、お前たち、行くぞ」

「あ、待ってください」


 女の子を取り囲んでいた生徒たちが逃げるように去っていく。


「大丈夫ですか?」

「あ、はい……ありがとうございました」


 スペルが近づくと、女の子は頭を下げた。


「いえ。それよりもどうしてあの生徒たち囲まれていたんですか?」

「それは……」


 気になって尋ねると、少女は言い淀んだ。


 初対面なのに少し踏み込みすぎたか。


「申し訳ありません。言いたくなければ言わなくて構いませんよ」

「……わ、私が落ちこぼれだからです。簡単な魔法も発動できないから……」


 しかし、女の子は俯き、絞り出すような声で呟く。そして、地面にポツリポツリとシミを使った。


 その告白を聞いた瞬間、スペルは過去の自分とその女の子を重ねた。



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