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1-4 歌人・紫苑との出会い

翌朝。朝陽が障子越しに柔らかな光を差し込む。蓮は布団の中で微かに伸びをしながら、目を覚ました。昨日の出来事が一気に蘇り、再び胸がざわつく。


(……まだここにいるんだな。)


静かに溜め息をつくと、襖の向こうから控えめな声が聞こえてきた。


「櫻華様、お目覚めでしょうか?」


「……ああ、起きてる。」


蓮の返事を聞いた侍女が静かに襖を開け、頭を下げる。


「本日は朝のお支度を整えますので、どうぞこちらへ。」


蓮は戸惑いながらも侍女たちに従い、用意された着物の前に座る。手際よく帯を締める侍女たちの動きを見ながら、蓮は改めて自分の状況を考えていた。


(これが俺の日常になるのか……。)


細やかな刺繍の施された着物を身に纏うと、侍女の一人が微笑みながら言った。


「本日は天候も良く、お庭の散策が最適かと存じます。」


「庭か……外の空気も吸いたいし、行ってみるか。」



侍女たちに案内されながら庭へ出ると、澄んだ空気と咲き誇る花々の香りが蓮を包み込んだ。久しぶりに感じる自然の息吹に、蓮は少し肩の力を抜いた。


(……ここは現実なのか、夢なのか。分からないけど、景色は悪くないな。)


庭を歩いていると、少し離れた場所に紫の衣を纏った男の姿が見えた。端正な顔立ちに穏やかな笑みを浮かべ、彼もまた庭を散策しているようだった。


「あら、櫻華様。」


彼は蓮に気づくと、ゆったりとした所作で近づいてきた。


「お目覚めになられたと聞いて、安心しました。」


(……この人は……。)


蓮は胸の中でみゆの解説を思い出す。「この人が紫苑、宮廷歌人で穏やかだけど、執着心が強いタイプのDom」――その説明が目の前の男と一致する。


「……ああ、目覚めたばかりだけど、なんとか元気だ。」


自然を装いつつ返事をするが、紫苑はどこか不思議そうに蓮を見つめている。その視線に内心焦りながら、蓮は話題を変えようと試みた。


「それにしても、この庭は綺麗だな。紫苑……さんがよく手入れしてるのか?」


「ふふ、私は歌を詠むだけで精一杯です。庭の美しさを守っているのは庭師の功績ですよ。」


彼の穏やかな笑みに蓮はほっとしたが、その次の言葉に再び緊張が走る。


「しかし……櫻華様、少し変わられたような?」


その言葉に、蓮は思わず息を呑んだ。紫苑の視線が、まるで蓮の内面を見透かすように鋭くなった気がする。


(……やばい。バレたか?)


蓮はなんとか動揺を押し殺し、言葉を選びながら返事をする。


「そ、そうか? 体がまだ本調子じゃないからかもしれない。」


「なるほど、そうかもしれませんね。」


紫苑は一瞬首をかしげたが、それ以上は追及してこなかった。蓮は安堵しながらも、さらに慎重に言葉を続ける。


「そういえば、俺……いや、私は、どんなふうに見えていたんだろうか?」


「櫻華様が、ですか?」


「ああ……自分では分からなくて。」


紫苑は一瞬考えるような表情を見せた後、静かに語り始めた。


「櫻華様は、優雅で知的。神楽様のSubとして、どこか近寄りがたい雰囲気をお持ちでしたが、心根の優しさは多くの人々に伝わっていたと思いますよ。」


(優雅で知的……俺とは正反対じゃないか。)


蓮は心の中で苦笑しながらも、相槌を打つ。


「そっか……参考になるよ。ありがとう。」


「いえ、櫻華様のお姿が戻られて本当に嬉しいです。」


紫苑は穏やかに微笑んだが、その視線の奥には何かを探るような気配があった。その微妙な空気感に気づきながらも、蓮は平静を装った。



その後、庭の散歩を終えて部屋に戻ると、蓮は大きく息をついた。


(……この調子で、どれだけ隠し通せるんだ?)


紫苑の穏やかな笑顔の裏に潜む違和感を思い出し、蓮は次に備えなければならないことを痛感していた。

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