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第014話 いいえ、私は魔法使いです

「あなたがギルドマスターなんですか?」


 ギルドマスターと呼ばれた女性は、フィリーネやユイとそう歳の変わらなさそうな女性だった。


 水色の髪を後ろで結い上げていて、全てを見透かしそうな深い青色の瞳を持つ、キリリとした面立ちの美人だ。


「はい。私はこの王都のハンターギルドのギルドマスターをしているサーシャ・グリムワルドと申します。以後お見知りおきを」

「これはご丁寧に。スペルと申します。こちらこそよろしくお願いします」

「それでは、早速ですが、訓練場へご案内しますね」

「よろしくお願いします」


 挨拶を交わした後、サーシャの先導に従ってギルドの訓練場へとやってきた。運動場のように広い魔法学園の訓練場とは違い、闘技場のような造りになっている。


 なぜか、観客席にぞくぞくと人が入ってきていた。ただのハンター登録ための試験なのに、なんでそんなに沢山の人が集まってくるのだろうか。


 スペルにはよく分からなかった。


 一番見やすい位置にユイが陣取っている。


「武器は何をお使いになりますか?」

「何も使いません」

「あなたも格闘術を?」

「見様見真似ですが」

「分かりました」


 魔法使いは近接戦闘ができなければ一人前にはなれない。突然敵に襲われても自力で撃退できないようでは困る。


 サーシャの手には細身の剣が握られていた。それが彼女の武器なのだろう。


 スペルとサーシャは訓練場の真ん中で十メートル程の距離を開けて対峙した。


「それでは参ります」

「はい、いつでもどうぞ」


 お互い構えを取る。


「はっ!!」


 サーシャが鋭い突きを放った。


 凄まじい速度の突きだ。当たればひとたまりもないだろう。どうやら彼女も身体強化魔法が優れた魔法使いらしい。ただ、ユイより若干遅い。このくらいならどうってことない。


 スペルはその突きをやすやすと回避する。


「お前、今の躱せるか?」

「無理に決まってるだろ」

「やっぱりただ者じゃなかった」

「隙があるように見せてるのもずるい」


 観客席が静かに騒めき始める。


「!? はぁああっ!!」


 サーシャは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに多段突きを放つ。しかし、スペルはその突き全てを紙一重で避けた。


「今度はこちらからいきますよ」


 攻撃後に出来た隙をついてスペルが攻勢に転じる。


「やぁああああっ」


 サーシャが体勢を崩したまま、突きを連発。しかし、苦し紛れの攻撃ではスペルを止められなかった。


 スペルはその突きを掻い潜って距離を詰め、間合いに入ったところで正拳突きを放つ。


「くっ」


 サーシャは困惑した表情を浮かべながら剣を盾代わりにして攻撃を受ける。


 ――ガキィイイイインッ


 その結果、まるで固い金属同士がぶつかり合ったような音が響き渡った。


「おいおい、どうなってんだ?」

「生身でギルドマスターを圧倒しているぞ」

「ここからでも動きがほとんど見えねぇ」


 観客席のどよめきが大きくなっていく。


「ふぅ……まさかこれ程とは思いもしませんでした。これでは如何ですか?」


 ――ビュオオオオッ


 サーシャが距離を取り、剣を儀式のように立てると、彼女の周りに風が吹き荒れる。


「はっ!!」


 彼女が地面を蹴ると、先ほどよりも速度が格段に上がり、突きの鋭さも増した。彼女自身が暴風になったかのようだ。


 風の魔法を纏うことで自身の速度を上げ、武器に纏わせることで威力を上げている。彼女もまた無詠唱魔法の使い手だったらしい。


「遅いですよ」


 しかし、それでもスペルには届かなかった。その突きを紙一重で交わす。


「ギルドマスターのあの技まで駄目なんてどうなってんだよ」

「あのおっさん、マジで何もんだ!?」

「化け物かよ!!」


 観客席は騒然となった。


「仕方ありません。これは使いたくなかったのですが、いきますよ。はぁああああああああっ、サイクロンスラスト!!」


 サーシャは神妙な面持ちになった後、風魔法を剣に集約し、突きを放つと、風の魔力を帯びた刺突が剣の先から放出され、スペルに向かって飛んでいく。


 飛ぶ刺突だ。


「ふんっ!!」


 だが、スペルはその衝撃波を片手でなんなく弾き飛ばして距離を詰めた。


 大技の後ということもあり、サーシャの隙が大きく一気に懐に入りこむ。


「これで終わりです。はっ」

「くっ」


 サーシャはスペルが放った拳を防ごうと、再び剣を盾にした。


 ――パリィイイイインッ


 しかし、今度はスペルの拳は防ぐことができず、剣ごと砕け散る。


「え?」


 サーシャは間抜けな顔を晒して動きを止めた。しかし、スペルの拳はそのまま突き進み、サーシャの顔をギリギリのところで止まった。


 ――ゴォオオオオオオオッ


 拳圧によって暴風が巻き起こり、サーシャの髪がバサバサとたなびく。


「いかがですか?」

「……降参です。まさか拳で剣を折られるとは思いませんでした。合格とします」

「ありがとうございます」


 風が治ったところで尋ねると、サーシャは両手を上げて敗北を認めた。


『うぉおおおおおおおおっ』


 その瞬間、観客たちが沸いた。


「素晴らしい格闘術ですね」


 周りに歓声が満ちる中、サーシャが少し表情を崩して尋ねる。


「ありがとうございます」

「こんなに強い格闘家をハンターとして迎えられることを大変嬉しく思います。ようこそハンターギルドへ」


 スペルが頭を下げると、サーシャがニッコリと笑った。


 何か勘違いしているようだ。


「いいえ、私は魔法使いですが?」


 スペルは壊れたサーシャの剣を無属性魔法リペアで修復させながら答えた。


「え?」


 スペルの返事を聞いたサーシャは彫像のように固まった。

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