表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/30

2-2

第二章 第二話: 言霊の試練


神殿の静寂を切り裂くように、久遠の低い声が響き渡った。彼は神官らしい堂々とした立ち姿で、手に持った巻物を広げる。


「それでは、試練の第一段階『言霊の契り』の説明を行う。この試練は、ドムとサブが互いの信頼を示すものだ。ドムはサブにコマンドを与え、サブはそれに従うことで信頼の証を立てる。……コマンドの成否によって試練の評価が左右されるだろう。」


「またコマンドか……。」


蓮が小さく呟いた。かつての経験が頭をよぎり、彼の表情はわずかに曇る。すぐそばに立つ神楽は、その呟きを聞き逃さなかった。


「お前、さっきから不満そうだな。」


「そりゃそうだろ。」蓮はやや皮肉っぽく笑う。「信頼って言うなら、こんな形式ばったコマンドで試す意味があるのかって話だ。」


神楽はそれに返事をしなかったが、わずかに目を細めた。その冷静な瞳の奥には、何か思うところがあるようだった。



久遠は続ける。


「今回の試練は、巫女とドムが一組ずつ進めることになる。先陣は――透花と頼光だ。」


その瞬間、透花は少し驚きながらも、頼光を見上げて意を決したように頷いた。頼光は力強く笑い、透花の肩を軽く叩く。


「お前なら大丈夫だ。俺がちゃんと導いてやるからな。」


「はいっ、頼光様……!」


そのやり取りに、蓮は自然と視線を落とす。透花が頼光と一緒に試練へ向かう姿に、彼女の真っ直ぐな信頼が見て取れた。


(ああいう感じが……本当の信頼なのかね。)


一方で、自分と神楽はどうだろう、と蓮はふと思う。神楽は今まで蓮に無理やり従わせようとしたことはない。それは神楽の優しさとも言えるし、逆に「サブとして扱いきれない」と思われる危険性もある――


「蓮、行くぞ。」


神楽の低い声が蓮の思考を遮った。気がつけば、透花と頼光が先行し、蓮と神楽は控え室で待つよう久遠に指示されていた。



控え室に移動すると、静かな空気が二人を包んだ。雅な屏風と、わずかな陽光が差し込むこの部屋には、余計な音が一切ない。蓮は、神楽と二人きりの状況に少し居心地の悪さを感じていた。


「……なあ。」


「なんだ。」


「こういう試練って、どれくらい前からあるんだろうな。やっぱ伝統とか、そういうやつか?」


蓮はふと疑問を口にする。少しでもこの空気を紛らわせたかったのだ。神楽は静かに蓮を見つめ、淡々と答えた。


「そうだ。『契りの試練』は雅国において、ドムとサブの関係を示す大切な儀式だ。古くから続いているものだと聞く。」


「……伝統ねぇ。」


蓮は天井を仰ぎながら、深く息を吐く。神楽は蓮の横顔を見つめ、少しだけ目を伏せた。


「お前がこういうものを好まないのは知っている。」


「は?」


「だが、今は必要なことだ。」


神楽の言葉には、何か決意のようなものが滲んでいた。蓮は一瞬、何かを言い返そうとしたが、その真剣な表情を見て口をつぐんだ。


「……わかってるよ。別に逃げるつもりはない。」


蓮がそう言うと、神楽はわずかに口元を緩めた。二人の間に短い沈黙が流れる。透花と頼光の試練が進んでいる間、彼らにはまだ時間があったが、心の中はどこか落ち着かない。


(……信頼ね。)


蓮は再び自分の胸に手を当て、言霊の試練とは一体何なのか――その本質を考え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ