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第10話 終わりの星 四











「僕の勝ちだ」



 目の色や髪の色、長さが元に戻る。頭の上に浮いていた王冠は風に吹かれた塵のように消えた。


 アルスは膝から崩れ落ちる。両手を地面につき、深呼吸を繰り返し体力を元に戻そうとする。



「スゥゥゥゥゥゥ…ハァァァァァァァ……」



 雪で冷たい地面に座りこむ。さっきの敵の結界男――カイが飛んでいった方向を向く。木々はへし折れていたり、雪は吹き飛び土俵が剥き出しになっている。



「…なんだろう?仕方がないとはいえ、うん。あれか、あれを言えばいいのかな…」



 環境破壊は楽しいぞい。


 …オッケー。冗談を言えるまでは回復できたな。片膝を手で押し、立ち上がる。しかし、ふらつきマトモに立つことができない。近くの木に寄りかかって歩く。


 足が生まれたての子鹿のように震える。足だけではなく、全身が悲鳴をあげている。


 逃げなきゃな…


 敵がくる前に避難通路まで…


 じいちゃんは強いから大丈夫…


 そう信じて避難通路のある場所まで進む。

 見えてきたタイミングだった。前の木から、いやアルスを取り囲むように周りの木の影からゲスともいえる、しかし怒りともいえる笑顔を浮かべた何者かが複数出てくる。



「カイさんはやられたけど、俺たちがいるんだぜぇ…神族のガキィ!」


「…ちっ、くそぉ…がぁ」



 そうだ、こいつらがいた。【地獄ヘル】…だけ?あのやばい魔法陣を描くために散っていったあいつの手下だ。そういえばまだ、倒せてなかったな…。

 息を吸い、瀕死の体に鞭を打つように手元に魔法陣を描く。



「魔法陣、発動【身体強――ぐはぁ」



 口から血が出てくる。頭痛や耳鳴りがする。


 なぜ?なぜ?なぜ?


 アルスの頭は疑問で埋め尽くされる。そして、1つの――1つしかない答えに辿り着く。


(なるほど…『魔力過剰オバーフロー』か…)


 魔力過剰オバーフロー


 全能に見える魔力の欠点の一つ。

 未熟な魔法使いによく見られる症状。魔法が失敗し、使われなかった魔力が体に逆流することで、体内のバランス崩れることで引き起こされる。


 要するに、魔法の失敗だ。


 それもそのはず。アルスは限界を超えている。


 慣れない長時間の戦闘。


 尋常じゃないほどの痛みによる精神の消費。


 瀕死になる程のダメージ。


 その状態で重なる魔法の使用。


 理由を挙げればきりがない。

 そのため、さっきも魔法を破る為に精密な技術が必要な刀術ではなく、力のままにふるえる体術を使ったのだ。そもそも、ここまで動けていること自体が奇跡だったのだ。


 敵――闇ギルドは突然苦しみ出したアルスに意味が分からず戸惑っているが、当の本人のアルスは意味がわかったとしても戸惑っている。



「おいおい、もう死にかけじゃないか」


「…だよ…な…」


「軽口叩いてる暇あんのか?」


「はっ、余裕…だ…わ…」


「…なんか矛盾してる気がするな?」


(うそぴょん、まじやばい…)



 魔力過多の後はしばらく魔法が使えない。魔法が使えなければ、今のアルスはただの子供同然――というより、ただの子供になる。



「ひと…つ、…聞か…せ…ろ…」


「今にも死にそうなくせにか?」


「俺を…な…ぜ…狙…う…」


「知らなかったのか?おいおい!傑作だな!」



 話していた男がゲスに笑いだす。それにつられて周りの連中も大笑いしだす。その声は森の中に響き渡るくらい大きなものだった。


 《《かなり》》時間が経った後、笑いの収まりかけた男が会話をスタートさせる。



「ひっー、はぁ…知らなかったのかよ。ぷっ、あ〜それはな、お前の親がな、ぷっははは」


(うぜぇ!だが…)


「ふぅ、お前の親の片方が実験体だからだよ」


「…冥土の…みあげで命令も教えてくれよ。あと、闇ギルドってことは…依頼者がいるだろ?そいつのことも教えてくれ」


「ふっ、教えるわけないだろ。仮にも闇ギルドだぞ」


「だよな…、信頼の問題があるもんな」


「よくわかったいるじゃないか。闇ギルドはそういう組織でな、裏の世界では有名だ」


「そっか〜、有名で凄くても組員はバカだね」


「あぁ!?」


「勿論、全員とは言わないよ。君たちだけだよ」



 あははははっ。満面の笑みで笑うアルス。


 突然のアルスの煽りに、組員たちはブチギレる。当たり前だ。スラムで孤児だった彼らを餓死の危険から救ってくれたのは闇ギルドであるからだ。

 

 でなくとも、自分の宝を汚されて怒らない人間など少ない、というかいないだろう。



「ふはははっ、だって気付かないじゃん」


「?」


「こんなガキの…君たちの真似事に」


「あぁ!?」


「よ〜く、考えよ」



 アルスは、組員に向かってゆっくり、《《普通に歩きだす》》。組員の間に衝撃が走る。笑いながら歩いている、アルスが言う。



「時間かけすぎ。あと、僕のこと舐めすぎ。ほら!魔力過剰…もう終わったよ」



 魔法陣、発動【身体強化】【人形遊び】。


 発動された魔法陣の音によって、アルスと組員たちは駆け出し、戦闘は開始された。



「あのガキっ!限界だったはずだろっ!」


「……んなわけねぇだろがっ!ボケッ!」



 嘘だ。アルスは限界を超えている状態から回復していない。魔力過剰が治っただけである。


 アルスは、回復魔法の適正がない。


 今、高速で動いているのも覚えた魔法陣【人形遊び】で自分の体を無理やり動かしているだけだ。


 しかし、組員の驚きはそれだけではない。再び魔法を発動したことだ。疲労はそのまま、つまり《《魔法の失敗率はさっきと同じ》》ということになる。


 ぞくっ。男は鳥肌をたてる。


 どうして、そんなリスクを迷いなく負える?

 成功すれば今みたいに逃げることができる。

 だが、失敗すればもっと恐ろしいことになる。


 最悪――いや、死ぬリスクの方が高い



(あいつ!死ぬのが怖くないのか!?)


「待てよっ!ガキィ!」


「ふははははっ!……こっち来んなっ!」


 大声で笑い、木から木に移り変わり、逃げ回るアルスとそれを追いかける組員たち。


 こうしてこの冬の夜、絶対に捕まってはいけない鬼ごっこが始まった。



「あははははっ!絶対、アドレナリンがドバドバ出てるわっ!――出力最大!【身体強化】&【人形遊び】ぃぃぃっ!」


「なっ!?」



 アルスは【身体強化】を使い自分を強化する。その際、髪は白く伸び、目は蒼へ。頭の上には天使の輪に似た王冠が浮き、金色に光っている。アルスのが爆発的に加速する。


 それを見た組員は驚き、血相を変える。その後、周りと視線を交わしさっきとは違う対応に出る。アルスに向かって一斉に同じ魔法を放つ。


【這い寄る炎蛇】


 追尾機能や殺傷能力が高い魔法だ。木々をくぐり抜け、アルスを捉えんと追いかける。それを視界の端に捉えたアルスの額に冷や汗が浮かぶ。



(あれは、やべぇ!どうするかな…あっ、そうだ)


「魔法陣、発動【アブラアブラ】✕5!」



 手元に魔法陣を描き、魔力が体からゴソット抜ける感覚と共に発動される。

 魔法によって生み出された油と、寸前まで迫ってきた炎蛇がぶつかる。

 普通に勝つのは炎蛇だ。当たり前だ。込められていた魔力量が違いすぎる。そして、炎蛇の蛇によって油に火が着く。

 それは轟音をあげ、壁のようになる。当然、後ろから追いかけている組員の脚は止まってしまう。



「はっ、人生なにが役立つかよく分からんな…」



 足止めできてる間に、とアルスは森を駆け出すのだった。













◆◆◆◆◆◆◆◆











 何時間走り続けたのだろう?


 吸う息が喉や肺を焼くように痛い。



「待てや!クソガキィィィィ!!」


「………………」



 アルスにはもう返事をする余裕はもうない。

 本来は動けないほど酷い怪我だが、【人形遊び】で無理やり動かしている。


 体の至る所に火傷の怪我があり、脚は無理やりに動かしている影響か青紫色になっている。


 アルスの動きが突然止まった。


 限界を超えた先の限界がきたのだ。アルスの姿が元に戻っていく。

 組員は当然のことに警戒しつつもチャンスだと思って、アルスに接近する。


あと、20メートル


「…僕は…弱いな…」


あと、15メートル


「覚醒しても…このざまだ…」


あと、10メートル


「ごめん…」


あと、5メートル


「もっと…強くなるよ」


あと、1メートル


「頼んだよ…」


「…うむ」


 何処からか返事が聞こえた。


 アルスが地面に倒れ込む。


 迫っていた組員の魔の手は《《黄金に輝く刀》》によって弾かれる。そして、現れた人物に衝撃が走る。



「――っ!剣聖じじいっ!!」


「アルスが世話になったの?」



 鬼ごっこが終わり、黄金の剣聖が到着した。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
















 魔法陣発動、【回復ヒール】✕10



「くふふふふっ!『幻想ディザイアーファンタジー』!『幻想ディザイアーファンタジー』!」



 地面に大の字になりながらを笑っていたのは、アルスと戦っていた『闇ギルド』の結界男――カイだ。


 【回復】を多重発動できる限り使い、肉体の損傷を治そうとするが、怪我は酷くすぐに治るものではない。しかし、時間をかければ全身を治すことはできる。


 もっとも、魔力が尽きなければの話ではあるが。


 それを一番理解しているのは、カイ本人だった。故に回復する部分を、生命維持に必要不可欠な部位、戦闘に必要な部位だけに限定し、魔法をかけ続けている。それでも時間はかかる。


 カイに不思議と焦りはない。何故なら、【地獄】の魔法陣を描き終われば、部下に扉の周り移動するように命令してある。

 負けるつもりなど、カイにはなかったが念の為だった。それも、もう要らぬことだが。



「まさか、神族としての力が覚醒しているとはな」



 空を見あげながら呟く。その時、カイの脳裏に依頼者からの内容がよぎる。


『基本的には生け捕り。しかし、もし神族としての力が覚醒しており、その力が制御不能と思われる場合は―――』


 カイは、はぁ〜とため息をつく。



「すぐさまの殺害が好ましい…だっけ?」



 先ほどの戦いで始めは、力が覚醒したアルスを抹殺しようと動いた。しかし、その力は強力だが制御出来るものとして従来の生け捕りにした。

 だが、カイは生け捕りにしたものを依頼者には渡さず、自分の手元に置いて置こうとした。



(アルスくんに魔法が使える余力があるとは思えないが…しかし、ハーフとはいえ神族だからな。覚醒したてで俺に勝つほどの力…まだなんかありそうだな。…まっ!俺にはもう関係ないけど)



「ひでぇ、有様だな」


「あっ、ボス―……自分の姿みてから言ってもらえます?」



 後ろからの声に顔を上げると、そこにはボス――《《カードルだった怪物》》がいた。


 体は膨張し、青紫色になっている。顔を複数ついており、見るも醜い姿になっている。



「マールド…剣聖じじいに負けたんでしょ?」


「相変わらず、賢いなお前は」


(ということは、あとは俺は逃げるだけでいいか。)


「あの研究者どもの作品ですか?見た所、魔物化して回復力を上げるようですが…戻れませんよ?あぁ!あと、俺、闇ギルドやめますわ」


「は?」



 突然のカイの引退宣言にブチギレるカードル。



「目的のものが見つかったんで」


「あぁ?あぁ…『幻想ディザイアーファンタジー』だったか?」


「そうそう!あれを見つける為にわざわざ里を抜け出して、こんな変装までして来たんだ。見つかった以上あんたに従う義務はないからね」


「……抜けることは構わない。だが掟を知ってるな?復唱してみろ」


「第一に裏切りものは許さない。第二に脱退者も許さない。この二名は…死ぬまで追って殺す――でしたけ?」


「あぁ…だからな――」



 カードルが言い切る前にカイは回復を終え、カードルから遠くに走り出す。ここからのセリフは考えなくても分かる。



「――死ねぇぇぇ!」


「もう、薬に飲まれてるじゃないですか!『守れ』【障壁】✕7」



 魔法陣、発動【身体強化】!


 魔法で足止めをしてカイは森を抜けようと走りだす。また、ここで終わったはずの捕まってはいけない鬼ごっこが始まった。



































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