第3話 出会いたそうで、出会いたくない、でもちょっと出会いたいやつ
「では、登録の続きに入らせていただきます!」
「ええ、お願いします」
変態のパレードの後、ようやく冒険者登録の続きをできるようになった。
ちなみに、あの男の変態は兵士の詰め所に連行されていた。乱入者はいつの間にか逃げてたけど。
「紙の書類は……出来てますね!年は、12歳……魔力量はB+……多いですね。名前は……アルスさんですね!」
「はい、その通りです」
(へ〜、今の俺の魔力量そんぐらいか。かなり、へってんな)
「冒険者登録、従魔登録も共に終了です!お疲れ様でした」
「おつカレー!」
「かれー…………?」
気にしないで。
受付嬢からライセンスのような物を渡される。大きさはクレジットカードぐらいか?木の模様が描かれており、大きく『F』ランクと書かれている。
どうやらこの冒険者カードは自動更新のようで、地球でいう、クレジットカードのような役割もできる超ハイスペックなものらしい。
[冒険者ランク・F]
名前 アルス・ワード
年 12
魔力量 B+
身体能力 不明
貯金額 0
受付嬢は、カードを眺める俺に声を掛ける。
「さっそく、依頼を受けていきますか?それとも、身体能力測定をしますか?」
「いえ、買取をお願いします」
「買取ですか?」
そう、買取だ。森で狩った魔物の素材が余ってるんだ。ある程度はこっちでも使えるけど、限度がある。
しかも、金が今は無いから早く欲しい。懐が、すっからかんなんだわ!
受付嬢は俺から見て左側のカウンターを指さす。
「あちらで、できますよ」
「そうなんですね。ありがとうございます!」
「いえいえ、またの来てくださいね!」
手をふる受付嬢に振り返し、歩きだす。今は昼間だから人は少ない。すぐに、目的地につく。そこにいた、ニコニコしている男の職員に話しかける。
「魔物の素材の買取をお願いします」
「かしこまりました。素材の方をこちらに」
俺は指をさされた場所に【異空間】から素材を取り出す。取り出したのは、みんな大好きロックスネークの皮だ。それを積み重ねる。
それを、職員は観察したあとこちらを向く。
「ロックスネークですね。この量ですと……25万ゴールドになります」
「わかりました。それでお願いします」
意外と売れるもんだな。まだまだ沢山あるが、相場崩れを起こすと怖いからな。このあたりにしておこうかな?
職員に冒険者カードを渡す。職員は近くの何かに、ピッとカードを当てて俺に返す。
見てみると、
[冒険者ランク・F]
名前 アルス・ワード
年 12
魔力量 B+
身体能力 不明
貯金額 25万
貯金額が増えている。これは……面白くなりそうだね!どんどん貯金しちゃお!
「入金確認はできましたか?」
「え…、はい!」
「それでは、ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
職員は頭をペコッ、と下げる。俺はそのままギルドを出で馬小屋の前までいく。奥にいた白い馬に声をかける。
「お〜い、ユニィィィィ!宿、見つけようぜ」
「ぶるっぶるっ」
なにか、不満げにこちらに歩いてくるユニ。え?うるさい、って?うん。ごめん。
そのまま、馬小屋もでて道を二人で歩く。……待って宿、分かんないや。項垂れるアルス。
「なにかお困りかな?アルスくん」
ふっと前から声をかけられる。前を向くと、綺麗なエルフの女性がいた。服装は男ぽっいが、スタイルで女性だと分かる。……なんか、俺キモい。
正直に顔はめっちゃ、どタイプ!…………うん、この顔は…………。
「困っているけど、貴方には頼りたくないや」
「なに〜、悲しいな。泣いてしまうよ?」
「乱入者が何を言ってるんだ?」
そう、昼間の乱入者だ。あの時と違うのは、フードをかぶっていないことだろう。
あと、声の質感的に、ハーレムを作って道を防いでいたやつと同じだろう。男じゃなくて、女だったのか……。まぁ、男の格好してるけど……絶対に女子にモテるじゃん!!!
俺なんか、フードしてないと顔もマトモに合わせてくれないんだけど!?
そいつは、泣く真似をしていたが辞めて話し出す。なんか笑顔がムカつく。殴りたい。
……ん?なんでムカつくだ?タイプな顔の笑顔だぞ?人間性は知らんが……なんでだろ?
「宿を探しているのだろう?」
「わぁ、なんで知ってるの?」
「ストーカーしていただけさ☆」
お巡りさん!!!こいつです!!!!俺は警戒をしつつ、質問する。
「それで、それがどうした?」
「家に泊めてあげようと思ってさ!」
「……ユニ、行こっか?」
「ぶるっ……」
俺とユニは歩きだす。後ろのエルフが固まっている。まさか、断られるとは思ってなかったようだ。
「ちょっと待ってぇ!?」
エルフ男装女が俺とユニの道を防ぐ。しかし、脚は止めない。なにやら焦っているようだ。めっちゃ早口で話しかけてくる。
「いいの!?こんな、いいスタイルでめっちゃ美人な僕の家だよ!?2人っきりだよ!?ユニちゃんもいれれるぐらいの豪邸だよ!?」
「どんな宿がいいかな〜?ユニは?」
「ぶるっぶるっ」
ガン無視を決め込む。そしてそのまま、スタイルを強調するポーズをしているエルフ男装女の隣を通り過ぎる。ショックを受けたいる様子だが、すぐに立ち直る。
「はっ!もしやアルスくんは、女性を虐めるのが大好きな性癖を持っているのでは!?」
「違うわ!!ボケッ!!」
はっ!思わず返してしまった。こんな昼間の道のど真ん中で何を叫ぶんだ、こいつ……!
そんな俺を見えるはずなのに、何事もなかったかのように、そのまま続ける女。
「大丈夫さ、安心してくれ!僕はそういうのも大好きさ!好きなだけ言いたまえ!」
「……キモ」
「うぐっ……」
やべっ、心の底から声が漏れた。よくないな、よくない。これでは、皆から嫌われてしまうではないか!ひとまず、謝ろう。胸を押さえているエルフに話しかける。
「ごめんなさ――」
「いいよぉ!もっと言ってくれ!ハァハァ……」
……ん?
「いじめられるのが、こんなにもいいことだなんてぇ!!知らなかったよぉ!!こんな気持ちにさせてくれるのは、アルスくんだけだぁ!ハァハァ……さぁ、もっと!」
「……ユニ、走れる?」
「……ぶるっ」
「さぁ!ハァハァ……もっとぉぉぉぉ!!」
逃げろ!
捕まってはならない!
絶対に、だ。
勢いよく飛び出した僕とユニを見て、エルフはわらう。両手を前に出して叫ぶ。
「逃さないよぉ!『守れ』【障壁】ぃ!」
「………あ?」
逃げ道が塞がれる。割ろうと思えば、殴って割れる。しかし、それどころではない。頬を染めているエルフに歩み寄る。
身体から殺気が漏れ出て、辺り一帯が重たくなる。昼間なのに夜のような静けさになる。
「おい、今、なんていった」
「逃さないと――」
「違う!!」
脚を地面に叩きつける。破片が宙に舞い、静止し、銀色に光り輝く。それらすべてがエルフの方を向いている。
アルスの姿もいつの間にか、変わり、天使の輪のような王冠は銀色だ。
「魔言を聞いてんだよ!!」
「……あぁ!そういうね!」
うふふふふっ、といい笑顔で答える。
「『守れ』だよ。久しぶりだね、アルスくん」
「……手を出すなよ、ユニ」
「ぶるっ?」
臨戦態勢に移ろうとしていた、ユニを止める。ユニは不思議そうな顔をしている。それに応えるようにアルスは前を向いたまま、続ける。
「俺がやりたい。それだけだ」
「……ぶるっ」
ユニから翼が生える。そして、そのまま空へ飛び去る。それを、境目にアルスが攻撃を仕掛ける。
銀色に光り輝いていた、すべての瓦礫がエルフ男装女――元・『闇ギルド』カイへ凄まじい速度で飛翔する。正面だけでなく、全方位からだ。
「『守れ』【障壁】」
しかし、流れ星ごとき攻撃は、全方位に展開された魔法によりすべて防がれる。
「読めてんだよぉ!」
エルフの後ろ斜めより、アルスが叫ぶ。飛ばした瓦礫を目眩ましにそこまで移動したのだ。しかし、『読めた』。それは、アルスだけではなかった。
エルフがアルスの方を振り向く。いつの間にか手に握られていた、細剣がアルスの身体を切り裂く。辺り一帯に、遅れて土埃が舞う。
「ハァハァ……、くふふふっ、あぁ、やっぱりアルスくんだぁ!うふふふふっ…」
「……なぁ」
砂埃が晴れる。
そこには、エルフの両手を拘束し、馬乗りになって首にナイフを突き立てるアルスの姿があった。
下にいたエルフ男装女――カイは苦しいはずだか、嬉しそうな声を上げている。
アルスが質問をする。
「手を抜いてただろ」
「本気で戦うわけないじゃないか?僕は、きみに一生ついていくと決めたんだぁ!……とりあえず、話聞いてくれないかぁ?」
「……、殺しとくか?」
「そんな!?酷い!?……ハァハァ」
ぐぅ、と体重をかけ始めたアルスに押され、苦しそうな声を上げる。だが、どこかうれしそうだ。
アルスはため息をつきく。
「……わかった。聞いてやるよ」
「ありがとう!それじゃぁ――うぐぅ」
立ち上がりるアルス。しかし、立ち上がろうとするカイに、全体重をかけて勢いよくもう一度座る。カイが苦しそうな声を上げる。
さらに、アルスはジリジリ体重をかける。
そのまま、苦しむカイを気にせず耳元で囁く。
「聞くのはお前の家で、だ。殺してもバレにくいからな。あと――」
カイは今までに、経験したことがないほどの殺気を受ける。しかし、カイの顔を浮かんでいるのは苦しみではなく、とろけたような、狂気的な笑みだった。
「――話が納得できなきゃ殺す」
「……はぁい♡」