表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ルンバになりたい

作者: 左内

 ルンバになった夢を見た。

 あの平べったいお掃除ロボット。

 魅力的なピロピロを振って進むキュートなロボット。


 わたしはその夢の中で人々の足元、何もない床をゆっくり這っている。

 白い、白い床。

 そこは誰の目も届かなくて、冷たくて居心地がよくて、わたしはゆったりと時折現れるゴミを食む。

 糸くずわたボコリ髪の毛紙くず食べこぼし、たくさん食べて、それが人のためになる。


 わたしは人知れず役に立つ、そんな存在。

 誰の目にも触れなくたって、誰の誉め言葉もなくたって、わたしは誰かの役に立つ。


 だから、夢が覚めたとき、わたしはしばらく呆然として、それから静かに泣いた。


 学校にわたしの居場所はない。

 みんなの目が、わたしを隅に追い立てて崖っぷちから突き落とす。

 敵を、それもクソみたいに弱くて醜い敵を見る目。


 でも本当はみんなはわたしのことなんて見ない。

 知ってもいない。

 わたしも知らない。

 わたしのいる意味も生きてる価値も。


 先生にも親にも言えない。

 多分信じてもらえない。

 それに説明なんてできない。

 痛み、痛みが、痛いんだ。


 だから、わたしは学校にいる間ずっと意識を体の外に出して、そしてひたすら外からわたし自身を押しつぶす。

 小さな、体積ほとんどゼロの誰の邪魔もしないただの点になるように。


 なのに我慢した痛みが、押しつぶした痛みが、集まって、固まって、わっと叫び出したくなって、わたしはカッターナイフを取り出してその薄い薄い刃の鋭い鋭い刃先とそれが切り裂く肉とその裂け目から吹き出る血の色を想像して、想像して、想像するだけで何もできない。

 わたしはただ声を押し殺して静かに泣く。

 だからやり方を変えることを決めたんだ。


 わたしは何にも気にされない誰の目にも止まらない、そんなものを世界から切り取って自分に貼っていく。

 薄める。

 ふわっと軽く。

 ついには誰の目にも見えなくなるように。


 わたしは、わたしは、ルンバになりたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ