第5話 少し、ずつずつ知る
「あっ、そこの飲み物とってくれる?」
「これか?」
「うん、それ!ありがとう」
全身が預けられるソファ、通称:人をダメにするソファ……いや、こっちだと『パーフェクトダメ人間製造機』っていらしい。
それに二人並びながら会話をする。
アルスはコップで水を飲みながら思う。
この名前……実に的を得ていると思うね。所詮、人類はこの悪魔パーフェクトダメ人間製造機から逃げることはできなかったようだ。
コップで水を飲んでいるカイに話しかける。
「それで?このでかいモニターを見せるためだけに呼んだのか?」
「違う違う!これから、とある映画を観てもらおうと思ってね」
隣のテーブルの上からリモコンをとり、モニターに電源をつける。薄暗い部屋の中でモニターから光が二人の顔を照らす。
画面にタイトルが流れる。ウキウキしているカイに、アルスは呆れたような声を出す。
「なにこれ」
「僕の自信作だよ」
うふふふふっ、と笑いながら続ける。
「そして、君へのお詫び……プレゼントだよ」
「ふ〜ん」
流れる映像を観ながら思う。
この世界では科学に変わるもの――魔工学も魔法と同じで発達しているらしい。
意外に思う人もいるだろう。アルスも当然驚いたが、しかし少しは納得する点があった。
(まぁ、長い時間があるのに発達しない方がおかしいんだろうな)
恐らく魔法陣も科学の結晶なんだろう。あれだ、高度に発達した科学は魔法と区別がつかないってやつだろう。
区別というか、魔法そのものになっているが。
色々あるがこの世界は、俺がいた現代に限りなく近い文明力なんだろうな。ここらへんは、ヨーロッパって感じの町だけどなんか、秘密とかあるのかな?
「………あれ?タイトル長くない?」
まだ、流れてんだけど。
「もうすぐ始まるよ」
カイは笑いながら言う。アルスはその言葉に応えて前を向き直す。
―――――――――――――――。
『これから!罪人の処刑を行う!!』
『こんなことを、していいと思ってんのか!?』
映画はラストシーンだ。捕まった悪の研究所と闇ギルドみたいな組織の幹部の処刑のシーンだ。どんどん人の名前が呼ばれ、ギロチンで処刑されていく。
うん!グロッ!
しかし、映画の盛り上がりとは対象にアルスは『パーフェクトダメ人間製造機』に体重をさらに預ける。ウキウキしているカイに、脱力したまま話しかける。
『次!ザコルー・コザコザ!!』
『嫌だっ!!研究したいだけなのに!!』
ギロチンにセットされ、落とされる。血が飛び散り、民衆から歓声が上がる。
「んで?これなに」
「自作の映画だよ、実際の映像を使ってる」
リアルでしょ!と笑うカイ。
まじかよ、道理でめっちゃグロいわけだよ。コップで水を飲み、口の渇きを潤す。
「なぁ、結局なにが――」
「あっ!見せ場だよ!見て見て!!」
顔を掴まれ、モニターの方に向けられる。まだまだ、処刑は続いている。
『研究所の処刑は全て完了だ!!続いては!闇ギルドだ!』
民衆から歓声が上がる。
……不快だな。なぜ、死を笑える。お前は被害を受けていたとしても、その死だけは喜んでもいいが笑ってはいけない。
アルスはコップの水を再び飲む。
次の瞬間、連れて来られた男にアルスは驚愕する。勢い良く起き上がる。視界がモニターにくぎ付けになる。後ろのエルフ女の顔は見えない。
『始めは!幹部!!カイだ!』
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」
後ろを振り向くことができない。顔を見ることができない。しかし、気配で動きは理解出来る。
カイは、狂気的な笑みで笑っていた。
◆◆◆◆◆少し先の未来◆◆◆◆◆
ある日の昼間。ここは中立国家のナグリウス。数ある大陸の一つを全て支配している国だ。
海洋のど真ん中に浮かんでおり、ここには様々な種族が暮らしており、市場は賑やかだ。
町の中心部には大きな建物がある。それは現代で見るような巨大ビルだ。その隣には、中世ヨーロッパ風の建物。向かいは和風の建物と変な町だ。
そのビルの最上階の一室。昼間で明るいのに、カーテンを閉め切り、電気を消し、光を遮断している。大きなテーブルを囲むように数人の男女が椅子に座っている。
なにやら、話し合っているようだ。その中の男がイラついたように叫ぶ。
「まじでっ!一番部隊のリーダー、[魔王]はいつくんだよ!!発案者だろ、あいつ!なにが『あっ、みんな〜明日ね?各リーダーはナグリウスに集合ね!遅刻厳禁だよ♪』だ、ボケッ!お前が2時間遅刻なんだよ!!!あと、四番部隊のリーダーはいつもこねーよ!!八番部隊、九番部隊は休みだしな!!」
その様子をみていた隣の中年に見える大男は、呆れたように叫ぶメガネ男に話しかける。
「落ち着いたまえよ、六番部隊リーダー、[神算しんざん]君。[魔王]がこの前、何時間遅刻した?」
「………7時間」
「それまでよりも早く来ればいいのである」
「それの二の舞になるってんだよ!!五番部隊のリーダー[剛石ごうせき]!!」
また、夕食に間に合わなくて嫁に怒られる〜、と頭を抱える[神算]と呼ばれた男の肩に手が乗せられる。振り向くと[剛石]と呼ばれた大男だった。
「大丈夫、俺も嫁に怒られるだけである」
「それが嫌だって言ってんだよ!!!」
言い合う二人の前の机の上に、二つの影が落ちる。その中からそっくりな女子の双子が現れる。違うのは髪色が赤色と水色なことぐらいだろう。赤色が笑う。
「ギャハハハッ、漫才じゃん」
「ナハハハッ、その通りだね」
続けて水色も笑う。それに[神算]が叫ぶ。
「黙れ!二番部隊リーダー[熱血ねっけつ]と三番部隊リーダー[冷血れいけつ]!!お前らに分かるのか!!!」
知らない〜、と笑いながら、周りながら席に戻っていく二人。[神算]はため息をつく。
「七番部隊リーダー[怨霊おんれい]は?いつの間にかいねぇけど、また隠れてんのか?」
「んー…トイレじゃないかな?」
「「「「――――――っ!」」」」
[拳撃]の後ろから聞こえた、女か男か分からない声にその場にいた全員が驚く。[神算]はプルプルと震えたあと、怒りを爆発させる。
「おせーよ![魔王]!!また遅刻だろが!!」
「ごめんごめん♪」
怒りを全く気にせずに[魔王]と呼ばれた者は席に座る。そして、全員が席に座る。それを確認した後、一番遅刻してきたやつが話し出す。
「それじゃ!みんなが今日は、集まってくれたことだしさ!」
「お前が遅刻したせいで遅れたであるがな」
「ギャハハハ、四、七、八、九はいないよ」
「みんな、後で来るってさ」
あいつが?珍しいな?と話し出すメンツ。[魔王]は続ける。
「彼、近くにいたらしいよ」
「なら早く来いや!」
[神算]が突っ込む。その時、扉が開き部屋に明かりが灯る。電気がつけられたようだ。全員が扉の方を向き、つけた人物を見る。
その人物は、呆れたようにため息をつく。そして話し出す。
「あのさ〜、昼間なんだし電気ぐらいつけましょうや」
「じゃあ、遅れんなや!!2時間遅刻だぞ!」
「ギャハハハ、珍しいね。君がくるなんて」
「近くにいたんでな、加盟した以上はある程度顔を出さなきゃダメだろ?後輩ちゃん♪」
そう言ってフードをとって笑いかける、四番部隊リーダー。顔をみた[冷血]は、ニヤニヤする。
「ナハハハッ……もしかして、口説いてる?ねぇ、[堕星だせい]くん?」
「あははははっ、んな訳ねぇだろ!どこをどしたらそうなるんだよ!?」
「パーティーメンバーは元気であるか?」
「え?あぁ、みんな元気すぎるくらいにね」
「[堕星]くん!それじゃ席についてくれ♪」
「了解しマングローブ」
「まんぐろーぶ……?」
気にしないで。
アルスが席に座るのを確認したあと、[魔王]は話し出す。周りの雰囲気は一変する。誰もが真剣な顔をしており、先程と同一人物とは思えない。
「まだ、集まってないけど始めちゃう?……共同体ギルド;【夜宴ナイトパレード】の定期報告会♪」
「たしかに、人足りないな?[勇者ゆうしゃ]と[爆竹ばくちく]がいないね」
「そ、そ、某はぁぁ?」
突然、上から聞こえた声に紅茶を飲む[堕星]と[魔王]以外が発信源を向く。
そこには、天井にへばりついた人間とも言えない黒い何かだった。[堕星]は、アハッと笑いながら話す。
「入り口からは見えたぞ?なぁ、[魔王]ちゃん」
「そうだね♪」
「ま、ま、まじかぁぁ」
黒い物体が机の上に落ちる。机が大きく揺れ、割れる[神算]がプルプル震えたあとに叫ぶ。
「おい![怨霊]ィィィィ!テーブルに乗るなって何度言ったら分かる!!!」
「ギガガガガ、す、す、すわるよぉ?そ、そ、そんなにぃ、カリカリせんでも――」
次の瞬間、その場の全員が目を見開いた。
部屋の天井が轟音と共に崩壊する。各自が各々のやり方でその身を守る。立ち込める土埃のなかから、その場に似つかない笑い声が響く。
「到〜着!間に〜合ったぜ!!」
「遅刻だぁぁぁ!八番部隊リーダー[爆竹]!!天井を毎回壊しやがってぇぇぇ!!!」
「お〜!久し〜ぶり![堕星]く〜ん!!生きてる〜?お〜い」
「………俺、帰っていいかな?」
イスに座ったまま、目を瞑って話しかける。足音は二つだ。こちらに近づき目を強制的に開かれる。
そこには、褐色の肌をした美人と黒い髪の包帯を巻いた少女がいた。
って近い!近いわ!!おでことおでこ、ゴッツンコしてんじゃん!
「我は久しぶりに盟友と会えたことに喜びを感じているぞい!!」
「僕もだよ、九番部隊リーダー[勇者]ちゃん。…とりあえず[爆竹]どかしてくれない?目が乾きそう」
「おい!座れや!!二人共!……なぁ[堕星]、この天井ってお前の所の[天馬]が直せるか?」
「……直せると思うけど」
「……け〜ど〜?」
「邪魔すんな、[爆竹]。けど、なんだ」
[神算]の質問に唾が悪そうな顔をする[堕星]。頭を掻きながら話す。
「今、すごーく機嫌が悪い」
「理解したのである。[堕星]が悪いパターンであるな」
「ギャハハハ、絶対そう」
「ナハハハッ、たしかに」
「まっ!あとで、頼んでみるよ。……[熱血][冷血]はあとで覚えてろ」
「「!?」」
なんで私たちだけ!?[剛石]も言ってたのに!?と二人で話し合っている。そんな様子を笑いながら[魔王]は、手を叩いて視線を集める。
「はいはい♪喧嘩は後でね?今回、みんなに集まってもらったのは定期報告会なのですが、それだけじゃないんだよ♪」
「それは〜理解〜出来る〜よ?」
そう応えたのは[爆竹]と呼ばれた女だけだった。しかし、それは皆同じだった。
「今回は〜珍しく[堕星]く〜んもいるし〜、今回でフルリーダー集結は3回目じゃ〜ん?今までの経験上〜良いことと〜悪いことが同時に起こるよね〜」
「そうだね♪よくわかっているじゃないか♪……じゃあ、どっちから聞きたい?」
[魔王]の質問に、全員が天井が壊れ、かなり開放的になっている現代的な部屋で、イスにもたれながら鼻で笑う。そして、全員が答える。
「悪い方である」
「我はいい方!」
「悪い方だろがぁ!」
「ギャハハハ、いい方!」
「ナハハハッ、悪い方!」
「いぃ〜方」
「ど、ど、どちらでもぉ」
「僕もどちらでも」
個性豊かな回答が返って来る。きょとん、となったあと[魔王]は、意地の悪い笑顔を浮かべて話す。
「悪いことは♪今回はくじ引きがあるよ」
ざわぁざわぁ、ざわぁざわぁ。
全員が騒ぎ合う。ある者は「なんで俺がくる時ばっかり、当たるのかな……」と絶望している。
いつも来ない方が悪いだ。
何故、こんなにも嫌がるのか。それは、くじ引きが国からの依頼だからである。
どの国でも、騎士団はとても強い。故に大体の問題は解決できるのだが、稀に難しく達成できないと判断された場合は、ランクの高いギルドに回ってくるんだ。
「今回は、三つあるので♪全パーティー、参加です♪内容は――」
「待て!」
話そうとする[魔王]の言葉を遮ったのは、[勇者]だった。恐る恐るといった様子で、口を開く。
「いい方は……?」
「そっちも発表しておこうか♪今回、我らが【夜宴ナイトパレード】は世界で四つ目のSランクギルドになりました♪拍手ーー」
場に流れる静寂。
拍手は上がらなかった。しばらくし、[爆竹]が明るい声で口を開く。
「へ〜、それは〜いいねぇ〜!」
「……我はそのせいで、外れが来たのだと思う」
「そうとも言える♪」
がぁぁぁぁ、と[神算]が頭をかきむしる。[堕星]はそれをみて、はっとした後、話す。
「ハゲるよ」
「……あいつの真似か?」
「――っ!!よく分かったね」
「舐めんなや、……おい[魔王]くじ引きや!」
「はいはい♪」
「はい、は1回である」
太陽はだんだん下がっていた。
――――――――――。
[堕星]と呼ばれた男が、宿に戻れたのは夕方だった。和風、といった感じの風貌をしている。
ドアを開け、靴を脱ぎ、室内の畳で寝転ぶ。そして、目を瞑って一息をつく。
(疲れたなぁ……、くじ引きの結果は最悪だったしな……しかも、失敗したら大変なやつ)
ふっと、頭が持ち上げられ畳から離れる感触がする。そして、誰の膝の上に置かれる。いわゆる、膝枕だ。目を開けて、誰かを確認する。
「……[呪医]ちゃん、なにこれ。え、俺死ぬの?」
「膝枕?二つ名、呼ぶな」
「ごめんねって、だからデコピンしないで」
意外と痛いんだよ。和風の部屋に似合わないゴスロリの格好をした、人物は小さく頷く。
「……分かったならいい」
「はいはい、……ありがとうね」
「……ん」
「ただ、呪いが解けた状態がよかったかな」
「…………ふんっ」
デコに怒りの鉄槌が降ろされる。
痛い!目がキレてる……怖っ!なんか部屋ガタガタ言ってない!?
「ごめんさない、いや〜今の姿も素晴らしいですね!もう、とても愛らしいです(ゴマすり)!!」
心を込めて謝る。
しばらくしたあと、音がなくなる。
「……ん、許す」
「あざーす」
この間、膝枕は続いている。
「……私たちが受けない依頼は?」
「受ける依頼は聞かないのか?」
「どうせ、後で知る」
「たしかにね」
「ん」
[堕星]は手を1を作る。
「1つ目、マルトカンタ大陸の東中華街の全マフィアの制圧」
「……受けなくて正解、面倒いやつ。Sランク確定。私たちのギルド、Sランク違ったはず」
「あぁ、今日Sランクに上がったって」
「……そう」
反応薄っ!驚くと思ったんだけどな、後のメンバーの反応に期待しておこう。
指を2を作る。
「2つ目、ナルヤ砂漠の厄災討伐」
「……[爆竹]ちゃん、行きそう」
「うん、行った」
「……混合パーティー?」
「正解」
……あれ?
疲れたのか、……眠い。
ゴスロリの少女は手で俺の目を閉じる。
「……疲れたなら寝る。受ける依頼は後で」
「ありがとうね……おやすみ」
「……ん」
膝枕のまま、夢の世界に落ちかける。沈みゆく意識の中で[堕星]――アルスは思う。
(あの依頼は難しいものになるだろうな)
だが、俺や[勇者]が受けるのが最適なのだろう。
だから、[魔王]や[神算]がくじ引きに細工したのだろう。じゃなきゃ、こんな最適な混合パーティーになる訳がない。
そもそも、くじ引き辞めようよ。なんでくじ引きなんだよ……。
(とりあえず、寝てから考えよう)
国からの依頼。
難易度Sランク。
異世界勇者召喚の阻止
――――――――――――――
シリアス中(当社比)に失礼します。
設定集なんですが、コンテストの文字数を超えるので、終わった後に出します!
ごめんさない!