第一話 冒険者登録
『守護者ってのはね?対象を外敵から、その身をただ守ればいいってものじゃない。心も護る人のことをいうんだ』
――【守護】??・?????より
「通ってよっし!次のやつ!」
そんな門番の声が、朝の門に響く。
ここは、テイス王国の東部に位置する辺境の町。名前はハルゴーグという。
今こそ同盟国であるが、ランス帝国とユーデッドの森に接するげきやばな町だった。
今はユーデッドに接するだけになっているが、それでもやばいのだ。
そんな所で俺は長年門番をしている。辛い仕事だがなかなかに楽しい。掛け声で長蛇の列が動き次の奴が出てきた。
大きな純白な馬を連れた少年だった。背丈は青年と変わらないだろうが、ロングコートのフードから覗かせる顔がまだまだ幼いことを語っている。白と黒を基調し、ところどころ星が散りばめられている。
……というか、この特徴って…?
「きみ、身分証明証は?」
「それは、ないんですよ〜」
「ブルッ」
俺の問いに明るく答える少年と馬。陽気なやつだな。とはいえ、身分証明証がないやつを町に入れるわけにはいかない。例外はあるがな。
俺は少年に次のことを告げる。
「じゃあ、保証書は?」
「あぁ、使えるんですか!ありますよ」
ハイ、と隣の馬の馬鞍から紙を取り出しこちらに渡す。ありがとう、と告げて受け取った物を覗く。そして、憶測は確信へと変わる。あぁ、やはりと。
[保証書]
氏名 アルス・ワード
性別 男
功績 町の防衛
追伸 隣の馬はユニ
保障町 カスト、他17
紙から顔をあげ、少年――アルスに伝える。
「確認できた。3日間で、冒険者ギルドに登録するように!通ってよし!次のやつ!」
「ありがとう!」
「待ってくれ!」
「ん?」
隣の馬と町に入ろうとしていたアルスを呼び止める。不思議そうにこちらを見る。
「アルスさん!……俺の実家がある町を救ってくれてありがとうございました」
「……っ!」
頭を下げる俺に目を開いて驚き、苦笑する。
「気にしないで」
白い馬――ユニを連れて遠ざかっていく後ろ姿を、ぼんやりしながら眺める。
ここ1年近くで数々の町を魔物や盗賊から救い、幼いながらも(多分、年齢不詳であるから)、二つ名を持つ少年。彼に今できる最大の感謝を伝えて、俺は門番の仕事に戻るのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
やぁ!皆さん!
みんな大好き、豪快で陽気なアルスくんと、未だに性別が分からない!種族も分からない!二年ぐらいで成長しすぎじゃない?ユニちゃんです!
あれから、二年ほどが経ち12歳になりました。実は旅をするために始めにこの町、ハルゴーグにこようと思って思っておりました。
しかし、森の出口が分からずに1年近く彷徨う羽目になっちゃったんだよね。
なんか魔物も強くてさ、戦っているうちにあの時より強くなれた。ユニも成長して、でかくなっただけなく翼を隠せるようになったんだよね。
それでようやく、森をでたらこの町を目指そうとしてら所々で村とか町とかが、魔物とか盗賊に襲われてるじゃん?
まじかよ、異世界。治安悪すぎだろ。と思いつつ一応町の防衛に参加してみたりなんなりしていたら、ここに着くのにあの日から2年くらい掛かっちゃったんだよね。
まぁ、町に入るのに保証書とかいるみたいだったし、結果としては良かったよね。
「とはいえ、助けて正解だったな」
「ぶるっ♪」
隣を歩くユニに話しかけると返事を返してくれる。あの、「きゅきゅきゅ」と言っていた面影は何処へやら。めっちゃ立派な白馬になりましたね…。
多分、戻れると思うんだけど、ずっとこのままだ。戻らなくても、カッコイイからイイんだけどね。目立つけど。
「先に宿か、冒険者ギルドか…どっちにしよう?」
「ぶる…?」
う〜ん、冒険者ギルドからだな!朝はまだ宿が空いてない可能性があるし……よし!冒険者ギルドに出発だ!
「冒険者ギルドへGO!」
「ぶるっ!」
待てや、と言わんばかりに首元の部分の服を口で摘まれる。なんだよ、ユニ。俺が間違っていたことがあったと………だめだ。間違っていたことしかないわ。迷子になったの半分――いや、八割は、俺が原因だし。
「なになに、道は分かるのか?って?……ふっ、知らんよ!終わってんな!」
「ぶる……」
そうっか〜…俺、始めてこの町にくるから分かんないや。今までの町になかったし…。
「きゃ〜〜っ!」
「――!ユニッ!」
遠くから聞こえてきた女性の悲鳴に、足元の道のレンガが砕けるほど力を込めて、ユニと俺は凄まじい速度で駆け出す。
「頼む!方角はあっちだ!」
「ぶるっ!」
走りながらユニに声をかける。聞こえた方角に大きく地面から屋根の遥か上まで飛翔する。力強く答えたユニは俺の足元に魔法陣を多重に浮かばせる。
これを、町でやると大変なことになるんだ。
「『堕ちろ』【身体強化】」
フードの中で髪が伸び、目が変色する。上には天使の輪に似た王冠が浮かぶ。
魔法陣を蹴ったことによる暴力的な暴風と共に、高速で町を上を移動する。
ちなみに、町でやると後ろの家が崩壊するほどの速度になる。あと、体のアチラコチラがいかれるが《《それは問題ない》》。それよりも……
「見えた!」
あそこだ!白い屋根の大きな建物の前で、女性たちが集まっている。中心には誰がいる。近くの道に着地する。それ際、体と足元の道が壊れるが、関係ない。
人命になにかあったほうが怖いからな。
「きゃ〜!!カッコイイわ!!《《カイ》》様」
……ん?
「こっち見て〜〜!!」
「これ!受け取ってください!!」
「あはははは……君たち、ありがとう」
中心にいる人物に詰め寄る女性の群衆。中央の人物は苦笑いを浮かべている。
声からは男性か女性かの判断はできない。しかし、どうせ男なんだろうな。
……道のど真ん中でイチャつきやがって!通行の邪魔だろが(正論)!!見せつけてんのか?見せつけてんのか!?おぉ!?喧嘩なら買いますよ!?
それを少し離れた所から見る。
……もしかせんでも、問題なくね?
【身体強化】を解き、姿が元に戻る。とりあえず、フードに着いた土ぼこりを払う。このカッコイイ衣装が土塗れで誰が誰だか分からないであろう。
「ねぇ……そこの君」
「はい?」
後ろから肩を叩かれ振り向く。そこには、鉄の鎧を着込み槍を持った男たち――兵士がいた。戸惑うアルスに兵士は怒りの形相で下を指を指す。
下〜?なにがあるさ?
「町を――道を壊すな!!!」
「……………………あ」
そこには先ほどの着地の跡があった。
「スゥゥゥゥゥゥ……うわぁ!酷い有様ですね。町を破壊するやつがいるとは!それは大変だ!俺!探して来ますよ!」
「おい、ちょっ、待てよ」
キム◯ク!?
「はい?あぁ!気にしないで!お互い様ですから」
「君だろ!?これ壊したのは!?」
ちっ、バレてたか。
「逃げるしかねぇ!『堕ちろ』【身体強――」
「ぶるっ!」
「はっ!ユニ!?」
魔法を使ってこの場から逃げたそうとする俺の道を、白い馬が颯爽と止める。
「ぶるっ(行かせない)!」
「どけよ!ユニ!?だって…だって――」
「ぶるっぶるっ(逃げれると思ってんのか)!?」
「金がないんだよ!?牢獄まっしぐらだよ!?」
「ぶるっぶるっ(それでもだよ)!」
くそっ!?こんな時に限ってユニの言葉がはっきりと分かる。この正義大好きっ子め!!!
「捕まえた!!」
「はっ!しまった!」
ユニとの会話に夢中で、背後から近づいてくる兵士に気が付かず、拘束される。その時、脳裏に走る可能性。思わず、ばっ、とユニに方を見る。
「まさか……ユニ!お前!?」
「ぶるっぶるっ(罪を償いたまえ)」
「嫌だ〜!まだ死にたくない!!!」
こうして俺は、始めの大きな町で兵士たちに、詰め所という名の処刑台まで連行されるのだった。
だから、気がつかなかった。
「………っ!この声、もしかしてアルスくんか?」
これから嫌でも長い付き合いとなる、なってしまうイカレ狂人の存在に。
第二章スタート!!