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第4話 そこには。









「いや〜、取り乱してしまってすまないね」




「嘘だろ……お前、あんな姿を見せた後に元のキャラを戻せるとでも?」




 町での小競り合いの後、町の外れにある豪邸の庭で、俺とカイは机を挟んでイスに座った。ユニは何処かへ散歩にいった。


 カイは、机の上で腕を一人組み、楽しそうな顔をしている。




 それに対して、アルスは呆れたような顔を浮かべ、【異空間】より出した、ティーセットで紅茶を作っている。




「おぉ!いい香りがするね!なんて品種だい?」




「知らんよ。前によった村の人に貰った」




 質問にそう応える。やれやれと、言わんばかりにポーズを取るカイ。そんなのも気に留めずにアルスは、話しかける。




「ミルクはいるか?」




「頂こうかな?あと、砂糖も」




「高い」




「あれ〜?君が壊した町を直したのは〜誰でしたっけぇぇぇぇ??」




 ちっ。


 厚かましいやつだな。……とはいえ、それもまた事実なので何も言えない。カイがからかってくる。




「紅茶の淹れ方も下手くそだね」




「出さないぞ?」




「そんなに、カリカリしないでよ?また、今度淹れ方を教えてあげるよ」




「……断っとくよ」




 完成した紅茶をカイに差し出す。あの、何だったけ?最後の一滴、名前が思い出せない。まぁ、それをカイの方のコップに入れておいた。




 ささやかなプレゼントってやつだ。2人で一口飲み、ほっと息をつく。そして、本題に入る。




「それで?話ってのは?」




「そうだったね、それで?何から聞きたい?」




「この家は?」




 俺は今いる庭を見渡す。足元に広がる芝生に、少し遠くにある庭師が整えたであろう木々。水が噴き出す噴水まである。


 カイはニマニマしながら応える。




「買ったんだよ、依頼を受けてね。格安だった」




「格安ぅぅ?いわく付きか?」




「まさか?ポルターガイストが起こるだけだよ」




「アウトだろ!!」




 まじかよ、帰ろうかな?幽霊って怖いんだよな。見たことないさ。




「次に聞きたいことは?」




「何故、俺を攫おうとした」




「だよね、そこだよね」




 カイは紅茶を一口飲み、イスに体重を預ける。両手で顔を覆い、そして、その重たい口を開いた。




「依頼だったんだよ。研究所からの依頼だよ。依頼内容は簡単にいうと『神族のガキの捕獲』……つまりは、君の捕獲だったんだ」




「…………」




 そこまでは、理解している。ただいくつか分からない所があるんだ。




「その感じだと、まるで俺が神族みたいじゃないか。あいつらは、今地上には居ないはずだろ?」




 仮に俺の親が神族だったとする。それなら俺が神族というのも分かるが、なんで地上にいるんだ、って話になる。結局、俺が神族なわけないんだ。




 カイは両手を顔から外し、前かがみになりフードを被ったままの紅茶を飲むアルスを、じっと見つめる。




「……その研究所の実験内容は、人体改造だ。人間と魔物を融合させたりしている。または、古代遺跡から採取した古代種の遺伝子を現代の種族に混ぜ込んだりしている」




「――っ!……そーゆーことね」




 アルスの呟きに、カイは頷く。




(胸糞悪いな)




 人体改造……つまり、俺の親のどちらかがその古代種を混ぜ込まれた、研究所の実験体だったんだろうな。んで、逃げ出したと。




 それで、親を探したが死んでおり、変わりに俺が遺伝子を引き継いでいるとみて、捕獲し次第、実験再開……っていった感じかな?




 アルスは、空を仰ぎ脱力する。カイの座っている位置からは、顔を確認することはできない。





「……場所は?」




「早まるなよ、アルスくん。あと、殺気がダダ漏れになってる、落ち着けよ」




「落ち着けると思ってんのか?今すぐにでも、そいつらを粉々に粉砕したい気分だ」





 顔を下げたアルスはその殺気から、信じられないほどの落ち着いた声で話す。カイは、紅茶をまた一口飲む。そして、そんな様子も気にせずに続けた。





「その必要はないということだよ。君に復讐は似合わない、必要ない――闇ギルドも含めてだよ」




「……へぇ、それはどういう意味だ?」




「両方、壊滅したからだよ」




「何故?」





 アルスの殺気が、もう一段階強くなる。テーブルに展開されたティーセットは、泣いているかのように、カタカタと音を鳴らして震えている。





「僕がそう仕向けた」





 カイは宣言するように、人好きな笑みを浮かべて言う。しかし、それは、殺気を浴びていると考えると、不気味な笑みだった。





「……なぁ」




「なんだい?」





 殺気がさらに強まる。アルスの手元に置かれていたカップが、音をたてて粉々になる。





「お前は、俺が『仇がいます!でも!そいつらは、元仲間だけど、僕が殺しておきました!だから許して♡』で許すと思ってんのか?」





 アルスとカイが、座っているイス以外が崩壊する。破片が飛び散り、宙に舞う。


 破片は、銀色に光り輝いて、先端が鋭くなる。それは、カイの首元に素早く飛び急停止する。




 しかし、カイは笑みを浮かべたまま変わらない。





「舐めすぎなんだよ、俺を」




「………知ってたさ」





 カイは俯きながら小さく呟く。それは、アルスにギリギリ聞こえる程度だった。そして、自分の首元の破片を腕の一振りで木っ端微塵にする。イスから立ち上がり家に向かって歩きだす。




 座ったアルスに背を向けたまま、話しかける。アルスの位置からは顔をみることはできない。





「ついてきて。家の中に―――」





 ここで、こちらを両手を広げて振り向く。カイの顔が見える。





「――いいモノがあるからさ!」





 その顔には、狂気的な笑みしかなかった。

















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 













 蝋燭の灯が、エルフの息で揺れる。豪邸の地下に向かって、俺とカイは階段を降りていた。




 石で作成されているようだが、苔は一切ない。このことから、最近作られたものだと推測できる。




 螺旋状になっており、壁にはランタンが多くかかっていて、俺たちの進行度に比例して、明かりが灯っていく。




「……なぁ」




「ん?」




 足音だけが響く空間を、俺の声が破る。前で進んでるエルフは振り向かずに応える。




「何処に向かってる?そこに、何がある?」




「うふふふふっ、着いてからのお楽しみ……っていうやつだよ」




 そう言うと、カイは下手くそな鼻歌を歌いながら前に進む。はぁ、とため息をつきながら後ろをついていく。再び、その場を足音が支配する。




「あっ!一つ――いや、二つほど聞きたかったことがあるんだ」




「ん〜、なに〜?」




 カイは、こちらを振り向かない。そんな事を気にせずにアルスは続ける。





「一つ目、お前が使ってたやつ――[魔法陣融合]ってなんだ?俺にも使えるのか?」




「うん、うん。続けて♪」




「二つ目、お前が戦闘に叫んでた……『幻想ディザイアーファンタジー』ってなんだ?」





 なんだ、なんだ、ばっかだね〜!とカイは楽しそうに階段を降りていく。あいも変わらず、なんか、いらっとするやつだな。


 カイは、少し悩んだ後話しかける。




「1つ目の回答から、いこうか。……アルスくん、そもそも魔法陣と属性魔法の違いってなんだと思う?」




「……魔言を使うか、魔法陣を描くかの違いか?」




「違う、違うよ!そんな単純じゃない」




 話しているので、かなりの時間が経っているはずだが、階段の終わりはまだ見えない。




「魔法陣はね、属性魔法が使えない人達……通称『開拓者』たちによって発見されたんだ。昔は、『無能者』なんて呼ばれたみたいだけどね」




「ほーん」




「それでね、『開拓者』たちは属性魔法を使える人達を羨ましく思った。それで、『あっ!使えないのなら、自分たちで使えるものを探せばいいじゃん!』って、なったらしいだ」




 え?前向き過ぎない?




「で、属性魔法の発生時にね、空間が少し歪むのを見つけてそれを、文字にして図形にして再現したのが、魔法陣なんだ」




「ほーん」




「勿論、完全再現とはいかなかった。それでも人によって使える属性は違うし、威力もかなり下がった。……但し、『開拓者』たちは全部の魔法陣を使えるよ」




 それは『開拓者』たちに、とっては成功なんじゃないかな?知らんけど。




「つまり、魔法陣ってのは『空間の歪み』なんだよ。ここで、アルスくんに質問だ〜!」




「ん?なんだ?」




「僕の属性はなんでしょう!」




「……結界か?」




 惜しい!、うふふふふっ、と上品にカイは笑う。階段の終わりはまだ見えない。




「正解は……空間さ!」




「うん、絶対に便利」




 え?強そう(小並感)。絶対にズルじゃんか!


 顔は見えないが、背中の動きから苦笑しているのが分かる。




「そこまで、便利なものじゃないよ。色々ね、制約はあるさ、それで、属性がなんで[魔法陣融合]に関係してくると思う?」




「………空間の歪みか!」




「そう!普通に属性魔法を使う時のイメージ――通称『正転』、僕の場合は〘空間の凝縮〙さ!それを応用して、魔法陣の空間の歪みと歪みを一つにする……それが[魔法陣融合]だよ。それによって、威力も上がる。魔法陣の威力が3で属性魔法が9だとすると、[魔法陣融合]なら3✕3=9で属性魔法と同じ威力が出せる」




 へ〜、『正転』なんてもの初めて聞いたな。〘空間の凝縮〙ねぇ……じゃあ、俺はどんなのだろう?


 ………あれ?って、ことはさぁ。




「もしかして、俺って[魔法陣融合]使えない?」




「そうだね。[魔法陣融合]は僕の『正転』における切り札……オリジナルみたいなもんだからさ!」




 まじか〜、使えないのかよ。落ち込む俺にカイはいい笑顔で振り向く。そして両手を額縁のようにして、俺を見る。




「ア〜ルスくん。[魔法陣融合]はできなくても、近いうちに君も『正転』の切り札は出来ると思うよ。見た感じ、無意識に出来てるみたいだしさ。……無意識だから、めっちゃコスパ悪そうだけど」




「ふ〜ん……だといいな」




 適当に返事をして、再び階段を降り始める。まだ、階段の終わりは見えない。




「じゃあ!二つ目にいこうか!二つ目は――」




「……なぁ」




 二人の足が止まる。


 階段の先に扉が見えたからだ。カイは、ふっと笑ってドアノブに手を伸ばす。




「――後にしようか。ということで、いらっしゃい!アルスくん!オ〜プン!」




「―――っ!」




 そして、カイはドアを開けて一人先に入る。アルスはその場で立ち尽くしている。カイは、心配しているふうに、こちらに覗き込み、話しかけてくる。ニヤニヤが隠しきれていないようだ。




「どうしたのさぁ?早く入りなよ」




「……あぁ」




 アルスは、部屋に足を踏み入れる。その部屋は薄暗い。壁には換気扇があり、空気は十分そうだ。しかし、アルスの目先は、壁に大きく貼られたものにくぎ付けになっている。


 それこそ、アルスが部屋に入るのが遅れた理由。カイがニヤニヤする要因を作ったもの。




(この世界は、科学も発達してんのか?)




「うふふふふっ、アルスくんはこれを初めてみるのかい?」




「……そうとも言えるし、そうとも言えない」




「?」




 アルスの言葉に首を傾げるカイ。見た目が良いだけに、様になっている。


 残念美人カイを無視して、前に進みこれに触れる。手にほのかな温かみを感じる。




「まさか、これがあるとはな……」




 それは、現代でも中々見ない。




 しかし、身近なもの。







「………巨大モニター」






 


























 








 



























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