第8話 終わりの星 弐
戦闘開始から数時間―――
「周りこめ!体力を削れ!殺すなよ!」
「「「「「イエッサー」」」」」
襲撃者たちは僕の周りを囲んだ。見た感じ、統率が取れてる。隙があればと思ったんだが無理そうだな…。甘かったか?
思考を回転させながら、腰を落とす。刀に魔力を込めて居合の体勢。
「剣聖流抜刀術:半月斬り」
魔力により爆発的な速度で繰り出された刀が1人の首に向かって飛んだ。しかし、相手の右手によって防がれる。
すぐさま、後ろから別の相手からナイフの刺突が僕の心臓に向かって繰り出される。アルスは下にしゃがみ、避ける。そのまま下からブレイクダンスのように、蹴りを叩きつける。防がれる。
右と左からも襲撃者が近づいてくる。手で地面を押し、上に飛んでよける。手元で【異空間】の魔法陣を描き、今の刀をしまいナイフを両手に出す。
地面に落ちる前に、右と左から攻撃していた人に向かって投げる。アルスは確信する、避けれるわけがない。相手は攻撃モーションから防御モーションに変える時間がないからだ。
しかし、当たることはなかった。
「『守れ』【魔法の盾】」
「また、お前かっ!」
僕は着地し、弾かれたナイフを回収して収納して距離をとる。そして声を荒らげる。そう、何度も防がれるのだ。奥にいるあの男を睨みつける。はじめに話しかけてきたやつだ。あいつの魔法でここぞというタイミングで放ったものが防がれる。
まじで、あいつ!!魔法の使い方がうますぎる!うざすぎる!!クソがぁ!
「イケメンの顔が崩れていますよ」
「そりゃ、どうも!!」
再び刀を手に走りだす。鋭い斬撃を何度も素早く繰り返す。男は攻撃をすべて防いでくる。攻撃しながらアルスはさらに頭の回転速度をあげて考える。
(何がおかしい。僕を捕まえるのが目的なのは話の流れでわかるし、戦力が均衡して今の状況なのもわかる。なのに――違和感がぬぐえない。なんだ?気付かないとやばい気がする)
「やはり予想どうりだ…」
「なにっ…がだよっ!」
相手の突然の呟きに、攻撃中のアルスは聞く。相手は、自慢気に話す。
「あなたの《《弱点》》ですよ」
「………ッ!」
アルスは結界に攻撃を放つと同時に、後ろに下がり距離をとる。そして辺りを警戒しつつ質問する。
「面白い!……面白くはないか。それは?」
「年が足りないことですよ」
「?」
なに当たり前のことを言っているんだろう?我、明日十歳の誕生日じゃぞ?
「なに当たり前のことを言っているんだ?…という顔をしていますね。仕方がない…教えて上げましょう。教えても何も変わらないですし…」
「えいっ!」
なんかイラッときたのでナイフを投げる。やはり防がれる。
「話してる途中でしょが!ったく、これだからガキは嫌いなんだっ!あなたの弱点その一、まだ《《属性魔法が使えない》》。故に、長距離攻撃手段がこんなナイフ投げしかない。」
男は手元で投げたナイフをくるくるさせる。次の瞬間、コチラに向かってナイフをすさまじい速度で投擲してくる。
僕は刀でそれを弾き飛ばし、収納する。それを見た男は、拍手してくる。
「見事です。しかし、わかったでしょう?二つ目の弱点が?」
「あぁ…、僕には《《防御魔法》》がない」
「正解!一回一回避けるか、弾くなりしなければならない。すると、攻撃回数が限られてしまいますからね〜。頭がいいですね〜」
イラッ、としたのでもっかいナイフを投げておく。当然、防がれる。
「話してる途中でしょがっ!こんなんなら、3つ目は内緒だな〜…っ!おい!投げんなってんだよ!」
「ちっ、死んどけよ…」
投げても無駄なのは分かっていても、投げたくなってしまう。恐ろしい魔法なのかもしれない…。
男は頭を掻きむしった後、話し出す。
「野蛮なガキだ…。これは限定的だが、3つ目は《《リーチが足りない》》。なぜか分かるかな?」
「背が足りない」
「正解!【身体強化】で足りない力は補えても、身長は補えない。狭いところではいいが、こんな広いところでは不利だ。長距離攻撃手段がないならなおならだ。大人と同じ武器を使っても…ね。プレゼントにこれをあげよう」
拍手をしたかと思いきや、僕が投げたナイフを再びなげてくる。先ほどよりも速いが防げないほどではない。
僕は刀でナイフ弾いた。
次の瞬間、腹に痛みが走ったかと思ったら背中にも衝撃が走る。胃から晩御飯がリバースする。
遅れて、自分は話していた男に殴られ、吹き飛びされて後ろの木にぶつかったことを理解した。
殴った男は顔に薄い笑みを浮かべながら、楽しそうにスキップしながら、せき込んでいるこちら側に近づいてくる。
「ゴホッ、ゴホッ、ヴェェェ…」
「弱点4つ目〜《《重さがない》》。いくら【身体強化】を使っても体重は変わらない。だから今みたいに簡単に吹き飛ばされちゃうだよね〜」
「…ゴッホ、はぁはぁ、っ!剣聖流刀術――」
「弱点5つ目〜!」
咳き込んだ状況から回復したあと、すぐさま刀を取り出し技を男に叩き込もうとする。しかし、それを見えているはずの男の表情には焦りはなく、むしろさらに楽しそうな顔をしていた。
「《《対人経験が少ない》》。簡単なフェイクにすら引っかかる。だから、気がつけない。――今、感じてるであろう違和感に」
「…?――っ!ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
体に激痛が走る。
僕はその場にマトモに受け身もとれずに崩れ込む。先ほどの痛みとは比べものにならない。
(苦しい…、なんだよ…これぇ!!)
「苦しいでしょ?答えが欲しいかい?」
こちらを覗き込み、男が馬鹿にしたように聞いてくる。返事をする前に一方的に自慢気に話す。
「それはね!拷問魔法【地獄】と言ってね!相手に冷静な判断力を失わせ痛みを与えて、文字どうり地獄を体験させる魔法だよ!今回は、捕縛に使ったけど…!欠点としては、魔法陣の準備にめっちゃ時間と労力がかかるんだよね!――これでわかった?」
「…クソがぁ」
「くそ〜?」
男が首をかしげた。
僕は遅れながら理解した。
感じていた違和感。
どうして、捕縛に結界魔法が得意なやつを送る?
なぜ、時間をかける?
いつの間にか人が減っている。
なぜ、口が悪くなっている?
冷静になって考えれば気がついたはずだ。しかしできなかった。
後悔が胸に押し寄せる。
しかし、その後悔すら痛みで打ち消される。
「な〜にがくそだ!このクソガキがぁ!!」
男が自分の腹をおもっきり蹴飛ばす。
「ぅがっ…!」
僕は激しい衝撃と共に地面に転がり腹を上にして大の字になる。全身は今も魔法により凄まじい痛みに襲われている。漏れた吐息は白い。
季節は冬だ。
地面には雪が積もっている。
背中に感じる冷たさがそれを物語っている。
いつの間にか空は雪雲が晴れていた。
そこには沢山の星が炳然と輝いていた。
あぁ、僕はここでなにをしているんだろう?
じいちゃんが敵から逃がしてくれたのに、
敵の罠を見破れなかったどころか、負けた。
これから恐らく、僕は人質にされる。
あの人、じいちゃんの足を引っ張ることになる。
あの男は今もコチラに向かってきている。
涙がこみ上げてくる。それも激痛に消される。
そんな僕を横目に星は輝いている。
悔しいな――悔しい悔しいっ!!!
僕に星の輝きほどの――強さがあれば…
――違うのはわかってる。でも…
手を空に向けて伸ばして、手のひらの握る。
しかし、触れることはできない。
あぁ…あぁ…くそ……
星が掴めたら……
この手のひらまで――
《《堕ちればいいのに》》