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1-16 巫女との初対面

数日後。


蓮は布団から起き上がると、自分の体が驚くほど軽くなっていることに気づいた。高熱で体中が鉛のように重かった数日前が嘘のようだ。鏡台に映る顔色も良くなり、完全に体調が戻ったことを実感する。


だが、その安堵も束の間、部屋に入ってきた侍女たちに囲まれ、あれよあれよという間に支度を整えられていた。


「櫻華様、本日は巫女様と初めてお会いになる日でございます。失礼のないよう、きちんと整えておかねばなりません。」


侍女たちの真剣な様子に、蓮は一瞬だけ戸惑うも、次第に苛立ちが湧いてくる。


「いや、待て。俺はまだ状況を何も聞いてないんだけど。」


蓮が言葉を挟もうとするが、侍女たちは止まる気配もなく、髪を整え、着物の襟をきっちりと正していく。

本来はもっと早くに面会する予定が、俺が逃げ出した上に熱を出して寝込んでいたせいで遅くなったらしい。


「巫女様はとても高貴なお方。櫻華様も神楽様の特別なサブとして、しっかりと振る舞わなくてはなりません。」


「だからって、ここまできっちりやらなくても――」


不満を口にする蓮だったが、侍女たちはにこやかに微笑みながら手を動かし続ける。髪に櫛を入れ、軽やかに整えると、そのまま彼を立ち上がらせた。


「はい、完成です。」


鏡に映る自分を見て、蓮は思わず目を丸くする。着物の色合いや帯の結び方に隙がなく、それでいて自然な雰囲気を保った仕上がりだ。


「……すげぇな。職人技かよ。」


ぼそりと呟く蓮に、侍女たちは満足げに微笑む。


「では、櫻華様、巫女様のもとへお連れしますね。」


「……おい、勝手に話を進めるな!」


蓮は慌てて言うが、侍女たちはにこやかに促し、部屋の外へと誘導していく。結局、蓮は抵抗する間もなくそのまま廊下を歩かされることになった。


(巫女って……なんでわざわざ俺が会わなきゃいけないんだよ。)


蓮は半ば強引に進められる状況に不満を抱えつつも、どこか恐怖も感じていた。この「巫女」という人物の召喚を恐れて、元の櫻華の魂の持ち主が逃げた結果、足を滑らせて池に転落したという記憶が頭をよぎる。


やがて一行が広間に到着すると、扉の前で侍女たちが軽く頭を下げた。


「巫女様がお待ちです。どうぞお入りください。」


蓮は一瞬立ち止まり、扉の向こうを見つめる。緊張とは違う、不思議な感覚が胸の奥に広がる。


(……巫女か。どんな奴なんだろうな。)


侍女たちに促され、蓮はゆっくりと扉を開けた。その先には、雅やかな雰囲気に包まれた空間が広がり、そこに一人の女性が座していた。


透き通るような肌に、淡い色の着物を纏ったその人物――巫女の透花は、蓮に向かって少し怯えたような表情を浮かべていた。その瞳には、「櫻華蓮」という名を聞いたときの、恐れと戸惑いが入り混じった感情が宿っている。


(なんだ、この顔……まるで俺を知ってるみたいだ。)


蓮はその違和感に、ただ透花を見つめ返すことしかできなかった。


「俺は蓮。それで……君が巫女の透花?」


蓮が差し出した手を見て、透花は一瞬戸惑い、次にじんわりと涙が滲むような表情を浮かべた。


「……は、はじめまして……櫻華様……」


蓮はその返答に思わず苦笑した。


「『様』はいいよ。ただの蓮でいい。」


その言葉に、透花は驚きながらも小さく頷いた。蓮の穏やかな態度は、透花に安心感を与えたようだった。


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